ナノキャリア Research Memo(1):「mRNA医薬」のIP創出企業へビジネスモデル転換
■要約
ナノキャリア<4571>は、1996年にドラックデリバリーシステムのプラットフォーム技術「ミセル化ナノ粒子」発明者ら2名とともに設立されたバイオベンチャーである。自社技術をベースにした抗がん剤の開発を進めていたが、2023年1月26日、世界的に急激に市場が形成され、今後さらなる拡大が見込まれる「mRNA医薬」のIP創出企業へのビジネスモデル転換を発表した。
同社は、2020年にmRNA医薬などの核酸医薬を手掛けるアキュルナを吸収合併したことを契機に、次世代医薬品の中核となる核酸医薬でがん領域以外にも対象とする疾患領域を拡大した。特に、COVID-19ワクチンにより新たなモダリティ技術として認知されたmRNA医薬は、ワクチンとして以外に治療薬としても広く適応されると考えられ、世界では既に開発競争がスタートしている。同社はアキュルナから引き継いだmRNA医薬の開発によるmRNA医薬の豊富な経験と実績を基盤に、国内パイオニアとして、mRNA医薬に特化した研究開発を重点項目とし、パイプライン候補を創出し非臨床ステージでライセンスアウトする方針だ。
同社は、2022年12月16日付けで代表取締役に秋永士朗(あきながしろう)氏が就任した。秋永氏は抗がん剤開発/核酸創薬領域のエキスパート研究者で、同社が2020年9月に吸収合併したアキュルナ(株)の代表取締役を務めた。メッセンジャーRNA(mRNA)に特化して非臨床開発まで実施しmRNA医薬のパイプライン候補を創出、このタイミングで早期導出を目指すローリスクハイリターン型経営への転換を図る。ビジネスモデルの変換、アクセリード(株)との包括的協業関係契約の締結などを実行しており、同社の赤字体質の早期改善に期待したい。
1. ビジネスモデルの変換
同社は、2022年にNC-6004の第IIb相臨床試験及び、VB-111の開発を中止した。これを受けて同社はビジネスモデルを見直し、核酸医薬開発及びDDS技術の知見を生かし、製造や開発などの分野でアクセリード及び傘下企業との協業を実施することで効率的に複数のmRNA医薬の創薬及び知財獲得を進め非臨床ステージで製薬企業にライセンスアウトを行う、すなわち、mRMA医薬のパイプライン候補を同時並行でインキュベートしmRNA治療薬の知的財産(以下、IP)を創出するIP Generator企業へのビジネスモデルへの変換を目指す。
2. 最近の提携動向
同社は2023年1月、アクセリードとmRNA医薬品の研究開発・製造に関する包括的協業関係に関する契約を締結した。両社は変形性関節症(OA)に対するmRNAを用いた治療薬開発のための合弁会社(株)PrimRNA(プライムルナ)を共同設立しているが、新しいmRNA医薬ビジネスを推進するに当たり、mRNA医薬品の非臨床試験・製造に関する一連の業務において包括的協業関係を構築することを目的に本契約を締結した。これにより、新規mRNA創薬ターゲットの創出、製造、非臨床試験の実施、新規医薬品候補IPの創出、製薬会社へのIPの売却まで、ワンストップ対応を推進していく。
また、これまでに手掛けてきたmRNA以外のパイプラインの一つであるENT103は、耳鼻咽喉科のスペシャリティーファーマと共同開発を実施してきた。中耳炎を対象に国内で本格的な臨床試験を四半世紀ぶりに実施し、2022年4月に、外耳炎および中耳炎を対象に製造販売承認申請を実施した。1年程度で承認される見通しであり、薬価収載を経て2023年度前半には販売に至る計画で、経営基盤強化につながる製品となる予定だ。
■Key Points
・mRNA治療薬のIPを創出するIP Generator企業へビジネスモデルを変換
・アクセリードとmRNA医薬品の非臨床試験・製造に関する包括的協業関係に関する契約を締結
・耳科用抗菌薬ENT103は2023年度前半には販売の見通し
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
《NS》
提供:フィスコ