【市況】米国株はブロックチェーンなどフィンテック含む金融銘柄に注目【フィリップ証券】
7日発表の5月の米国雇用統計は非農業部門雇用者の増加数、平均賃金ともに市場予想を上回る強い内容だった。新型コロナパンデミックが始まった20年3-4月に約2200万人が失業したことを考えるとその後の大幅な雇用拡大は、雇用が中長期的な平均ペースに追いつくにはまだ当面オーバーペースが続かざるを得ないということを示唆したものだろう。
12日に発表された5月の消費者物価指数(CPI)とFOMC(連邦公開市場委員会)結果・パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長記者会見は、市場参加者の利下げに関する見通しや期待を後退させるものではなかった。景気敏感セクターには弱含みの傾向が見られるものの生成AI(人工知能)関連の勢いに衰えはみられず、アップル<AAPL>が勢いを盛り返すなどファイティング・ポーズは健在の模様だ。
ただ、アキレス腱が無いわけではない。特に、これから本格化するとみられる大統領選の行方とともに米国株投資に関しても、国債利払い費の視点が重要性を増す契機になり得よう。
バイデン政権が3/11に公表した2025会計年度(24年10月~25年9月)の予算教書によれば、歳出額(7兆2660億ドル)に対して利払い費が9650億ドルと約13%に達し、これは国防費(8952億ドル)を上回る。米議会予算局(CBO)によれば、利払い費は2025年に過去最高を記録しその後も上昇し続けるとしている。FRBはもはやインフレ退治のために安易にタカ派にはなれないだろう。仮にインフレ退治で政策金利を引き上げれば長期金利上昇とともに米国債の利払い費が膨らむ。連邦政府の財政持続性への信認の問題が絡んできやすい状況だ。大統領選挙に対して中立の立場を維持する上でも、FRBとしては現状近辺の政策金利で時間を稼ぐことが得策との見方に傾きやすく、それは高水準のインフレが続くことを半ば容認することにも繋がりやすいだろう。
そうなった場合、物色すべきセクターとして長期金利上昇の恩恵を受けやすい金融セクターが浮上する。現在の米国株市場は、生成AIに係るAI半導体を中心とした「エヌビディア<NVDA>関連」、およびノボ・ノルディスク<NVO>などが牽引する「肥満症治療薬関連」が相場の柱として期待されている。これらが浮上する前、取引履歴を暗号技術によって過去から1本の鎖のように繋げ、正確な取引履歴を維持しようとする「ブロックチェーン」技術が大きな注目を集めていたことは記憶に新しい。日本でも不動産から得られる収益や所有権をデジタル証券にして小口販売するビジネスが身近となり始めるなか、投機的な期待とともに語られた技術が地に足が着いた現実の世界で開花し始めている面もある。ここは投資の好機ではないだろうか。
関連銘柄
アーチ・キャピタル・グループ<ACGL> 市場:NASDAQ・・・2024/7/26に2024/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定
・1995年設立。バミューダ諸島国籍。子会社を通じ損害保険や再保険、住宅ローン保険を取り扱う。損失後の再建など専門知識を要する特定リスクを対象とした専門保険・再保険の引き受けに注力。
・4/29発表の2024/12期1Q(1-3月)は、総収入保険料(元受と再保険)が前年同期比24%増の59.33億USD、正味収入保険料が同19%増の40.85億USD、引受利益が同29%増の7.36億USD。コンバインド・レシオ(正味収入保険料に対する損害率と事業比率の合計)が同1.8ポイント改善の78.8%。
・2024/12期会社計画は非公表。1Qは非GAAPの営業ベースEPSが同41.6%増の2.45USD。保険、再保険、住宅ローン保険の内、対総収入保険料の構成比で再保険が2019年の30%から今年3月末まで1年間が52%と拡大を継続。参入障壁の高い専門分野比率を高める戦略が利益率向上に寄与。6/7終値予想PER(株価収益率)が11.8倍、PBR(株価純資産倍率)も2.05倍と引き続き割安水準。
アメリカン・エキスプレス<AXP> 市場:NYSE市場:NYSE・・・2024/7/22に2024/12期2Q(4-6月期)の決算発表を予定
・1850年創業の銀行持株会社。クレジットカード発行、法人向け銀行業務、プライベートバンキングなど金融事業のほか、トラベラーズチェック発行、旅行代理業務、旅行傷害保険など旅行関連事業を行う。
・4/19発表の2024/12期1Q(1-3月)は、金利費用控除後の総収益が前年同期比10.6%増の158.01億USD、EPSが同38.8%増の3.33USD。カード会員支出増で決済支出額が同7%増、収益構成比24%の純金利収益が同26%増と業績牽引。貸倒引当金繰入額の同18%増(13億USD)を吸収した。
・通期会社計画は、総収益増収率が前期比9-11%、EPSが同13-17%増の12.65-13.15USDと従来計画を据え置き。カード同業のビザ<V>やマスターカード<MA>と比較した場合、同社はこれら2社にはない純金利収益がインフレ長期化を追い風とする。また、富裕層を引き付ける高いブランド力で著名投資家バフェット氏のバークシャー・ハサウェイ<BRK.B>の同社持ち株比率も20%超に上る。
ヌー・ホールディングス<NU> 市場:NYSE・・・2024/8/15に2024/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定
・2013年設立のブラジルのフィンテック企業。サンパウロ拠点に南米で個人・法人顧客にデジタル金融のプラットフォームを提供。バークシャー・ハサウェイが21年に合計15億USD投資した。
・5/14発表の2024/12期1Q(1-3月)は、総収益が前年同期比69.2%増の27.36億USD、非IFRS調整後純利益が同2.4倍の4.41億USD。3月末世界顧客数が同26%増の9930万人、顧客稼働率が同1.2ポイント上昇の83.2%。前四半期比でも3月末世界顧客数が5.8%増、稼働顧客数が5.9%増と拡大中。
・同社の競争優位性は物理的拠点を持たない低コスト構造により手数料を低く抑えて顧客に還元できる点にある。顧客数が高い伸びを示す中でも1Qの1稼働顧客当たりは月間平均収入が前年同期比33%増(11.4USD)に対し同月間平均コストが横ばい(0.9USD)にとどまる。また、メキシコは、ローンチから19四半期経過後で顧客数やクレジットカード他の市場シェアでブラジルを上回る成長速度。
ビザ<V> 市場:NYSE・・・2024/7/25に2024/9期3Q(4-6月)の決算発表を予定
・1958年にバンク・オブ・アメリカ<BAC>が消費者向けに発行した「BankAmericard」を発祥とするクレジットカード会社。小売り電子決済ネットワーク運営やデータ転送を通じて国際的商取引を提供する。
・4/23発表の2024/9期2Q(1-3月)は、純収益が前年同期比9.9%増の87.75億USD、非GAAPの調整後EPSが同20.1%増の2.51USD。カード決済取扱額が同8%増、決済件数が同11%増。クロスボーダー決済金額も同16%増。インフレの影響が懸念された米国もクレジットカード支出額が同6.2%増。
・通期会社計画は、純収益、営業費ともに前期比2桁台前半の増加率、EPSが同10%台前半の増加率と従来計画を据え置き。同社は21年以降、買収・出資・提携などを通じて金融機関のデータ・機能を外部サービス連携する「オープンバンキング」を進め、新興国で全ての人が金融サービスを利用できるようにする「金融包摂」強化。仮想通貨やブロックチェーン分野でもインフラ構築で先導。
※フィリップ証券より提供されたレポートを掲載しています。
株探ニュース
12日に発表された5月の消費者物価指数(CPI)とFOMC(連邦公開市場委員会)結果・パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長記者会見は、市場参加者の利下げに関する見通しや期待を後退させるものではなかった。景気敏感セクターには弱含みの傾向が見られるものの生成AI(人工知能)関連の勢いに衰えはみられず、アップル<AAPL>が勢いを盛り返すなどファイティング・ポーズは健在の模様だ。
ただ、アキレス腱が無いわけではない。特に、これから本格化するとみられる大統領選の行方とともに米国株投資に関しても、国債利払い費の視点が重要性を増す契機になり得よう。
バイデン政権が3/11に公表した2025会計年度(24年10月~25年9月)の予算教書によれば、歳出額(7兆2660億ドル)に対して利払い費が9650億ドルと約13%に達し、これは国防費(8952億ドル)を上回る。米議会予算局(CBO)によれば、利払い費は2025年に過去最高を記録しその後も上昇し続けるとしている。FRBはもはやインフレ退治のために安易にタカ派にはなれないだろう。仮にインフレ退治で政策金利を引き上げれば長期金利上昇とともに米国債の利払い費が膨らむ。連邦政府の財政持続性への信認の問題が絡んできやすい状況だ。大統領選挙に対して中立の立場を維持する上でも、FRBとしては現状近辺の政策金利で時間を稼ぐことが得策との見方に傾きやすく、それは高水準のインフレが続くことを半ば容認することにも繋がりやすいだろう。
そうなった場合、物色すべきセクターとして長期金利上昇の恩恵を受けやすい金融セクターが浮上する。現在の米国株市場は、生成AIに係るAI半導体を中心とした「エヌビディア<NVDA>関連」、およびノボ・ノルディスク<NVO>などが牽引する「肥満症治療薬関連」が相場の柱として期待されている。これらが浮上する前、取引履歴を暗号技術によって過去から1本の鎖のように繋げ、正確な取引履歴を維持しようとする「ブロックチェーン」技術が大きな注目を集めていたことは記憶に新しい。日本でも不動産から得られる収益や所有権をデジタル証券にして小口販売するビジネスが身近となり始めるなか、投機的な期待とともに語られた技術が地に足が着いた現実の世界で開花し始めている面もある。ここは投資の好機ではないだろうか。
関連銘柄
アーチ・キャピタル・グループ<ACGL> 市場:NASDAQ・・・2024/7/26に2024/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定
・1995年設立。バミューダ諸島国籍。子会社を通じ損害保険や再保険、住宅ローン保険を取り扱う。損失後の再建など専門知識を要する特定リスクを対象とした専門保険・再保険の引き受けに注力。
・4/29発表の2024/12期1Q(1-3月)は、総収入保険料(元受と再保険)が前年同期比24%増の59.33億USD、正味収入保険料が同19%増の40.85億USD、引受利益が同29%増の7.36億USD。コンバインド・レシオ(正味収入保険料に対する損害率と事業比率の合計)が同1.8ポイント改善の78.8%。
・2024/12期会社計画は非公表。1Qは非GAAPの営業ベースEPSが同41.6%増の2.45USD。保険、再保険、住宅ローン保険の内、対総収入保険料の構成比で再保険が2019年の30%から今年3月末まで1年間が52%と拡大を継続。参入障壁の高い専門分野比率を高める戦略が利益率向上に寄与。6/7終値予想PER(株価収益率)が11.8倍、PBR(株価純資産倍率)も2.05倍と引き続き割安水準。
アメリカン・エキスプレス<AXP> 市場:NYSE市場:NYSE・・・2024/7/22に2024/12期2Q(4-6月期)の決算発表を予定
・1850年創業の銀行持株会社。クレジットカード発行、法人向け銀行業務、プライベートバンキングなど金融事業のほか、トラベラーズチェック発行、旅行代理業務、旅行傷害保険など旅行関連事業を行う。
・4/19発表の2024/12期1Q(1-3月)は、金利費用控除後の総収益が前年同期比10.6%増の158.01億USD、EPSが同38.8%増の3.33USD。カード会員支出増で決済支出額が同7%増、収益構成比24%の純金利収益が同26%増と業績牽引。貸倒引当金繰入額の同18%増(13億USD)を吸収した。
・通期会社計画は、総収益増収率が前期比9-11%、EPSが同13-17%増の12.65-13.15USDと従来計画を据え置き。カード同業のビザ<V>やマスターカード<MA>と比較した場合、同社はこれら2社にはない純金利収益がインフレ長期化を追い風とする。また、富裕層を引き付ける高いブランド力で著名投資家バフェット氏のバークシャー・ハサウェイ<BRK.B>の同社持ち株比率も20%超に上る。
ヌー・ホールディングス<NU> 市場:NYSE・・・2024/8/15に2024/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定
・2013年設立のブラジルのフィンテック企業。サンパウロ拠点に南米で個人・法人顧客にデジタル金融のプラットフォームを提供。バークシャー・ハサウェイが21年に合計15億USD投資した。
・5/14発表の2024/12期1Q(1-3月)は、総収益が前年同期比69.2%増の27.36億USD、非IFRS調整後純利益が同2.4倍の4.41億USD。3月末世界顧客数が同26%増の9930万人、顧客稼働率が同1.2ポイント上昇の83.2%。前四半期比でも3月末世界顧客数が5.8%増、稼働顧客数が5.9%増と拡大中。
・同社の競争優位性は物理的拠点を持たない低コスト構造により手数料を低く抑えて顧客に還元できる点にある。顧客数が高い伸びを示す中でも1Qの1稼働顧客当たりは月間平均収入が前年同期比33%増(11.4USD)に対し同月間平均コストが横ばい(0.9USD)にとどまる。また、メキシコは、ローンチから19四半期経過後で顧客数やクレジットカード他の市場シェアでブラジルを上回る成長速度。
ビザ<V> 市場:NYSE・・・2024/7/25に2024/9期3Q(4-6月)の決算発表を予定
・1958年にバンク・オブ・アメリカ<BAC>が消費者向けに発行した「BankAmericard」を発祥とするクレジットカード会社。小売り電子決済ネットワーク運営やデータ転送を通じて国際的商取引を提供する。
・4/23発表の2024/9期2Q(1-3月)は、純収益が前年同期比9.9%増の87.75億USD、非GAAPの調整後EPSが同20.1%増の2.51USD。カード決済取扱額が同8%増、決済件数が同11%増。クロスボーダー決済金額も同16%増。インフレの影響が懸念された米国もクレジットカード支出額が同6.2%増。
・通期会社計画は、純収益、営業費ともに前期比2桁台前半の増加率、EPSが同10%台前半の増加率と従来計画を据え置き。同社は21年以降、買収・出資・提携などを通じて金融機関のデータ・機能を外部サービス連携する「オープンバンキング」を進め、新興国で全ての人が金融サービスを利用できるようにする「金融包摂」強化。仮想通貨やブロックチェーン分野でもインフラ構築で先導。
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