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【特集】石油の供給過剰見通しは「幻」か?現実への回帰は相場の浮力に <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司

 昨年から念仏のように繰り返され、 原油相場を圧迫している言葉がある。それが「供給過剰見通し」であり、金融情報大手のロイター通信やブルームバーグなどが配信しているニュースや、ニューヨーク市場の引け後の概況でしばしば目にする。国際エネルギー機関(IEA)が今年の供給過剰を見通していることから、ロイターやブルームバーグもこれに便乗して、相場を圧迫する要因として指摘する傾向にある。

●昨年末にかけて商業在庫は減少傾向

 ただ、石油輸出国機構(OPEC)が発表する月報で、経済協力開発機構(OECD)加盟国の商業在庫は昨年11月の時点では27億7000万バレルで推移しており、増加する兆候は見られない。OECD商業在庫は昨年1月と11月を比較するとほぼ横ばいである。IEAが予想している供給過剰は確認できず、むしろ昨年末にかけて商業在庫は穏やかに減少する傾向にある。

 OECD商業在庫は、世界の石油市場をカバーする代表的な石油在庫である。インドや中国などの消費大国が含まれていないにしても、OECD商業在庫の増減を予想することは、原油相場の行方を占うこととほぼ同義である。供給過剰の兆候が未だに見えないなかで、IEAの供給過剰見通しを頼りに、弱気に構えることは妥当なのだろうか。

 OECD商業在庫は発表されるまでに1ヵ月半間程度のタイムラグがあり、昨年12月分については今週12日のOPEC月報で確認可能だが、このタイムラグを補足してくれるのが米エネルギー情報局(EIA)の週報である。直近のEIA週報で、戦略石油備蓄(SPR)を除く原油と石油製品の在庫の合計は12億1064万2000バレルまで減少し、2022年12月以来の低水準を更新したことからすれば、年初にかけてもOECD商業在庫は減少傾向を維持している可能性が高い。

●25年初頭の需給バランスは需要超過の可能性

 トランプ米大統領が米石油企業に増産を催促しているため、世界最大級の産油国である米国の生産量拡大が続く可能性があるほか、石油輸出国機構(OPEC)プラスが4月から予定通りに減産を縮小すれば、IEAが想定するように供給過剰となるかもしれない。ただ、EIA週報からすると、2025年初頭にかけての需給バランスはどちらかといえば需要超過である。見通しは人様々であるとしても、供給過剰見通しにこだわるIEAの態度は理解不能である。閉鎖のうえ米国務省に吸収される米国際開発局(USAID)が世界中の大手メディアに資金を供与し、米政権に都合の良い情報だけを流すプロパガンダを行っていたことが明らかとなっており、根拠のあまり伴わない供給過剰観測もプロパガンダの一環なのだろうか。世界全体の5分の1の石油を消費する米国にとって、エネルギー高は悪である。

 まだ北半球は冬場であるが、例年で言えば2、3月と米国のガソリン需要は上向く。世界最大の石油消費国である米国のガソリン消費は、世界全体の石油消費の10分の1近くを占めるほど膨大であり、季節的な需要の変動は相場を容易く左右する。今年もそろそろガソリン需要が上向き、需給の引き締まりに寄与する可能性が高い。それでも供給過剰期待は相場を圧迫するのだろうか。供給過剰見通しという幻から解放されれば、原油相場は2023年から続くレンジ相場から抜け出すかもしれない。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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