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【市況】経済減速とトランプ・トレード~時価総額上位銘柄の占有率拡大余地は?【フィリップ証券】

 7月第1週で発表された6月分の経済指標は、米国経済の減速を浮き彫りにするものだった。ISM(供給管理協会)の景況指数は、製造業(総合)が48.3と、経済活動の拡大・縮小の境目である50を3ヵ月連続で割り込んだことに加え、非製造業(総合)も48.8と、5月の53.8から大幅低下。2020年5月以来の低水準となった。同年5月以降、非製造業(総合)が50を割ったのは22年12月(49.0)、24年4月(49.4)しかない。

 長期実質金利を意味する米国物価連動国債(TIPS)10年物利回りが2%近辺と高止まりを続ける中で、お金を借りて設備投資に回す需要は減退せざるを得ない。23年10月からの財政年度における月次財政赤字の年度累積額(5月まで)が前年同期比で同水準の約1兆2000億ドルと、2年前同期の4262億ドルから大幅に拡大したペースが続き、景気を支えてきたものの息切れが感じられる。

 8日発表の6月の雇用統計も、失業率上昇に加えて非農業部門雇用者増加数が4月・5月ともに大幅に下方修正された。トランプ前大統領の大統領選当選の「確トラ(確実にトランプ)」シナリオを織り込んで、関税による輸入物価上昇と移民規制に基づく人手不足でインフレ進行→景気敏感・バリュー銘柄シフト(トランプ・トレード)が進むかに見えたが、巻き戻しを余儀なくされそうだ。

 他方、景気減速による長期金利低下は、アップル<AAPL>やマイクロソフト<MSFT>、メタ・プラットフォームズ<META>、テスラ<TSLA>などグロースの大型ハイテク株を中心とした時価総額上位銘柄への資金流入を促しやすい。それがS&P500やナスダックなど時価総額加重平均型の指数を押し上げ、米国株の底堅さを印象付けることに繋がる。「強いものがさらに強くなる」特定少数銘柄の占有率の拡大が限界に達するのを試しているのが足元の相場動向といえそうだ。

 相場の主役を張っていたエヌビディア<NVDA>に対しては一足早く投資判断を「買い」から「中立」に引き下げるアナリストが出始めた。エヌビディアに関しては、株式分割権利落ち日近辺の120ドルを中心とした上下20ドル近辺のレンジ相場が当面の基本線となるのではないだろうか。

 上記のような投資環境の中では、米国経済の減速を基本としてディフェンシブ銘柄を重視すべきタイミングだろう。バイオテクノロジーや医療機器関連の4-6月決算は要注目だろう。原油価格が下落する局面では「トランプ・トレード」を意識したエネルギー関連銘柄も要検討だろう。その他、勢いのあるブランド銘柄や、ブロックチェーン関連銘柄に注目したい。


関連銘柄


バイオジェン<BIIB> 市場:NASDAQ・・・2024/8/1に2024/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定

・1978年設立のバイオ医薬品企業。神経疾患の治療医薬品を手掛け、再発性多発性硬化症(MS)治療薬、クローン病治療薬、非ホジキンリンパ腫、関節リウマチ治療薬などを主要製品とする。

・4/24発表の2024/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比7.0%減の22.90億USD、非GAAPの調整後EPSは同7.9%増の4.05USD。主力のMS治療薬は同4%減収もフリードライヒ運動失調症薬「スカイクラリス」とアルツハイマー薬「レケンビ」の成長および研究開発費など費用最適化が貢献した。

・通期会社計画は、売上高が前期比1桁台前半~半ばの減少率、調整後EPSが同2-9%増の15.0-16.0USDで従来計画据え置き。日本のエーザイ <4523> [東証P]と共同開発の「レケンビ」は1Qが前四半期比約3倍の1900万USD。投与前のPETスキャン検査への公的保険が認められて以降は堅調。軽度認知障害への適用拡大が今後の課題。スカイクラリスの1Qは前四半期比40%増。この2点が次回決算の焦点。


GSK<GSK> 市場:NYSE・・・2024/7/31に2024/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定

・1716年設立の英国の製薬会社。腫瘍領域やHIV領域で幅広い製品ポートフォリオを有し、癌・ワクチン・専門薬に重点を置いた開発のほか、日本でも著名な消費者向けヘルスケア製品も手がける。

・5/1発表の2024/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比5.9%増の73.63億GBP(ポンド)、一時的要因の影響を除く非IFRSのコアEPSが同16.5%増の43.1GBP。コア営業利益率が同3.1ポイント上昇の33.2%、営業活動キャッシュフローが同3.9倍の11.26億GBPと堅調。ドルベースでそれぞれ上振れ。

・通期会社計画を上方修正。コアEPSを前期比8-10%増(従来計画6-8%増)とした。売上高は同-7%増で従来計画を据え置きもレンジ上限近く。昨年度発売した呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症予防ワクチン「アレックスビー」がワクチン事業を牽引(23年度が前期比20%増収)。今年7/3に独キュアバック(CVAC)とライセンス契約締結発表。m(メッセンジャー)RNAベースのインフルエンザワクチン開発で進展。


モデルナ<MRNA> 市場:NASDAQ・・・2024/8/2に2024/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定

・2010年設立のバイオテクノロジー企業。感染症、がん免疫、心血管疾患に係るmRNAによる治療薬とワクチンの発見・開発に注力し、臨床試験段階のバイオテクノロジーに関わる。

・5/2発表の2024/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比91.0%減の1.67億USD、EPSが前年同期0.19USDから▲3.07USDへ赤字転落。唯一製品の新型コロナワクチン販売減の一方、総営業費用が同35.7%減。5/31、60歳以上対象に呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症向けワクチン承認を取得。

・通期会社計画は、RSVワクチンを中心に売上高が前期比42%減の40億USD、売上高販売費率が同35.3ポイント低下の35%、研究開発費と販管費の合計額が同9%減の58億USDで従来計画据え置き。同社は7/2、鳥インフルエンザ向けのmRNAワクチン開発のため米政府から1.76億USDの資金提供を受けたと発表。同社は2023年から鳥インフル「H5型」と「H7型」のワクチン開発の治験を実施中。

フィリップ証券
フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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