【市況】平穏が長続きしないことを恐れる 穏やかな日に泡を吹くのは簡単だが、風が強まれば弾ける
米株式市場は異常なくらい落ち着いているが、その分、ウォール街は神経質になっているという。S&P500は今年に入ってすでに14%上昇し、その過程で29回過去最高値を更新した。市場の警戒感を示すボラティリティ指数(VIX)も先週は12を割り込み、約5年ぶりの低水準となっている。
市場の落ち着きには十分な理由がある。FRBが利上げに踏み切っても、景気は誰もが考えていた以上に好調を維持しており、企業業績も再び上昇している。先週の米消費者物価指数(CPI)が予想以上にインフレの鈍化傾向を示し、FOMCで委員は、回数こそ減らしたものの、年後半の利下げ見通しを温存した。それにAIブームも加わり、市場には明るい材料に溢れている。
しかし、過去の経験則が示すように、極端に平穏な時期が持続することは滅多にない。VIXは2005年から2007年にかけてはほぼ現在の水準で取引されていたが、2008年の金融危機の際には80を超える急騰を見せていた。
また、好調な経済と平穏な市場のもう1つの問題点は、投資家が警戒を解き、よりリスクの高い投機的な投資に目を向け、大きなリターンを求めるような環境を作り出してしまうことだという。ストラテジストは「穏やかな日にシャボン玉の泡を吹くのは簡単だが、風が強まればバブルは弾ける」と表現している。投資家は景気後退は食い止められと確信しているため、上手く行っている賭け、特に高騰しているIT・ハイテク株への投資を続けているという。
今週、投資家はFRB高官のスピーチを待っている。今後の方針についての何らかの手掛かりを得るため、彼らのコメントを注意深く分析するだろう。
2022年後半に今回の強気相場がスタートして以来、S&P500株価指数は一握りのIT・ハイテク株によって上昇を続けてきた。今年も上昇を牽引する銘柄数は少なくなっており、一部の投資家を不安にさせている。最近の指数への寄与度の高い10銘柄だけで指数全体の36.8%を占め、それは2000年9月以来の高水準となっている。
ストラテジストは「株価指数が数少ない銘柄に偏重すると、他の多くの問題を覆い隠してしまう。最近の市場は、恐怖よりも欲に駆られている。問題はそれが長引けば長引くほど、市場がもろくなるということだ」と警告している。
また、取引量の少なさも、潜在的に厄介な兆候だという。S&P500連動型ETFの最大手であるSPDR・S&P500ETFトラストは、5月と6月に今年最も売買が低調な14日間を記録していた。出来高が少ないということは、投資家に確信がないことを意味する。市場が大きく上昇する時に見たいものが2つあるが、いまはそのどちらもないという。
何が株価を小康状態から脱却させるのかを特定するのは難しい。2000年代初頭とは異なり、いまの大手企業は利益を上げており、バランスシートもしっかりしている。また、2008年の金融危機以前と比べると、企業も個人も負債を抱えることが少なくなっているという。
ウクライナと中東での戦争は地政学的リスクを高めたが、いまのところそれ以上エスカレートしていない。その他のリスクとしては、景気の急減速やインフレの急上昇があるが、それも可能性は低いと見られている。
ただし、投資家にとって未知のリスクこそが最も恐ろしいという。
MINKABU PRESS編集部 野沢卓美
市場の落ち着きには十分な理由がある。FRBが利上げに踏み切っても、景気は誰もが考えていた以上に好調を維持しており、企業業績も再び上昇している。先週の米消費者物価指数(CPI)が予想以上にインフレの鈍化傾向を示し、FOMCで委員は、回数こそ減らしたものの、年後半の利下げ見通しを温存した。それにAIブームも加わり、市場には明るい材料に溢れている。
しかし、過去の経験則が示すように、極端に平穏な時期が持続することは滅多にない。VIXは2005年から2007年にかけてはほぼ現在の水準で取引されていたが、2008年の金融危機の際には80を超える急騰を見せていた。
また、好調な経済と平穏な市場のもう1つの問題点は、投資家が警戒を解き、よりリスクの高い投機的な投資に目を向け、大きなリターンを求めるような環境を作り出してしまうことだという。ストラテジストは「穏やかな日にシャボン玉の泡を吹くのは簡単だが、風が強まればバブルは弾ける」と表現している。投資家は景気後退は食い止められと確信しているため、上手く行っている賭け、特に高騰しているIT・ハイテク株への投資を続けているという。
今週、投資家はFRB高官のスピーチを待っている。今後の方針についての何らかの手掛かりを得るため、彼らのコメントを注意深く分析するだろう。
2022年後半に今回の強気相場がスタートして以来、S&P500株価指数は一握りのIT・ハイテク株によって上昇を続けてきた。今年も上昇を牽引する銘柄数は少なくなっており、一部の投資家を不安にさせている。最近の指数への寄与度の高い10銘柄だけで指数全体の36.8%を占め、それは2000年9月以来の高水準となっている。
ストラテジストは「株価指数が数少ない銘柄に偏重すると、他の多くの問題を覆い隠してしまう。最近の市場は、恐怖よりも欲に駆られている。問題はそれが長引けば長引くほど、市場がもろくなるということだ」と警告している。
また、取引量の少なさも、潜在的に厄介な兆候だという。S&P500連動型ETFの最大手であるSPDR・S&P500ETFトラストは、5月と6月に今年最も売買が低調な14日間を記録していた。出来高が少ないということは、投資家に確信がないことを意味する。市場が大きく上昇する時に見たいものが2つあるが、いまはそのどちらもないという。
何が株価を小康状態から脱却させるのかを特定するのは難しい。2000年代初頭とは異なり、いまの大手企業は利益を上げており、バランスシートもしっかりしている。また、2008年の金融危機以前と比べると、企業も個人も負債を抱えることが少なくなっているという。
ウクライナと中東での戦争は地政学的リスクを高めたが、いまのところそれ以上エスカレートしていない。その他のリスクとしては、景気の急減速やインフレの急上昇があるが、それも可能性は低いと見られている。
ただし、投資家にとって未知のリスクこそが最も恐ろしいという。
MINKABU PRESS編集部 野沢卓美