アルプス技研 Research Memo(4):新卒採用及び稼働人数の拡大、契約単価の向上が業績の伸びをけん引
■業績推移
1. 過去の業績推移(連結)
これまでの業績を振り返ると、技術社員数の拡大とともに順調に伸びてきた。特に2014年12月期以降は厳しい採用環境が続くなかで毎年250名~300名規模の新卒を採用するとともに、早期稼働を実現してきたことが業績の伸びをけん引している。専門性の高い分野で毎年約250名~300名規模の新卒や80名規模のグローバル人材※1を採用するとともに、チーム化の推進※2等により早期に育て上げ、高い稼働率を維持してきたのはアルプス技研<4641>ならではの成長モデルと言えるだろう。また「稼働人数」と並んで重要な業績指標である「契約単価」※3についても、各々のキャリアプランに基づく能力開発プログラムや計画的なローテーションにより毎年着実に市場評価を高めてきた(ただし、2020年12月期はコロナ禍に起因する一過性要因により減少した)。さらには、連結子会社であるアルプスビジネスサービスやパナR&Dとの連携、海外事業の拡大に加え、新規事業の農業関連分野を手掛けるアルプスアグリキャリアも連結業績の伸びに貢献してきた。コロナ禍の影響を受けた2020年12月期から2021年12月期についても、重視する業績指標の本質的なトレンドに大きな変化はなく、同社事業の底堅さを確認することができたと言える。
※1 2021年12月期は入国制限の影響によりグローバル人材の採用はできなかったものの、2022年12月は前期からの入国待機者を含めて、約170名を採用した。
※2 チーム単位(複数名)で派遣することにより新人は先輩技術者の指導・教育を受けながら業務を遂行することができるため、早期戦略化が可能となる。派遣先にとっても安心感のある仕組みとして評価されているようだ。
※3 顧客との契約に基づく「1時間当たりの単価」。売上を構成する「実単価」と異なり、残業代を含まない。
損益面でも売上高の拡大に伴って増益基調をたどるとともに営業利益率も改善し、ここ数年は10%を超える高い水準で推移してきた。コロナ禍の影響を受けた2020年12月期から2021年12月期についても10%前後の営業利益率を確保するとともに、2022年12月期は10.7%の水準に回復している。
また財務面では、現金及び預金の増加などに伴って総資産が拡大したものの、自己資本比率は60%以上の水準を確保してきた。一方、資本効率性を示すROEも年々上昇し、2017年12月期以降は20%を超える水準で推移していることから、同社の財務内容は極めて優れていると評価できる。また、潤沢な手元流動性(現金及び預金)は不測の事態に対するバッファーになるとともに、成長に向けた戦略の幅を広げることから、M&Aを含めた今後の動向にも注視する必要がある。
2. 2022年12月期業績の概要
2022年12月期の連結業績は、売上高が前期比11.2%増の43,647百万円、営業利益が同19.9%増の4,649百万円、経常利益が同0.3%減の4,560百万円、親会社株主に帰属する当期純利益(以下、最終利益)が同10.4%増の3,416百万円と計画を上回る大幅な増収増益(経常利益を除く)となり、過去最高業績を更新した。
製造業界はサプライチェーンの混乱や原材料価格の高騰による減産など、依然として先行き不透明な状況にあるものの、好調な半導体関連やソフト開発、次世代車の開発が激化する自動車業界などを中心として研究開発投資は底堅く、稼働人数の拡大(高稼働率の維持)や契約単価の改善が業績の伸びをけん引した。また、グローバル事業についても、需要が拡大している半導体業界向けを中心に大きく拡大した。
損益面でも、増収に伴う収益の底上げや稼働率の回復に伴う利益率の向上により大幅な営業増益を実現し、営業利益率は10.7%(前期は9.9%)に改善した。一方、経常利益が減益となったのは雇用調整助成金の剥落によるものであり、その点は想定内としている。
財務面では、増収に伴う「売上債権」や「現金及び預金」の増加などにより総資産が前期末比7.7%増の24,274百万円に拡大した。また、「自己資本」も内部留保の積み増しにより同7.4%増の15,687百万円に拡大したことから、自己資本比率は64.6%(前期末は64.8%)とほぼ同水準で推移した。
(1) アウトソーシング事業
売上高は前期比7.0%増の40,141百万円、セグメント利益は同20.7%増の4,430百万円となった。技術社員数の増加及び稼働率の回復により稼働人数が拡大したことや、契約単価が改善したことにより順調に伸長した。
重視する業績指標(単体)である技術社員数は4,165名(前期末比196名増)、稼働人数は3,985名(同279名増)と増加した。1人当たりの契約単価についても、前期の一時的な落ち込みから4,059円(同38円増)に改善した。通期平均の稼働率は新卒技術者(330名)を含めて96.1%(前期は93.6%)を確保し、コロナ禍以前の高水準に回復してきた。業種別売上高では、DXの進展に伴って需要が拡大している半導体関連やソフト開発などが好調であったほか、環境対応を含む次世代車の開発が激化する自動車関連も引き続き堅調に推移した。成長分野への対応が業績の伸びに寄与したとの見方ができる。
また、グループ各社については、アルプスビジネスサービス及びパナR&Dが堅調に推移した一方、農業関連分野を手掛けるアルプスアグリキャリアについては、コロナ禍に伴う入国制限による影響※により、足元業績の伸びは緩やかなものとなった。また、訪問介護サービスを展開しているアルプスケアハートについても、神奈川県を中心に事務所を増設したものの、まだ本格的な業績貢献の段階にはない。
※前期において外国人材の受け入れができなかったことが、2022年12月期の業績にも響いた。
損益面では、新規事業はまだ費用先行の段階であるが、増収による収益の底上げに加え、稼働率の回復や契約単価の上昇によりセグメント利益率は11.0%(前期は9.8%)に大きく改善し、大幅な増益を実現することができた。
(2) グローバル事業
売上高は前期比101.3%増の3,505百万円、セグメント利益は同7.3%増の216百万円となった。需要が拡大している半導体業界を中心に、新規案件の受注獲得と人材サービス事業の拡大が業績の伸びに寄与した。ただ、セグメント利益率が6.2%(前期は11.6%)に低下したのは、一部の採算性の低い案件が影響したようだ。
3. 2022年12月期の総括
2022年12月期を総括すると、製造業界全般には依然として先行き不透明感があるなかで、成長分野へのシフトを迅速に進め業績の伸びを実現したところは、同社の真骨頂として評価できるポイントである。活動面についても、採用競争が激化するなかで、入国制限が緩和されてきた外国人材の獲得を含め人材確保において一定の成果を挙げることができたこと、新規事業においても着実な進展を図ったことは、今後に向けてプラスの材料と言えるだろう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
《SI》
提供:フィスコ