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【市況】米労働市場の冷え込みは今後も続くのか?

 きょうの8月の米雇用統計で非農業部門雇用者数(NFP)が予想を上回ったことに惑わされてはならず、米労働市場は冷え込んでいる。問題は、その冷え込みが今後も続くかどうかだとの指摘が出ている。

 8月のNFPは18.7万人増となったが、6月と7月分が大幅に下方修正されたため、3カ月平均の雇用増加数は15万人となり、パンデミック直前の2020年2月までの1年間の約19万人を大幅に下回った。一方、失業率は7月の3.5%から3.8%に悪化したが、今回の失業率の上昇は、労働参加率が上昇したことが反映されており、労働市場のひっ迫度合いの低下を示す良いニュースとも考えられている。また、賃金の伸び鈍化も、いずれサービスインフレの鈍化に直結するため、歓迎すべき兆候と言える。平均時給の前月比は7月の0.4%増に対し、0.2%増に鈍化した。

 きょうの米雇用統計はFRBにとっては好都合と思われ、3カ月平均の雇用者数の伸びは、人口増に追いつき、経済を活性化させるために毎月必要とする約10万人増を大きく上回っており、積極利上げを実施して来たFRBが求めてきた結果とほぼ一致しているという。今週発表された、米求人件数が大幅に減少したデータと合わせると、最新の米雇用統計は労働市場の冷え込みを示しているが、崩壊しているわけではない。その他の最近の予想を下回る経済指標と合わせると、FRBは今月のFOMCで金利を据え置く可能性が高いとしている。

 問題はこの流れが続くのかということだ。再び力強さを復活させる可能性もいくつかある。今回の米雇用統計は、トラック運送会社イエローの倒産と、ハリウッドのストライキがなければ、強い内容となっていた可能性もあるという。この2つの出来事が無ければ、月間およそ5万4000人分の雇用が加わったと指摘している。

 また、一部のエコノミストからは、過去の経験則から、8月は季節性もあり、過去10年間のNFPは一貫して上方修正されてきた歴史があるという。失業率の急上昇も、つかの間のことかもしれないとも述べている。失業率は4月から5月にかけて0.3%ポイント上昇したが、その2カ月後には3.5%まで低下していた。

 一方、今回の米雇用統計は労働市場に亀裂が生じ始めていることを示唆する数字もあるという。例えば、人材派遣業は今年に入ってからすべての月で雇用が減少している。人材派遣業は、雇用主がより広範な雇用削減に移る前に派遣社員を解雇する傾向があるため、先行指標と見なされることがある。

 セントルイス連銀は米雇用統計の発表後、労働市場全体の弱体化を示す兆候として、16歳から24歳の高学歴を持たない若者の雇用が減少しているという分析結果を発表した。調査によると、こうした弱い立場の労働者は景気後退の際に最初に解雇されることが多い。そのため、この層の雇用が大幅に減少することは、より大きなトレンドが定着することを示唆している可能性があるという。8月の数字は、すでに今年初めから雇用が減少している若者のさらなる減少を示唆しているとも述べた。これは経済全体の減速が定着し、労働市場で最も弱い立場にある人々の雇用結果に悪影響を及ぼしていることを示す新たな証拠だという。

 いまのところ、本日の米雇用統計は概ね明るい材料であり、FRBの当局者は今回の数字を次回FOMCに持ち越し、その後により多くのデータがこの状況を埋めていくだろうとも述べている。

MINKABU PRESS編集部 野沢卓美

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