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【特集】イランがイスラエルに報復攻撃し原油高に、イスラエルはためらわず反撃か<コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司

●激化必至の中東情勢

 イスラエル軍はレバノンを空爆し、イスラム組織ヒズボラの指導者であるナスララ師を殺害した。原油相場を左右する中東情勢を眺めるうえで、ガザ停戦を繰り返し主張してきたナスララ師の殉教は衝撃的だった。イスラエルがパレスチナ侵攻を開始してから1年が経過しようとしているが、ガザでの殺戮に直接的に対抗してきたのはハマスを除けばヒズボラとイエメンのアンサール・アッラー(フーシ派)だけである。ナスララ師はイスラエルへの攻撃停止と引き換えに、ガザ停戦を繰り返し要求していた。

 レバノンにおける通信機器の爆発テロからイスラエルとヒズボラの軍事衝突が激化し、米国やフランスなどが停戦に向けて動きつつあったなか、イスラエルは停戦交渉相手のトップを唐突に殺害した。ナスララ師の地下壕の場所を正確に特定したイスラエルの諜報能力にも驚くが、打ち込まれた地中貫通爆弾(バンカーバスター)は80発超とも伝わっており、殺意の強さには言葉も出ない。

 イスラエルとヒズボラの衝突がさらに激化しようとも、中東からの原油の供給に混乱はなさそうだが、パレスチナ自治区だけでなく、レバノンにも人道的に必要な最低限のルールすらなくなっている。レバノンの死者数はすでに1000人を上回った。軍事力を行使するハードルが非常に低い。理想論的に対話を尊重しようとする従来の世界にとっては悪夢である。イランの最高指導者ハメネイ師は安全な場所へ避難済みのようだが、イスラエルの諜報網から逃れられるのだろうか。核保有国イスラエルには一切のためらいがなく、西側各国は停戦の必要性を空虚に主張する一方でイスラエルへの軍事支援を継続しており、何が起こっても不思議ではない。イスラエルに弾薬不足はない。

●衝突の最前線に引きずり出されたイラン

 報道によると、イスラム組織ハマスの最高幹部だったイスマイル・ハニヤ氏が7月末にイランでイスラエルに暗殺された一件で、イランはパレスチナ自治区ガザやレバノンの停戦と引き換えにイスラエルへの反撃を見送ると米国や欧州に約束したという。イスラエルのネタニヤフ首相がヒズボラに停戦を持ちかけ、イランやヒズボラが前向きに停戦を協議したとの報道もある。ただ、ナスララ師の殺害を受けて、イランのペゼシュキアン大統領はようやく騙されたと気付いたようだ。

 ペゼシュキアン大統領は米国や欧州が停戦についてイランに嘘をついたと述べたようだが、この発言が事実ならば、イラン最高指導者ハメネイ師も含めて、一時的にでもこの結果的に間違っていた停戦見通しを受け入れていたことになる。ハニヤ氏が暗殺された後、イランはイスラエルに対する報復を示唆しつつも何ら行動を起こさなかった背景はこの安易な見通しにあると思われる。

 ただ、米国や欧州各国がイスラエルに指図する立場にないことは明らかであり、イランが主従関係を認識していなかったとは到底思えない。イスラエルは従う側ではない。米国や欧州が停戦を約束したからといって、イスラエルが攻撃をやめると本当に思っていたのだろうか。理解不能である。

 ナスララ師の死亡が確認された後、イスラエルはレバノン南部への地上侵攻を開始した。今はヒズボラを追い詰める好機である。ただ、イランがイスラエルに対する報復攻撃をようやく実施したため、イスラエルはヒズボラではなく、イランを中心的な標的に変更する可能性が高い。

 今年、イスラエルはシリアのイラン大使館を空爆したほか、イスマイル・ハニヤ氏のほか、ナスララ師を殺害した。殺害されたパレスチナ人は数え切れない。度重なる挑発でも対立を本格化させようとしないイランを、イスラエルが衝突の最前線へ引きずり出そうとしてきたことは疑いようがない。イスラエルにとって今回のイランの報復攻撃は、天敵であるイランを壊滅させるチャンスである。イスラエルがイラン攻撃を開始して中東戦争が始まるなら、米国、英国、フランス、ドイツなど西側各国は口先で自制を要求しつつ、イスラエルを支援するだろう。後ろ盾が常に確保されているイスラエルは尻込みするだろうか。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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