【特集】早稲アカ Research Memo(5):DX戦略で顧客評価が高まり、2024年3月期は3期連続で過去最高益を更新
早稲アカ <日足> 「株探」多機能チャートより
■業績動向
1. 2024年3月期の業績概要
早稲田アカデミー<4718>の2024年3月期の連結業績は、売上高で前期比7.0%増の32,867百万円、営業利益で同20.4%増の2,889百万円、経常利益で同21.4%増の2,951百万円、親会社株主に帰属する当期純利益で同37.3%増の2,132百万円となり、売上高は13期連続増収、各利益は3期連続で過去最高益を更新した。会社計画比では塾生数が夏場以降伸び悩んだ影響により、売上高で若干下回ったものの、コスト低減に取り組んだことで各利益は計画を上回って着地した。なお、親会社株主に帰属する当期純利益の増益率が大きくなっているのは、賃上げ促進税制の適用に伴う税額控除があったためだ。
(1) 部門別売上高と塾生数の動向
部門別売上高について見ると、小学部が前期比8.6%増の19,488百万円、中学部が同4.8%増の11,654百万円、高校部が同2.3%増の1,566百万円とすべての部門が増収となったが、とりわけ小学部の好調が全体をけん引する格好となった。期中平均塾生数は業界全体が2年連続のマイナス成長となるなかで※、前期比0.9%増の47,355人となり期初計画の2.9%増には届かなかったものの3期連続でプラス成長を維持した。内訳を見ると、小学部が同1.6%増の28,058人、中学部が同0.1%減の16,887人、高校部が同0.9%減の2,410人となり、中学部及び高校部の減少を小学部の伸びでカバーした格好だ。中学部や高校部については少子化の影響で受験倍率が軟化傾向となるなかで、入塾時期を遅らせる傾向が続いており非受験学年の低迷が減少要因となった。各部門の塾生当たり売上単価について見ると、小学部が前期比6.9%増、中学部が同4.9%増、高校部が同3.2%増といずれも上昇した。物価や人件費の上昇に対応するため授業料の値上げを平均で6~7%実施したことが主因だ。
※経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」によると、2023年度における学習塾の受講生徒数は前年度比1.7%減と2年連続でマイナス成長となった。
ここ数年の塾生数の動きを見ると、小学部についてはコロナ禍前の2020年3月期と比較して1.3倍増と大きく伸長し、この間の収益成長のけん引役となった。潜在需要の大きい湾岸エリアで2021年夏に同時に3校(品川校、豊洲校、個別進学館豊洲校)を出校できたことに加えて※、コロナ禍でいち早くオンラインによる授業を開始し、その後も対面型とオンライン型の両方のサービスを選択できる「早稲アカDUAL」のサービスを継続したこと、並びに塾生と塾の接点となる「早稲田アカデミーOnline」の機能を拡充させたことにより、生徒・保護者から高い支持を受けたことが要因と考えられる。
※早稲田アカデミー豊洲校については開校3年目で塾生数が約1,200名となり、同社最大のマンモス校に成長した。
特に、難関中学校を目指す生徒や保護者にとっては、高品質な教育サービスを通塾だけでなく自宅おいても受講できる同社サービスのニーズは高かったようで、2024年春の御三家中6校の合格実績にも如実に表れる格好となった。同社では御三家中6校すべてで前年を上回る合格者を出し、6校合計では前年比77人増加の545人と過去最高の伸長となった。逆に、業界トップの合格実績を誇るSAPIX小学部は前年比61人減少の868人となり、その差が大きく詰まったことになる。合格実績が大きく伸長したもう1つの要因として、2021年より教材を刷新して内容を充実させたことや教務面の改善に取り組んだことが挙げられる。今回の結果を受けて難関中学校を目指す生徒の入塾が増え、2025年以降も合格者数が増加していくものと予想される。一方、高校受験についても私立・国公立問わず首都圏における難関校でいずれも合格実績を伸ばしており、今後の塾生増加につながるものと期待される。
(2) 校舎展開
校舎展開としては、2023年5月に渋谷校3校(ExiV、大学受験部、個別進学館)を1つの建物に集約して増床リニューアルを実施したほか個別進学館練馬校を移転リニューアルし、同年10月に早稲田アカデミー武蔵浦和校の移転・大幅増床を実施するなど、塾生の学習環境の改善並びに塾生数の増加への対応を推進した。渋谷校については老朽化したビルから新築ビルに移転したこともあり、塾生数の増加につながっている。また、2024年3月に大学受験部の校舎内に東進衛星予備校を4校(池袋東口校、渋谷南口校、御茶ノ水駅前校、たまプラーザ北口校)開校した。個別進学館についてはFC校が5校増加し、直営・FC合計で71校となった。
子会社では集学舎において2023年7月に茂原校を開校した。また、2024年1月に幼児未来教育を子会社化した。都内に1歳から6歳までの未就学児を対象とする幼児教室「サン・キッズ」を3校運営しており、売上規模は年間1億円強となる。連結業績には2025年3月期から組み込まれる。
(3) 営業利益の増減要因
2024年3月期の営業利益は前期比489百万円の増益となった。増減要因を見ると、売上高の増加で2,139百万円増となったのに対して、以降が減少費目で人的投資の増加で737百万円(賃上げによる人件費増、研修費・採用費増)、校舎の移転増床等による地代家賃の増加で274百万円、広告宣伝費及び販促費の増加で193百万円、合宿費の増加で84百万円(小学4年生、中学1年生に限定して夏期合宿を4年ぶりに再開)、IT投資や防犯カメラを全教室に導入したことによる償却費等の増加で50百万円、その他費用の増加で311百万円となった。
また、営業利益率は前期比で1.0ポイント上昇の8.8%となった。販管費率は0.5ポイント上昇したものの売上原価率が1.5ポイント改善した。原価率の改善要因は、授業料の値上げを主因とした増収効果によるもので、原材料費率で0.5ポイント、労務費率で0.6ポイント、その他費用で0.4ポイントそれぞれ改善した。一方、販管費については労務費率が0.1ポイント低下したものの、広告宣伝費が0.2ポイント、その他費用が0.4ポイント上昇した。広告宣伝費については、地域別広告宣伝やWebプロモーションを強化したほか、採用強化に向けた広告費を積み増した。また、その他費用については、主に支払手数料の増加(159百万円増加)や株主優待引当金繰入額の増加(41百万円増加)によるものとなっている。
(4) 子会社の業績動向
野田学園についてはコロナ禍の影響もあって既卒生の減少傾向が続いており売上高は低迷したものの、2023年4月より2校から1校に校舎を統合するなど固定費削減を進めたことで損益は改善した。また集学舎は値上げ効果もあって増収となったものの、茂原校を新規開校したことや基幹システムを同社の「WICS」に統合するなど先行投資が嵩んだことで減益となった。水戸アカデミーも同様に「WICS」への統合費用が掛かったものの、前期に個別進学館を開校した効果もあって増収となった。子会社2社については基幹システムを統合したことで、今後間接業務などの効率化が進むものと期待される。また、海外子会社については塾生数の回復により堅調に推移したものと見られる。なお、子会社の業績規模(連結業績から単体業績を減算)は売上高で1,585百万円、営業利益で58百万円となっており、連結業績に与える影響は軽微となっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
《SI》
提供:フィスコ