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【市況】カナダ政局は混迷へ【フィスコ・コラム】


退陣するトルドー・カナダ首相の後任にカーニー自由党党首が14日に就任。隣国アメリカのトランプ政権から高関税を突き付けられ、どう対応するのか注目されます。実利に重きを置いた現実路線なら弱腰と批判されかねず、早期退陣のリスクもあります。


カーニー氏は米ゴールドマン・サックス証券などを経て、2008年からカナダ銀行(中銀)総裁を務め、その年の金融危機を乗り越えました。2015年からイングランド銀行の総裁に就任。イギリスの欧州連合(EU)離脱に伴う混乱のなか、金融の安定に奔走しました。主要2中銀の総裁を歴任する異例の経歴を持ち、今月9日に行われたカナダ自由党の党首選に出馬し当選、党勢の立て直しに乗り出します。


長年友好関係を維持してきたアメリカから関税引き上げ措置を提示され、政治家としての経験が乏しいカーニー氏はさっそくリーダーとしての力量が試されそうです。トランプ氏はカナダを「51番目の州」と揶揄(やゆ)し、カナダ国民の愛国心に火を付けました。トルドー政権は実際、乳製品市場の開放により国内産業に打撃を与え、対トランプ政権で終始弱腰と批判され続けた経緯があります。


一方、国内政治に関しては、10月までに総選挙を行う予定。野党・保守党はトルドー氏の不人気で大きく支持を広げ、優位な立場にありました。が、カーニー氏を党首に選出した自由党が持ち直し、現時点では互角に。自由党はこの勢いを維持しながら解散・総選挙に打って出る可能性が指摘されます。世界的に既存の政治体質を嫌う傾向が強まっており、政治家の経験がない方が、かえって有利になるとみられます。


ただ、カーニー自由党が総選挙に勝利しても、政権運営は茨の道でしょう。最も重要な課題は対米関係の調整となります。トランプ政権が貿易赤字の是正を掲げるなか、カナダの主要輸出品である自動車やエネルギー製品に対する関税引き上げの可能性も否定できません。これに対抗し強硬な姿勢を貫けば、経済的な打撃を受けることは避けられず、国内の企業や労働者から反発を招くでしょう。


気候変動対策を重視するカーニー氏の方針が、エネルギー産業の多いアルバータ州などの経済とどのように折り合いをつけるのかも焦点となります。一方で、トランプ政権との協調を優先すれば、「譲歩ばかりの政権」との批判が高まり、支持率の低下につながる可能性があります。このジレンマのなかで、カーニー氏がどのようなバランスを取るのかが、今後の政権の命運を左右することになります。

(吉池 威)
※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

《ST》

 提供:フィスコ

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