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【市況】S&P500 月例レポート ― FRB“別れの利上げ”への見方分かれる (1) ―


S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

●THE S&P 500 MARKET:2023年7月
個人的見解:相場の好調持続(あるいは酔狂な楽観主義者)

 7月も株式市場の上昇は続きました。企業業績が若干引き下げられていた事前予想通りとなり、業績リセッションとはほど遠い結果となったことが背景にあります。こうした状況は、パウエル議長が米連邦準備制度理事会(FRB)はもはや景気後退は見込んでいないと発言した際に用いた「顕著な成長鈍化」という表現で説明できます。しかしながら、市場関係者の間では景気後退の可能性に関して意見が割れているようです。また、FRBがあと1回の利上げを行うかについても意見が分かれていますが、「別れの一回」があるとしても、それが最後の利上げになるとして市場が容認している模様であることは良いニュースと言えるでしょう。また、市場は2024年が利下げの年になると見込んでいます(期待しなければ失望することもありませんが、人々の期待が市場の取引につながります)。

 7月の取引で重要だったことは、リターンのすそ野が広がったことです。値上がり銘柄数と値下がり銘柄数の差は縮小したとはいえ、引き続き値上がり銘柄数が大幅に上回ったことに変わりはありません。6月と7月の2ヵ月間のS&P500指数のトータルリターンは10.03%(6月が6.61%、7月が3.21%)でした。指数上昇への貢献度トップ10の銘柄のリターンへの貢献度は34.4%となっています。8銘柄(7社)の上昇だけで指数全体のリターンをプラスに押し上げた日々は遠い昔となっており(つまり、8銘柄を除けば、市場のリターンはマイナスになっていたということ)、6月1日以降のリターンがマイナスになるためには、331銘柄を指数から除外しなければなりません。

 時価総額の大きさが指数全体のリターンに及ぼす影響が重要でないわけではありませんが(アップル<AAPL>、エヌビディア<NVDA>、そしてテスラ<TSLA>は6-7月の上昇貢献度の上位銘柄であり、その割合は19%と引き続き高く、情報技術セクターの貢献度は24.5%となっています)、騰落率がプラスとなる銘柄が増えたことは、全面的な回復への期待を醸成するのに一役買っています。もちろん、業績好調の小型株が新たに相場の流れに追いつき、大型株に多少の利食い売りが出る動きが、回復見通しに水を差すことはほとんどありませんでした。こうしたトレンドが続き、そして上昇への貢献度の高い銘柄がすでに飽和状態で、割高感が出ているとすれば(アルファベット<GOOG>の90回程度に対し、マイクロソフト<MSFT>は決算説明会でAIについて本当に175回も言及したのでしょうか)、これらの銘柄のリターンへの貢献度は、年初来のトータルリターンに関しては今後徐々に低下していくことになるでしょう。

 しかし、2023年通年で見ると、これまで貢献度の高かった銘柄が主役の座を降りない限り、年初からの5ヵ月間のこれらの銘柄の影響は大きく、リターンの貢献度が上位銘柄に集中した年となるでしょう。

 7月のS&P500指数は6月末の4450.38から3.11%上昇(配当込みのトータルリターンは3.21%)して4588.96で月を終えました。6月は6.47%(同6.61%)上昇しました。過去3ヵ月間では10.06%(同10.51%)の上昇、年初来では19.52%(同20.65%)上昇、過去1年間のリターンは11.11%(同13.02%)の上昇でした。

 7月も6月と同様に、11セクターが揃って上昇し、5月の3セクター、4月の8セクターから増えました。7月のパフォーマンスが最高だったのは7.28%上昇したエネルギーで、年初来では0.50%下落、2021年末比では58.25%の上昇でした。騰落率最下位となったのはヘルスケアで7月に0.85%上昇、年初来では1.49%の下落、2021年末比では4.99%の下落でした。

 7月は値上がり銘柄数と値下がり銘柄数の差が縮小しましたが、引き続き値上がり銘柄数が大幅に上回りました。7月の値上がり銘柄数は362銘柄(6月は454銘柄、5月は124銘柄)で、10%以上値上がりした銘柄数は77銘柄(同152銘柄、同32銘柄)、20%以上値上がりした銘柄数は7銘柄(同20銘柄、同7銘柄)でした。一方、7月の値下がり銘柄数は141銘柄(同49銘柄、同379銘柄)で、10%以上値下がりした銘柄数は12銘柄(同3銘柄、同91銘柄)、20%以上値下がりした銘柄はゼロでした(同ゼロ、同11銘柄)。

 年初来では値上がり銘柄数と値下がり銘柄数の差は拡大しました。7月末時点での値上がり銘柄数は329銘柄(6月末は300銘柄)で、10%以上値上がりした銘柄数は222銘柄、20%以上値上がりした銘柄数は129銘柄で、値下がりした銘柄数は174銘柄(同203銘柄)で、10%以上値下がりした銘柄数が72銘柄、20%以上値下がりした銘柄が19銘柄となりました。

 多くの人が夏季休暇に入る(現在の人通りの少なさや、屋台の数まで減少していることを考慮すると、街角から誰もいなくなるかもしれません)8月は、取引参加者が減少する傾向にあり、街の気温はさらに上昇するでしょう(7月下旬の熱波を経験した後では信じ難いことではありますが)。しかしながら、今はワシントンを訪れるには最高の時期です。上院は9月5日、下院は9月12日まで休会入りするため(とはいえ、次の危機的状況、つまり予算問題に関する密室作業は続けられるでしょう)、都会の活気や賑わいは失われていると思われます。

 8月前半は引き続き企業業績が主要な取引材料となるでしょう。小売業の業績発表では消費者が(どこで)どれだけ支出したかが明らかになります。共和党は8月23日に2024年大統領選に向けた第1回候補者討論会を予定しています(候補者は未定)。24-26日にはジャクソンホール会合が開催されます。この会合のテーマは「グローバル経済の構造シフト」ですが、市場関係者の関心は、9月19-20日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)に関して何らかの示唆があるかどうか、そして銀行に対する新たな資本規制の詳細と実施時期に向けられています。

 S&P500指数は7月に3.11%上昇して4588.96で月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス3.21%)。6月は4450.38で終え、6.47%の上昇(同プラス6.61%)、5月は4179.83で終え、0.25%の上昇(同プラス0.43%)でした。過去3ヵ月では10.06%の上昇(同プラス10.51%)、年初来では19.52%の上昇(同プラス20.65%)、過去1年では11.11%の上昇(同プラス13.02%)でした。2022年は19.44%の下落(同マイナス18.11%)、2021年は26.89%の上昇(同プラス28.71%)、2020年は16.26%の上昇(同プラス18.40%)、2019年は28.88%の上昇(同プラス31.49%)、2018年は6.24%の下落(同マイナス4.38%)でした。2022年1月3日の高値からは4.33%の下落(同マイナス1.83%)、コロナ危機前の2020年2月19日の高値からは35.32%の上昇(同プラス43.06%)でした。

 7月の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)は6月の0.88%から再び0.68%に低下(5月は0.96%、4月は0.92%、3月は1.51%)、年初来では1.11%となりました。2022年は1.83%、2021年は0.97%、2020年は1.51%でした。7月の出来高は、5月に前月比8%増加、6月に同4%増加した後、11%減少し(営業日数調整後)、前年同月比では9%の減少でした。2023年7月までの過去1年では前年比17%増加しました。2022年は同6%の増加でした。

 7月は20営業日中に前日比で1%以上変動した日はありませんでした。6月は1%以上変動した日数は21営業日中4日(上昇が4日、下落は0日)、2%以上変動した日はありませんでした(直近で1%以上下落したのは5月23日)。5月は1%以上変動した日数は22営業日中5日(上昇が3日、下落が2日)、2%以上変動した日はありませんでした。4月は1%以上変動した日数は19営業日中3日(上昇が2日、下落が1日)、2%以上変動した日はありませんでした。

 年初来では、1%以上変動した日数は124営業日中41日(上昇が25日、下落が16日)、2%以上変動した日数は2日(上昇が1日、下落が1日)でした。2022年は、1%以上変動した日数は122日(上昇が59日、下落が63日)、2%以上変動した日数は46日(上昇が23日、下落が23日)でした。2021年は、1%以上変動した日数は55日(上昇が34日、下落が21日)、2%以上変動した日数は7日(上昇が2日、下落が5日)でした。

 7月は20営業日中2日で日中の変動率が1%以上となり、2%以上の変動と3%以上の変動はありませんでした(6月は21営業日中5日で日中の変動率が1%以上となり、2%以上と3%以上の変動はありませんでした)。年初来では1%以上の変動が68日、2%以上の変動が12日、3%以上の変動はありませんでした(直近で3%以上の変動があったのは2022年11月30日)。2022年は1%以上の変動が218日、2%以上の変動が89日、3%以上の変動が20日、4%以上の変動が4日ありました。

 ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は7月に13日連続で上昇し(1987年以来のこと)、月間では3.35%上昇して3万5559.53ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス3.44%)。6月は3万4407.60ドルで終え、4.56%の上昇(同プラス4.68%)、5月は3万2908.27ドルで終え、3.49%の下落(同マイナス3.17%)でした。2022年1月4日の高値(36799.65)からは3.37%下落しました。過去3ヵ月では4.29%の上昇(同プラス4.85%)、年初来では7.28%の上昇(同プラス8.55%)、過去1年では8.26%の上昇(同プラス10.62%)、2022年は8.78%の下落(同マイナス6.86%)でした。

※「FRB“別れの利上げ”への見方分かれる (2)」へ続く

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