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【市況】ESG最前線レポート ─「一人一人のタクソノミー(定義・分類)を」

第11回 「一人一人のタクソノミー(定義・分類)を」

株式会社グッドバンカー
リサーチチーム 倉橋 麻生

●核をめぐる論争

 2022年8月15日に、日本は77回目の終戦の日を迎えました。人々は今月6日の広島の原爆の日、9日の長崎の原爆の日、そして15日の終戦記念日と、平和を祈り、黙祷を捧げたことでしょう。

 7月31日から8月1日にかけて、岸田総理はアメリカを訪問し、日本の総理大臣としては初めて、第10回核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議に出席しました。そこで岸田総理は、昨今の情勢において、「核兵器のない世界」への道のりがさらに厳しくなっている中、NPT体制の維持・強化が国際社会全体にとっての利益であると指摘し、その共通目的のために各国が協力すべきであると訴えるとともに、NPTをしっかりと守り抜いていくとの決意を表明しました。

 一方で、今年2月のロシアによるウクライナへの侵攻以降、原子力発電所への砲撃や占拠、また核兵器使用をほのめかすようなプーチン大統領の発言は、世界の意識を逆行させ、抑止力としての核兵器の所有を見直す世論を生み出しています。これは、先月の当コラムでご紹介した防衛産業が持続可能な社会のために必要だとする議論と同じ心理だと言えます。

●EU内で揺らぐサステナビリティの定義

 2019年末、欧州委員会は「欧州グリーンディール」を発表し、2050年までのカーボンニュートラル達成を掲げました。そして、目標達成のためには、持続可能なプロジェクトへの投資が欠かせないとし、さらに「持続可能性」に関する明確な定義と分類が必要として「EUタクソノミー」を発表しました。
 
 2022年に入り、「EUタクソノミー」に天然ガスと原子力による発電を含めるか否かが議論されるようになってきました。天然ガスと原子力を「グリーン」な経済活動に含めることに対しては、加盟国の間でも意見の隔たりが大きく、ロシア産への依存度が高い天然ガスへの風当たりも強まっていました。

 しかし、先月の7月12日、天然ガス・原子力を持続可能な経済活動に含めるEUタクソノミー委任規則が成立しました。公式に持続可能性が定義・分類されたということは、ESG投資の評価基準にも大きな影響を与えることになるでしょう。

●一人一人のタクソノミー(定義・分類)を

 2011年の東日本大震災以降、日本の原子力発電は、安全性への懸念と新たな規制基準の適合性審査により、長らく運転を停止している状況が続きました。再稼働する原発もあるものの、昨今のエネルギー価格の高騰や電力不足への懸念から、原発をより積極的に利用すべきとの声もあります。日本においても、原発を巡る議論は続いています。

 一方で、一企業として脱原発に取り組む金融機関もあります。この金融機関は経営方針に「原発に頼らない安心できる社会へ」を掲げ、中小企業と個人を対象に、省エネルギーと自然エネルギーの設備導入に向けた融資に注力しています。また、事業で使用する電力について自然エネルギー100%の利用をめざす国際イニシアティブの「RE100」に国内金融機関では初めて加盟。参加する国内企業では初となるRE100を達成しました。

 2010年代から、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)投資が大きな時代のトレンドとなってきましたが、足もとではその有効性を巡る議論や、定義・説明性が不足している投資商品を見直す動きが強まってきています。

 最終的なゴールをめざす長期的なトレンドは変わらないにしても、私たちも一個人として、持続可能な社会のためには何が必要かを考え、それぞれの「タクソノミー」を基準として投資していくことが求められていると言えます。

情報提供:株式会社グッドバンカー
(2022年8月22日 記/次回は9月24日配信予定)


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