オンコリス Research Memo(6):OBP-801は眼科領域で早期ライセンスアウトを目指す方針
■オンコリスバイオファーマ<4588>の開発パイプラインの動向
3. その他パイプライン
(1) OBP-801
OBP-801は分子標的抗がん剤で、幅広いがん種に対する治療効果が期待されている。2015年5月より米国で進行性の固形がん患者を対象に実施していた第1相臨床試験については、用量制限毒性がCohort3の6例中2例で発生したため、現在は新規患者の組み入れを中断しプロトコルの変更を検討している。Cohort2までの臨床結果では、がん細胞を破壊するための血中濃度に達していることから、今後、がん細胞組織がどのように変化しているか詳細な分析を行った上で、抗PD-1抗体との併用療法で臨床試験を継続するかまたは中止するかの判断を2018年中に決定する。
一方、国内では2016年8月に共同研究契約を締結した京都府立医科大学が実施している眼科領域の動物モデルを使った研究が順調に進んでいる。同研究では、緑内障手術後に形成される濾過胞を維持するための薬剤としてOBP-801を投与したところ、同目的で使用されているマイトマイシン(抗癌剤)と比較して高い効果が得られたとしている。濾過胞は眼内にたまった水を逃がす役割を果たすが、その機能が維持できないケースが多く、緑内障の進行につながっていた。また、加齢性黄斑変性症の動物実験でも、症状の進行に影響する新生血管(脈絡膜血管新生)及び網膜の線維化に対する抑制効果が確認されている。加齢性黄斑変性症治療薬としては、現在、ルセンティスやアイリーアなどがあるが、いずれも網膜の線維化抑制作用はなく、OBP-801の長所となる。同社ではこれら研究成果を受け、2018年7月に京都府立医科大学と共同で特許出願を行っている。
なお、眼科領域の製剤開発について同社はノウハウを持たないことから、早期に眼科専門の製薬企業にライセンスアウトする意向を示している。緑内障、加齢性黄斑変性症ともに市場規模が大きいことから、今後の動向が注目される。
(2) OBP-AI-004
2015年7月に鹿児島大学と共同研究契約を締結し、B型肝炎ウイルス(HBV)の治療薬創製に関する共同研究を進めている。現在は、試験管レベルで効果が確認された候補化合物を絞り込んでいる段階で、目途が立ち次第、ネズミによる前臨床試験(1クール10週間)を開始する予定となっている。
B型肝炎については、治療薬を投与してもウイルスの遺伝子が残るため完治することはなく、再活性化した場合の治療薬はまだない。このため、再活性化後は時間とともに肝硬変や肝臓がんに症状が進行することになる。同社では、再活性化の原因が治療薬投与後でもHBs抗原※の量がほとんど変らないことにあると考えている。OBP-AI-004はこのHBs抗原の量を半分程度に低減する効果が試験管レベルで確認されており、HBs抗原の量が低減すれば再活性化リスクの大幅な低減につながるものと見ている。
※HBVの外殻を構成するタンパク質。
B型肝炎の患者数は世界で3.5億人、うち70%がアジア太平洋地域に分布しており、国内の患者数は150万人と言われている。B型肝炎治療薬の市場規模は2021年に世界で4,200億円程度まで成長すると見られているだけに、開発が進めば市場の注目度も一気に高まるものと期待される。
主要パイプラインの物質特許を各国で取得済み
4. 特許取得状況
主要パイプラインであるテロメライシンの特許権は同社と関西TLO(株)が共同保有しており、海外では同社が単独で保有権を持っている。現在、日米欧を含む24ヶ国で特許を取得している。また、テロメスキャンについては同社が特許権を保有しており日欧含む10ヶ国で、テロメスキャンF35については日米欧中を含む8ヶ国以上で特許を取得するなど、知財戦略についても重要な経営戦略の1つとして位置付けている。
■業績動向と財務状況
1. 2018年12月期第2四半期累計業績の概要
オンコリスバイオファーマ<4588>の2018年12月期第2四半期累計業績は、売上高が90百万円(前年同期は19百万円)、営業損失が643百万円(同509百万円の損失)、経常損失が639百万円(同517百万円の損失)、四半期純損失が641百万円(同518百万円の損失)となった。
売上高は、医薬品事業でテロメライシンに関するMedigenからの開発協力金収入※1を計上したことが増収要因となっている。検査事業はテロメスキャンの販売及びアカデミアからの研究目的受託検査収入を計上したものの、前年同期の19百万円から4百万円に減少した。費用面では、国内での食道がんの臨床試験開始を主因として研究開発費が前年同期比100百万円増の308百万円となったほか、臨床試験進展に伴う研究開発費やテロメライシン製剤改良実施権許諾に伴う特許関連費用の発生が営業損失の拡大要因となっている。また、営業損失の拡大と2018年2月に米バイオベンチャーのアンリーシュ※2に出資したことに伴い現預金が減少している。
※1 テロメライシンの治験費用が膨らむなかで、開発費用の負担軽減を目的にMedigenとの共同開発契約の改定を2017年3月に実施。従来、対象を肝細胞がんのみとしていたのに対して、新たに食道がんとメラノーマの共同開発権も付与した。これにより食道がん、メラノーマの研究開発費用の一部をMedigenから開発協力金として受領している。
※2 アンリーシュはアデノウイルス研究の専門家であるワシントン大学医学部教授が2015年に設立したベンチャーで、全身投与による転移性腫瘍への適応を目指した遺伝子改変アデノウイルスの開発を進めている。同社が現在、進めている次世代テロメライシンの開発と方向性が同じであることから出資に至った。
2. 2018年12月期の業績見通し
2018年12月期の業績見通しは期初計画を据え置いている。売上高は前期比0.4%増の230百万円、利益面ではすべての項目で1,400百万円の損失を見込んでいる。売上高については前期同様、マイルストーン収入の獲得やMedigenからの開発協力金収入、テロメスキャンの販売収入等により前期並みの水準となる見通し。マイルストーン収入に関してはハンルイから入る可能性がある。
費用面では、国内外での治験進捗に伴う研究開発費の増加(前期比130百万円増の700百万円)や特許関連費用の増加などを見込んでいる。第2四半期までの研究開発費の進捗率が44.1%とやや低いが、これは米国でのメラノーマの臨床試験が遅れ気味となっていることが要因。また、OBP-801の米国での臨床試験も一旦、中断したこともあり、通期も計画をやや下回る可能性がある。
テロメライシン、テロメスキャンの新規契約に注力し、早期の収益化と成長拡大フェーズへの移行を目指す
3. 中長期の成長イメージ
現状、同社の収入はMedigenからの開発協力金収入と既存契約先からのマイルストーン収入、及びテロメスキャンの販売、受託検査収入等に限られており、期間損失が続いている状況にある。黒字化の時期としては、テロメライシンの食道がんを対象とした新規ライセンス契約締結が1つのタイミングになると考えられる。前述したように、他の腫瘍溶解ウイルスではライセンス契約やM&Aにより数百億円規模のディールが実施されているためだ。テロメライシンについても、岡山大学医学部による臨床研究の学会発表以降、注目度が上がっており、複数の国内外の製薬企業と交渉を進める段階にきている。米国でも食道がんを対象にテロメライシンを使った臨床試験が開始される見込みとなっており、ライセンス契約締結の可能性は以前よりも高まったと弊社では見ている。2019年1月には米国の腫瘍学会において、国立がん研究センター東病院で実施されている食道がん患者に対する医師主導治験(ペムブロリズマブとの併用療法)に関する中間報告が発表される予定になっており、この結果が良ければ一気に契約締結まで進み、2019年12月期に黒字化する可能性もある。
当面はテロメライシン、テロメスキャンの新規契約による収益化を目指していくが、中長期的には新規パイプラインの開拓・開発、次世代テロメライシンの開発による新規契約などを進めていくことで更なる成長拡大フェーズに移行していくことを目指している。
4. 財務状況
オンコリスバイオファーマ<4588>の2018年12月期第2四半期末の財務状況を見ると、総資産は前期末比717百万円減少の2,808百万円となった。主な変動要因を見ると、流動資産で現預金が1,015百万円減少した一方で、固定資産で投資有価証券が265百万円、関係会社株式が90百万円増加している。2018年2月にアンリーシュが新たに発行した転換社債300万ドルを引き受けたこと(すべて権利行使した場合、議決権比率は約27%となる見込み)、及びアンリーシュが保有するプレシジョン※の株式を33万ドルで取得したこと(議決権比率は約23%)が増加要因となっている。
※腫瘍溶解ウイルスを開発するワシントン大学発のバイオベンチャーで、2017年3月に資本提携契約を締結している。
負債合計は前期末比76百万円減少の518百万円となった。有利子負債が26百万円減少したほか、未払金が40百万円減少した。また、純資産合計は641百万円減少の2,290百万円となった。四半期純損失641百万円を計上したことによる。
なお、同社は研究開発資金の調達を目的に、2018年6月に第三者割当による新株予約権の発行を決議している(潜在株式数220万株、下限行使価額393円)。7月末までの行使率は37.5%と順調に進んでおり、435百万円を調達したことになる。未行使分を行使価額500円ですべて行使したとすると、残り7億円弱を調達できることになる。2018年12月期第2四半期末の現預金残高は1,852百万円のため、業績が計画どおりに推移し、特別のキャッシュアウトがなければ2018年12月期末時点の現預金残高は20億円程度の水準になると予想される。このため、同社では食道がんを対象としたテロメライシンの早期導出を目指している。学会での臨床研究の結果発表を契機に、国内外の製薬企業からの関心も高まっているようで、同社では2019年春までに契約締結を実現させたい考えだ。腫瘍溶解ウイルスのライセンス契約では数百億円規模のディールとなるケースもあることから、今後の動向が注目される。
■株主還元策
開発ステージのため、無配を継続
同社は現在、研究開発が先行する開発ステージの企業であり、業績は損失が続いていることから、配当は実施していない。今後、期間損益で安定的に利益計上できるようになり、内部留保が充実した段階において、配当についても検討していくものと考えられる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
《TN》
提供:フィスコ