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【特集】“学び直し”に国策ビッグウェーブ、出番到来の「リスキリング」関連 <株探トップ特集>

岸田首相は3日、個人のリスキリング支援に5年で1兆円を投じると表明した。これまで日本は社会人の学び直しが活発とは言えなかったが、国の後押しで関連企業の商機は拡大しよう。

―政府が5年で1兆円を投資と表明、「人への投資」で社会人のスキルアップを支援―

 今週に入り、「リスキリング」関連がにわかに注目を集めた。岸田文雄首相が3日に召集された第210臨時国会における所信表明演説で、個人のリスキリングの支援に5年で1兆円を投じると表明。関連銘柄に思惑的な買いが向かった。

 リスキリングとは、社会人が新たな業務に就けるようになるための学び直しのこと。同じような意味を持つ言葉として「リカレント」があるが、リカレントは自らが大学など高等教育機関で学び直すのに対し、リスキリングは今後必要となる仕事上のスキルを身につけることをいう。

 世界的にも2018年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)から「リスキル革命」と銘打ったセッションが行われるなど近年注目が高まっている。日本でも今後、「人への投資」を重視する岸田政権のもと、国策関連として注目度が更に増しそうだ。

●欧米ではリスキリングが活発化

 リスキリングが世界的に注目されるようになったのは、社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進むなか、DXを実行し定着させるためのデジタル人材が不足していることが背景にある。

 仮に労働力過多の状況下では、デジタル人材が必要となれば、従業員を教育するよりも外部から調達したほうが効率的だが、労働力不足が進行すると人材調達コストやコンサルティング費用が高くつくことが予想される。そのため、内部の人材のスキル習得やアップを促すことで、デジタル化と同時に生まれる新しい職業や、仕事の進め方が大幅に変わるであろう職種に転換させる動きが増加。また、スキルを高めた人材が成長分野に移ることで生産性を高めることも期待されている。

 欧米の有力企業はすでにリスキリングを実施している。米AT&T<T>は20年までに10万人のリスキリングを10億ドルで実行し、アマゾン・ドット・コム<AMZN>も25年までに7億ドルを投じ、従業員10万人のリスキリングを実施すると表明している。

●アジアの他国に比べてリスキリングの余地は大きい

 一方、日本企業では富士通 <6702> [東証P]が国内グループの全営業職約8000人を対象にスキルアップやスキルチェンジ研修を行ったほか、日立製作所 <6501> [東証P]も国内グループ企業の全従業員16万人に対してDX研修を実施した。キヤノン <7751> [東証P]も研修施設を設立してデジタル関連教育を強化するなどしているが、こうした動きはまだ一部の大手企業にとどまっているのが現状だ。また、単にDX人材の育成や獲得の課題であるという認識も多く、企業の価値創造の全プロセスを変革する本来のリスキリングを行う企業はまだ少ない。

 パーソル総合研究所が19年に日本を含めたアジア太平洋地域(APAC)14の国・地域の主要都市の人々を対象に行った調査によると、社外学習・自己啓発を行っていない人の割合は46.3%で、ベトナムの2.0%、インドネシアの2.3%はもちろん、日本の次に多いニュージーランドの22.1%に比べても突出して高い。逆説的だが、学びの機会を与えることで生産性を大きく引き上げられる余地が大きいともいえ、今後関連する市場も拡大が期待できる。

●国の後押しで市場活性化に期待

 社会人の学び直しや社員教育などに関連する銘柄はまだ少ないものの、国の後押しにより今後、市場が活性化すれば裾野が広がる可能性が高い。また、それ以上に現在、リスキリングに関連する事業を手掛ける企業にメリットは大きいだろう。

 関連銘柄の代表格はインソース <6200> [東証P]だろう。研修を中心とした社会人向け教育サービスを手掛けており、講師派遣型研修や公開講座を運営している。リスキリング研修に関しては、DX教育やリスキリングのためのマインドセット、ビジネススキルの向上・実務の学び直しなどのプログラムを展開している。

 ジェイテック <2479> [東証G]は技術者派遣・請負が主力だが、今年1月にリスキリングやリカレントを通して教育・就職を支援する新規事業「まなクル」を開始、4月に本格稼働させた。「働くこと」「学ぶこと」を支援する空間の提供からスタートし、FC展開も予定しているという。

 ブリッジインターナショナル <7039> [東証G]は、インサイドセールス事業と研修事業を展開。研修事業では企業に向けてITスキルからビジネススキルなどさまざまな研修を座学・オンライン、 eラーニングなどの形態で提供している。今年8月には研修事業を手掛ける子会社アイ・ラーニングが官民一体でリスキリングに取り組む「日本リスキリングコンソーシアム」に参画し、研修プログラムを提供する。

 アルー <7043> [東証G]は、主に大手企業に向けて人材育成事業を国内外で展開しており、企業の課題解決のためにカスタマイズした教室型研修を集合・オンライン形式で提供している。足もとでは国内教室のリピートが堅調で、また利用企業数の積み上がりも順調に推移している。

 ポート <7047> [東証G]は就職、リフォーム、カードローン、エネルギーの各領域のインターネットメディアを運営している。10月4日には就職領域で展開するリスキリング型デジタル人材育成スクール「ネットビジョンアカデミー」において、今後5年で5000人のデジタル人材輩出を目指すと発表しており、今後の注力事業に据える方針だ。

 KIYOラーニング <7353> [東証G]は、個人向けのオンライン資格対策講座「スタディング」の運営が主力だが、法人向けの社員教育サービスも展開している。今年3月には、1月に資本・業務提携したデータミックス(東京都千代田区)との協業第1弾として、「リスキリング&DX教育パッケージ」をリリース。今後もリスキリング需要取り込みのため、提携を含めたスピードを重視した取り組みを行うとしている。

 サーキュレーション <7379> [東証G]は経営やDXなどの分野におけるプロ人材の経験・知見を複数の企業でシェアするプロシェアリング事業を展開している。20年7月からはWeb3.0やメタバース、ESGなど最先端テーマのリスキリングを促すウェビナー「ソノプロ」の運営を開始。5月末時点で累計視聴者2万人を突破した。

 ベネッセホールディングス <9783> [東証P]は子ども向けのイメージが強いが、現在はビジネスパーソン向け学習ツールの提供にも力を入れている。19年からは動画学習プラットフォーム「Udemy Business」を提供。今年6月末時点で国内800社以上が導入している。また、今年5月には東京都が実施する「DX人材リスキリング支援事業」の企画運営業務を受託したと発表するなど自治体を通じた学び直し支援にも力を入れている。

 このほか、短時間で一般的に必要なビジネススキルと知識を学べるサブスクリプション型eラーニングサービス「KaWaL」を提供するチェンジ <3962> [東証P]などにも注目したい。

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