【市況】インドルピーは最安値更新中【フィスコ・コラム】
米ドル/円 <日足> 「株探」多機能チャートより
変動しにくい通貨ペアとして知られるドル・インドルピーがじり高となり、ルピーは最安値を更新中です。インド準備銀行(中銀)が中国人民元との連動を容認しているためだと指摘されます。インド経済の失速で株安に振れ、ルピー安は当面続きそうな地合いです。
ドル・ルピーの今年の値幅は高安3%程度。ここまで16%のドル・円に比べれば、「凪(なぎ)と言えます。9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)に向け大幅利下げ観測が高まった際に、ドルが急落しルピー高に振れる場面もありました。しかし、米大統領選後のルピーは小幅ながら下落基調が鮮明になっています。米トランプ次期政権の政策運営を見込んだドル買いだけがその要因とは言い切れません。
トランプ次期政権は中国に対する関税引き上げの方針を表明し、対中政策の本気度を示しています。中国はアメリカの関税強化による影響を内需拡大で相殺する戦略とみられ、中国政府は元安を容認するスタンス。同時に、インド中銀は人民元と連動したルピーの下落を受け入れているもよう。米大統領選前の84.12ルピーから弱含み、節目の85ルピーを目指す展開となっています。
ルピー高により中国製品の輸入が増加すれば貿易赤字は拡大するため、貿易収支の悪化を抑制しようとインドは一定以上のルピー高を避けたい考え。ルピーが人民元高に連動するのはそうした背景があるようです。インド中銀の外貨準備高は界第4位。潤沢な外貨準備で過度な下落を抑えてきたものの、通貨安が続けばインド当局は大胆な財政・金融政策を取りにくくなります。
11月29日に発表されたインドの7-9月期国内総生産(GDP)は前年比+5.4%で、4-6月期の+6.7%と市場予想の+6.5%、さらに中銀予想の+7.0%をそれぞれ大きく下回りました。特に都市部は食品の値上がりや高金利、実質賃金の伸び悩みで低迷しました。個人消費が落ち込み、製造業のダメージが指摘されています。このペースだと、通年では中銀予測を下回る+6.2%程度にとどまると予想されます。
インド株価指数SENSEXはNY市場の強気相場に追随し、夏場に一時86000ポイント台まで水準を切り上げました。ただ、インフレの高止まりで中銀は引き締め姿勢を堅持し、それが景気の低迷に加えルピー安の要因にもなっています。同指数の6月以来の安値圏からの戻りは限定的。世界経済を牽引してきたインドの減速は、新しい年に向け暗い影を落としています。
(吉池 威)
※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。
《ST》
提供:フィスコ