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【特集】森田潤(ちばぎんアセットマネジメント)が斬る ―どうなる?半年後の株価と為替―

 世界の株式相場が米トランプ政権の関税政策に揺れている。米国が貿易相手国に同水準の関税を課す「相互関税」を発表し、中国政府も報復関税を発動。相互関税の一部停止の期限を迎える7月上旬までに米国と諸外国の関税交渉が進展するのか、期待と疑念が株式相場を動かす展開が続いている。米国では関税に加えて、国境管理の厳格化などを受けたインフレへの懸念が根強く、マクロ経済には先行き不透明感が漂う。また、トランプ米大統領が「就任から24時間以内に終わらせる」と豪語したロシア・ウクライナ戦争も収束のメドはついていない。

 金融・資本市場が「トランプ相場」の様相を呈する中、アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」や「半年後の為替」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第37回は、ちばぎんアセットマネジメントの森田潤調査部長に話を聞いた。

●森田潤(もりたじゅん)
ちばぎんアセットマネジメント株式会社 調査部長。1971年生まれ。1993年慶応義塾大学法学部卒業、株式会社千葉銀行入行。ちばぎんアセットマネジメントで日本株ファンドマネージャーとして12年超運用業務を行ったほか、銀行本体のポートフォリオ運用やトレーディング業務も担当。また、銀行・証券で投資信託商品の企画・選定・推進を行うなど、多様な角度からマーケット関連業務に携わる。2020年より現職。

森田潤氏の予測 4つのポイント
(1)半年後の日経平均株価は3万9000円程度
(2)半年後のダウ工業株30種平均は4万4000ドル程度
(3)テールリスクはベッセント米財務長官の更迭
(4)注目するセクターは日本ではソフトウェア、小売り、機械関連


――米トランプ政権による関税政策などの影響で、世界の株式相場が動揺しています。半年後(11月末)の日米の株価水準をどう予測していますか。

森田:トランプ政権の誕生以降、株価の予測が非常に難しくなっています。トランプ氏の政治・経済政策の先行きが読めず、しかも株価に大きな影響を与えるためです。これまでの「業績相場」から「トランプ相場」に変わったと言えるでしょう。日経平均株価が1日当たり1000円以上変動することも珍しくなくなっています。

 あえて予測するなら、私は半年後の日経平均株価を3万9000円程度だと考えています。半年後のダウ工業株30種平均は4万4000ドル程度だと予測しています。円相場は1ドル=150円程度とみています。

図1 日経平均株価(週足)
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――足もとでは株価に回復の兆しもうかがえますが、トランプ政権の動き次第でさらなる変動が起こる可能性もあるということですね。予測の背景を教えて下さい。

森田:米国の景気は今後、減速するものの、腰折れは回避するでしょう。このため、株価は現状よりもやや上昇します。トランプ関税により、7月以降、さらなる物価高が予測されるため、米国は足もとでは駆け込み需要がありますが、いずれ物価高により個人消費、設備投資など内需に減速感が出てきます。関税が上がった分をどのくらい企業が負担するのかはわかりませんが、高水準の相互関税がかかるようなら企業も価格に反映せざるを得なくなります。自動車も値上がりは避けられません。

――米国経済は1~3月期の実質国内総生産(GDP)が3年ぶりのマイナス成長に陥るなど、すでに減速感があります。物価のさらなる上昇は景気後退につながりかねませんか。

森田:私は深い景気後退にはならないと考えています。理由は景気減速が鮮明になれば、FRB(米連邦準備理事会)が利下げに踏み切るからです。フェデラルファンド(FF)レートの誘導目標は4.25~4.5%で利下げ余地は十分にあります。FRBは景気の腰折れや雇用悪化に陥らないよう配慮しながら、年2回くらいは利下げするでしょう。中長期的には、トランプ関税を受けて企業が生産拠点を米国に移す動きも出てくるとみられます。

――トランプ関税をきっかけに、物価上昇と景気停滞が同時に進むスタグフレーションが起こる可能性を心配する声もあります。

森田:引き上げられた関税が財やサービスの価格に上乗せされることで「関税インフレ」が起こります。このため、結果的にスタグフレーションに近い形になるでしょう。ただ、関税も極端に高くはならないように思います。米国は高関税を維持したいわけでなく、中国など相手国と交渉したがっているためです。

 足もとではサービス価格が落ち着き、値下がりする財も出てきています。景気が減速しつつあることもあり、現状は需要の増加による「ディマンドプル・インフレ」ではありません。景気がスローダウンすれば需要が減り、雇用は増えづらくなります。このため、懸念されていた賃金インフレも起こりにくくなります。

図2 米国消費者物価指数CPI(前年同月比)の推移
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―― とはいえ、米国と中国の政治経済面での摩擦は続いています。

森田:私は第一次トランプ政権時の2018~2019年の頃に近い状況を想定しています。協議の進展と難航を繰り返しながら、第一次合意にこぎつけると見ています。ただ、4年前と違い、中国は米国依存度をかなり下げています。前回は中国が妥協しましたが、今回は米国がある程度折れざるを得ないのではないかと思います。米国が中国から輸入しているプラスチック製品や玩具などは米国で生産しても利益が出づらいものが大半です。今年のクリスマスシーズンに入っても玩具の価格が高騰していれば、26年秋の中間選挙に大きな悪影響があります。

――国内株式市場では関税交渉の進展への期待も出て、ひとまず株価も回復基調に見えます。

森田:関税交渉の進展期待はもちろん、円相場の上昇がひとまず止まったことが大きいと思います。トランプ関税の行方が不透明であるため、日銀による利上げ観測が後退しました。世界の政治・経済情勢が落ち着いてくれば、年明けくらいに日銀が利上げするかもしれませんが、当面は難しい状況です。

図3 ドル・円(週足)
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――米景気の動向以外で日本株の予測の背景はありますか。

森田:日本特有の原因としては、企業の自社株買いのペースが上がっていることです。自社株買いにより株式数が減り、1株当たりの利益が増える結果、株価は上がりやすくなります。また、自己株式は純資産にマイナスで計上されるため、純資産が減少する結果、ROE(自己資本利益率)が上昇し、株価にはプラスに働きます。日本企業の自社株買いや自社株買いの枠設定も増えており、今年度も自社株買いが過去最高を更新する可能性があると思います。

――これまで株式相場を引っ張ってきた半導体株ですが、その株高に陰りが出てきています。

森田:これまでは半導体など特定のセクターに過度に注目が集まっていました。AI(人工知能)バブルに近い状態だったのが、今は落ち着いてきたということです。バブルではなくなっても、今後も半導体の需要がなくなるわけでなく、悲観する必要はありません。資金が偏在していた状況が変わり、株価が全体として伸びていくということになると思います。 

――注目するセクターを教えて下さい。

森田:日本では関税の影響を受けづらい小売りやソフトウェア関連など内需株に注目しています。特にDX(デジタルトランスフォーメーション)を通じた生産性の向上は、関税に関係なく必要ですから、ソフトウェア関連の需要は拡大し続けると考えています。

 中期的にはトランプ関税を受けた世界的なサプライチェーンの見直しに注目しています。「米国で販売するものは米国で生産する」となれば、生産設備を米国に輸出する必要がありますから、日本の機械メーカーに恩恵があるでしょう。

――世界の株式市場にテールリスク(確率は低いが発生すると影響が大きいリスク)があるとすれば何でしょうか。

森田:マクロ経済政策に精通した良識派とされるベッセント米財務長官が更迭されるリスクです。貿易相手国との関税交渉が米国にとってうまく進まず、トランプ政権の対外交渉の強硬派が発言力を強めた場合、ベッセント氏が辞任に追い込まれる可能性は否定できません。あくまでテールリスクですが、注意する必要があるでしょう。

(※聞き手は日高広太郎)

◆日高広太郎(ジャーナリスト、広報コンサルティング会社代表)
【タイトル】
1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証1部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。2022年5月に著書「B to B広報 最強の戦略術」(すばる舎)を出版。内外情勢調査会の講師も務め、YouTubeにて「【BIZ】ダイジェスト 今こそ中小企業もアピールが必要なワケ」が配信中。


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