【特集】物価高が家計直撃、好況に沸く「ディスカウントストア関連」に熱視線 <株探トップ特集>
消費の二極化が加速している。コロナ禍明け以降、高付加価値商品の強い消費が続く一方、節約志向の高まりもみえている。両者が並走するなか、「消費の二極化」関連銘柄に注目したい。
―高水準の賃上げも歴史的円安、好調な百貨店販売の陰で「消費の二極化」が加速中―
「消費の二極化」が加速している。コロナ禍をきっかけに、円安や原材料高、物流費の上昇などを背景としてさまざまなモノやサービスの価格が引き上げられたが、コロナ禍が明けるとペントアップ需要やリベンジ消費、インバウンド需要の回復などで高額商品や旅行など高付加価値な商品・サービスへの需要が高まり、強い消費が続いているように見える。その一方で、物価高を背景に節約志向を意識した消費も広がっており、「消費の二極化」が叫ばれるようになった。
この傾向は現在も続いており、春季労使交渉(春闘)で大企業を中心に賃上げが広がったことなどから高付加価値商品・サービスへの堅調が予想される一方、中小企業においては賃金の上昇が物価の高騰に追い付いていないと言われている。今後も「消費の二極化」は更に加速するとみられ、関連する企業の業績にも影響を与えそうだ。
●高付加価値商品の販売好調が続く百貨店
日本労働組合総連合会(連合)が4月2日にまとめた春闘の3次集計によると、2024年の賃上げ率は平均で5.24%となった。組合員300人以上の組合の平均が5.28%となった一方、組合員300人未満の中小組合の平均も4.69%となり、比較可能な13年以降で最も高い水準となっている。
これを受けて、物価上昇に見合う賃上げが実現するとの期待感から、大企業に勤める人を中心に高付加価値商品の堅調な販売は続きそうだ。高額消費の代表格である 百貨店の直近発表された決算をみると、高島屋 <8233> [東証P]が4月12日に発表した24年2月期決算では、連結営業利益が459億3700万円(前の期比41.3%増)となった。国内顧客の高額消費やインバウンドが牽引役となったとしており、25年2月期も同500億円(前期比8.8%増)を見込む。また、J.フロント リテイリング <3086> [東証P]も25年2月期は名古屋店の大型改装などの投資費用の増加を織り込むことから伸び率は鈍化する見通しながら、本業のもうけを示す連結事業利益は445億円(前期比0.4%増)の予想と、百貨店を取り巻く環境は好況が続くとみられている。両社をはじめ、三越伊勢丹ホールディングス <3099> [東証P]、エイチ・ツー・オー リテイリング <8242> [東証P]といった百貨店株には引き続き業績動向に注目が必要だろう。
●一方で節約志向が強まる可能性も
一方、今回の春闘の賃上げは、物価高に見合うほどではないとの見方もある。
岸田文雄首相は3月28日に行われた記者会見で「春からの賃上げに加えて、6月からは1人4万円の所得税・住民税減税を行い、可処分所得を下支えする」としたが、一方で、少子化対策の財源として医療保険料と合わせて徴収する「子ども・子育て支援金」の設立を打ち出しており、「実質的な負担は生じない」との説明に反して、賃上げ効果は限定的との見方は根強い。また、足もとで加速する円安も家計を直撃する。
更に、これに追い打ちをかけるのが、食品の相次ぐ値上げだ。帝国データバンクが3月29日に発表した「『食品主要195社』価格改定動向調査」によると、4月の食品値上げは2806品目とされ、23年10月以来6カ月ぶりに2000品目を超える。単月で2000品目を超える値上げが常態化していた前年半ばまでに比べると少ないものの、24年7月までの推移(予定含む)では年内で最も多い水準となる。
食品は必需財(基礎的支出)であるため消費量を削りにくい。一方、家計のエンゲル係数はコロナ禍以降上昇しており、食品価格の値上げはコロナ禍以前よりも家計を圧迫しやすくなっている。その結果、食品や日用品など生活必需品の価格に敏感になるといった消費行動が顕著になり、節約志向が更に高まるとみられている。
●客数増が続くディスカウントストア
こうしたなか、低価格を強みとする企業では、客数の増加が継続している。ディスカウントストア「ドン・キホーテ」などを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス <7532> [東証P]が4月10日に発表した3月度の月別販売高(速報)では、ディスカウント事業の既存店客数は前年同月比3.5%増となった。1月の同1.0%増、2月の同3.3%増を伸び率で上回り、9カ月連続で前年実績を上回ったことになる。同社では上期決算の発表と同時に24年6月期業績予想を連結営業利益で1110億円から1300億円(前期比23.5%増)へ上方修正したが、市場予想では更なる上振れも見込まれている。
岡山県を地盤に西日本地域で大型ディスカウントストアなどを展開する大黒天物産 <2791> [東証P]も客数の増加が続く。4月8日に発表した3月度の月次情報で、全店客数は25カ月連続で前年実績を上回った。売上高も好調で、3月は前年同月比12.7%増と26カ月連続で前年実績を上回っており、足もとの販売好調から第3四半期決算の発表と同時に24年5月期業績予想を連結営業利益で73億5500万円から89億4100万円(前期比98.8%増)へ上方修正した。会社側では「競合他社との価格差がより顕著となり、顧客から圧倒的な支持を得た」ことを要因に挙げており、低価格志向への支持が業績を押し上げた。
●既存店売上高の好調続く
関東圏でディスカウントストアを展開するジェーソン <3080> [東証S]は、3月の既存店売上高が前年同月比2.0%増となり、3カ月連続で前年実績を上回った。特に、主力PB(プライベートブランド)商品の「尚仁沢の天然水」をはじめ食料品が好調に推移。24年2月期は連結営業利益が8億7600万円(前の期比9.4%増)となった。同社では引き続きPB商品によるロープライスを訴求する一方、ローコスト経営の推進で25年2月期も増収増益を見込んでおり、営業利益9億9000万円(前期比13.0%増)と2ケタ増益を計画している。
北陸を中心に日常生活必需品のスーパーセンターを展開するPLANT <7646> [東証S]は、3月の既存店売上高が前年同月比5.6%増となり、13カ月連続で前年実績を上回った。上期の決算発表は4月25日を予定しているが、第1四半期(23年9月21日~12月20日)は単独営業利益5億5500万円(前年同期比2.1倍)と好調な滑り出しだっただけに、期首計画の営業利益8億円(同27.2%増)の上振れが注目されている。なお、24年9月期通期予想では営業利益18億円(前期比14.7%増)を見込む。
静岡県を中心にディスカウントショップ「エスポット」を展開するマキヤ <9890> [東証S]は、3月の売上高が前年同月比13.0%増となり、19カ月連続で前年実績を上回った。24年3月期の決算発表は5月14日を予定しており、連結営業利益21億3000万円(前の期比30.2%増)を見込むが、第3四半期累計(23年4~12月)営業利益は18億1200万円(前年同期比33.5%増)で進捗率は85%と高かっただけに上振れ着地したとの見方が強い。25年3月期も「安心安価」の実践とPB・LB(ローカルブランド)の販売強化などで増益基調が続くとみられている。
このほか、福岡県を中心にディスカウントストアを展開するトライアルホールディングス <141A> [東証G]も既存店売上高の増収が続く。セリア <2782> [東証S]など100円ショップにも注目したい。
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