サンワテクノス Research Memo(6):2025年3月期に営業利益70億円を目指す。順調な滑り出し(1)
■サンワテクノス<8137>の長期ビジョンと中期経営計画
2. 中期経営計画「SNS2024 (Sun-Wa New Stage 2024)」
(1) 経営数値目標
2023年3月期からスタートした中期経営計画では、KGIに「営業利益」を設定した。従来は「売上高」を重視し、売上高を拡大すれば利益も自ずとついてくるという考え方であったが、市場環境変化のスピードが速くなり、市場も成熟化が進むなかで必ずしも売上高の拡大が利益成長につながる時代ではなくなってきたという認識に改め、利益を起点とした経営戦略を打ち出した。
具体的な業績目標としては、2025年3月期に売上高で1,950億円、営業利益で70億円とした(為替前提レート115円/ドル)。営業利益率は2022年3月期の3.1%から3.6%に引き上げ、主に売上総利益率の上昇を見込んでいる。また、海外売上比率(海外事業会社売上÷連結売上高)については、2022年3月期の38%から2025年3月期に40%に引き上げる。計画初年度となる2023年3月期は、業績見通しを期初計画から上方修正するなど順調な滑り出しを見せている。同社では、2025年3月期の業績目標が達成できれば、次のステップとして2028年3月期に売上高2,500億円、営業利益100億円を目指すことになる。
(2) 戦略方針とその進捗及び成果について
「SNS2024」で取り組む基本方針として同社は、a)イノベーションが求められる成長分野への注力、b)より高付加価値な製品と新たなソリューションの提供、c)サステナビリティ経営による持続可能な社会の実現に貢献、の3点を掲げ、これらを遂行することで業績目標につなげる考えだ。
a) イノベーションが求められる成長分野への注力
同社ではリソースを投入する顧客セグメントを、同社の強みと市場の魅力度(市場規模、成長率、利益率)を両軸にして、「積極的リソースを投入する分野」「選択的リソースを投入する分野」「その他分野」に分類し、顧客セグメント別に事業戦略を立案、実行することで売上総利益の拡大を目指す。
積極的リソースを投入する分野は、半導体製造装置、ロボット・マウンター、工作機械の3分野とした。半導体製造装置分野については半導体産業が国策として重要分野として位置付けられ、経済安全保障の観点からもさらなる成長が期待できるため、同社の強みが発揮できる重要セグメントと位置付けている。主な戦略として、顧客と性能向上につながる共同テーマの獲得、コスト低減につながるユニット組立の提案、新規有望顧客獲得のために必要となる仕入先の開拓を挙げ、これらを実行することにより売上総利益で年率15%以上の成長を目標に掲げた。2023年3月期上期の取り組み状況としては、顧客企業の経営トップとのミーティングによりニーズを深掘りし、メーカーと連携して提案力を強化しているほか、同社が強みを発揮できるエンジニアリング事業の提案を推進している。また新規提案商材として、海外の屈折率計・露点計メーカーと連携して積極的な同行訪問を実施しており、売上総利益については目標どおり順調に伸びているようだ。
ロボット・マウンター分野に関しては技術革新が著しい高成長分野であり、同社が優位性を発揮しやすいセグメントとなる。主な戦略としては、顧客ごとの製品別インシェアアップや周辺機器の新規顧客開拓を進めるほか、顧客ニーズを集約し、業界に特化した製品の企画にも注力する方針である。これら施策により、売上総利益で年率10%以上の成長を目指す。2023年3月期上期の取り組み状況としては、ターゲット顧客の選定と搭載製品のインシェアの把握を進めているほか、未搭載製品の提案を実施している。また、業界トップクラスの新規顧客の開拓に成功しており、今後の売上貢献が期待できる状況となっている。2023年3月期上期の売上総利益については、スマートフォン市場の低迷に起因したチップマウンター業界の失速により、目標とする成長率を下回っているもののこれら戦略を実行することで、2024年3月期以降の成長加速をねらう。
工作機械分野は、世界のモノづくりを支える「マザーマシン」の高性能化、自動化、デジタル化で成長が見込めるセグメントと位置付けている。主な戦略は、周辺機器の新規顧客開拓、IoT化により重要度が増しているFAPC(産業用コンピュータ)の提案、BCP対策としてグローバルSCMソリューションビジネスの提案などを推進する。これら戦略の実行により、売上総利益で年率10%以上の成長を目指す。2023年3月期上期の取り組み状況としては、ターゲット顧客の拡大を行い、自動化機器のソリューション&コンポーネントの提案をしているほか、提案するFAPCメーカーと販売戦略を策定し、営業活動を進めた。また、グローバルSCMソリューションビジネスの提案先と企画書を作成した。同上期の売上総利益についてはおおむね目標どおりの進捗となったようだ。
一方、選択的リソースを投入する分野としては、FA装置、車載、設備の3分野を挙げている。選択的リソースの投入とは、状況によって資本提携や業務提携などを行い、パートナー企業と協業しながら事業を拡大していくことを意味している。FA装置分野に関しては、顧客層が広く製品品種も多岐に渡るため、同社のなかでは最も売上総利益の規模が大きい分野である。今後の戦略としては、グローバル規模でFAコンポーネント業界に注力するほか、量産アプリケーションを軸とした戦略製品の創出、デジタルツールの積極活用による情報発信の強化の3点を挙げ、これら戦略の実行により売上総利益で年率10%以上の成長を目指す。2023年3月期上期の取り組みとしては、ターゲットとなる大手FA顧客の開拓・深耕を図るべく、グローバル企業の探索・訪問を実施したほか、制御機器・検出機器の拡販及び提案活動に取り組んだ。また、DMやオンライン営業等による情報発信を実施するなどしている。同上期の売上総利益は前年同期比2ケタ増と順調に拡大した。
車載分野に関しては、自動車業界において100年に1度の変革期が到来しており、CASE※などによる車載電装システムの進化と市場拡大が期待できるセグメントと見ている。主な戦略としては、既存製品の横展開による新規顧客の開拓、新規戦略製品のグローバル展開、新規取引先開拓のための組織構築の3点を挙げ、これら戦略の実行により、売上総利益で年率10%以上の成長を目指す。2023年3月期上期の取り組みとしては、新規の有力Tier1メーカーを開拓すべく営業人員の増強を図り、営業活動を推進したほか、差別化できる技術を持ったメーカーとの連携強化を進めた。同上期の売上総利益は、顧客となる自動車メーカーの生産計画が下方修正された影響で目標を下回ったものの、1ケタ台の伸びは確保したようだ。
※CASE:Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(カーシェアリングとサービス)、Electric(電気自動車)の頭文字をとった造語。自動車産業業界において、次世代に向けた動向を象徴するキーワード。
設備分野に関しては対象業界が広く、自動化やサステナビリティ対応への技術的ニーズが高まっているセグメントと位置付けている。主な戦略として、営業とエンジニアリングが一体となった顧客への付加価値提案、食品業界におけるSierとの協業による案件拡大、設備のパッケージ化と横展開による収益性向上等を挙げ、これら戦略の実行により売上総利益で年率10%以上の成長を目指す。2023年3月期上期の取り組みとしては、エンジニアリング部との情報共有により協業顧客を増やしているほか、小売・店舗対応のSierとの協業を進めた。また、バーコード認識による位置決めシステムや3Dカメラを用いたロボットピッキングシステムなどのパッケージ化構想案の策定に取り組んだ。同上期の売上総利益は前年同期比横ばい水準と伸び悩む格好となった。
同社では今後3年間でこれら6分野の売上総利益を合計で41億円増加させることを目標としており(その他分野の売上総利益も拡大を見込む)、同上期についてはFA装置や半導体製造装置分野がけん引し、順調な滑り出しとなった。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
《NS》
提供:フィスコ