【特集】デリバティブを奏でる男たち【34】 バウポストのセス・クラーマン(前編)
◆ボストンの賢人
今回はバークシャー・ハサウェイ<BRK.A>のウォーレン・バフェットや第10回で取り上げたオークツリー・キャピタル・グループのハワード・マークスなどと並び称される代表的なバリュー投資家、バウポスト・グループのセス・クラーマンを取り上げます。米ネブラスカ州オマハに居を構えるバフェットが「オマハの賢人」とたたえられているように、米マサチューセッツ州ボストンに居を構えるクラーマンは「ボストンの賢人」とも言われています。
彼が率いるバウポストは、最近のヘッジファンド収益ランキングで、それなりに高い収益を叩き出していますが、日本ではまだあまり知られた存在ではありません。それは彼がマスコミに出たがらないためなのかもしれません。ただ、2018年には東芝 <6502> [東証P]から経営破綻した子会社の米原子力発電所メーカー、ウェスチングハウス・エレクトリックの関連債権を同業者とともに買収したことが報じられています。
2018~2021年利益トップ15のヘッジファンド(単位は10億ドル) | ||||||||
2018年の利益 | 2019年の利益 | 2020年の利益 | 2021年の利益 | |||||
1 | ブリッジ ウォーター | 8.1 | TCI | 8.4 | タイガー・ グローバル | 10.4 | TCI | 9.5 |
2 | ルネサンス | 4.7 | ローン・ パイン | 7.3 | ミレニアム | 10.2 | シタデル | 8.2 |
3 | ツーシグマ | 3.2 | ルネサンス | 5.6 | ローン・ パイン | 9.1 | DEショー | 6.4 |
4 | シタデル | 2.1 | エガートン | 5.0 | バイキング | 7.0 | ミレニアム | 6.4 |
5 | DEショー | 2.0 | シタデル | 4.9 | シタデル | 6.2 | エリオット | 6.0 |
6 | ミレニアム | 1.8 | バイキング | 4.3 | DEショー | 5.4 | ブリッジ ウォーター | 5.7 |
7 | ファラロン | 1.3 | ファラロン | 3.7 | エリオット | 5.0 | バウポスト | 3.4 |
8 | ブレバン・ ハワード | 0.9 | ミレニアム | 3.4 | TCI | 4.2 | ファラロン | 3.3 |
9 | エリオット | 0.8 | エリオット | 3.2 | エガートン | 3.7 | サード・ ポイント | 3.3 |
10 | バウポスト | 0.4 | DEショー | 2.8 | ブレバン・ ハワード | 3.0 | エガートン | 3.1 |
11 | オクジフ/ スカルプター | 0.2 | バウポスト | 2.4 | ファラロン | 2.9 | デービッド・ ケンプナー | 2.4 |
12 | キャクストン | 0.2 | SAC/ ポイント72 | 2.3 | SAC/ ポイント72 | 2.5 | アパルーサ | 2.1 |
13 | SAC/ ポイント72 | 0.0 | アパルーサ | 1.5 | オクジフ/ スカルプター | 2.3 | オクジフ/ スカルプター | 1.9 |
14 | ムーア キャピタル | -0.1 | オクジフ/ スカルプター | 1.3 | アパルーサ | 1.9 | キング ストリート | 1.8 |
15 | キング ストリート | -0.1 | ポールソン | 1.1 | キング ストリート | 1.6 | SAC/ ポイント72 | 1.7 |
全社 | -41.0 | 全社 | 178.0 | 全社 | 127.0 | 全社 | 176.0 |
セス・アンドリュー・クラーマン(通称セス・クラーマン)は1957年に米ニューヨーク州で生まれています。ポーランド系ユダヤ人である彼の父親、ハーバート・E・クラーマンはジョンズ・ホプキンス大学の公衆衛生学者でした。セス・クラーマンは幼少の頃から新聞配達やかき氷スタンド、除雪や除草といったサービス事業のほか、週末には切手やコインのコレクションを販売するなど、商才に長けていたようです。
また、10歳の時に最初の株式投資としてジョンソン・エンド・ジョンソン<JNJ>を1株購入。その理由は、彼が同社の製品であるバンドエイドを多く使用していたからだったそうです。これはつまり、テンバガー(株価が10倍になる銘柄)という言葉を生み出し、全米ナンバーワンのファンドマネージャーと言われたピーター・リンチの投資原則、「自分が知っているものに投資する」「日常生活からヒントを見つける」を既に実践していたと言えるでしょう。
◆バウポストの運用依頼
彼はコーネル大学で経済学を専攻。大学3年の夏に伝統的なバリュー投資ファンドのミューチュアル・シェアーズ・ファンドでインターンシップを経験しました。そこで同社の創業者であるマックス・L・ハイネやマイケル・F・プライスからバリュー投資の薫陶を受けます。ユダヤ人のハイネはナチス・ドイツによるホロコースト(大量虐殺)から逃れてニューヨークに辿り着いた後、バフェットのメンターとなるベンジャミン・グレアムの共著「証券分析」でバリュー投資を学び、1949年に同社を設立しました。1988年にハイネが交通事故で亡くなると同社はプライスに引き継がれ、1998年に米大手資産運用会社であるフランクリン・テンプルトン・インベストメンツ(フランクリン・リソーシズ<BEN>)と合併します。
クラーマンは1979年にコーネル大学をマグナ・カム・ラウド(成績上位10%の学生に授与される称号)で卒業し、再びミューチュアル・シェアーズで18カ月間働きます。その後、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。成績上位5%に与えられるベイカー奨学生に選ばれました。
このときの同級生には、後にゼネラル・エレクトリック<GE>のCEO(最高経営責任者)を長年務めたジェフリー・ロバート・イメルト、米CATV大手コムキャスト<CMCSA>傘下のNBCユニバーサルでCEOやバークシャー・ハサウェイ<BRK.A>の役員も務めたスティーブン・B・バーク、タイガーカブ(第2回で取り上げたジュリアン・ロバートソン率いるタイガー・マネジメント出身)であるローン・パイン・キャピタルのスティーブン・フランク・マンデル・ジュニア、そしてJPモルガン・チェース<JPM>の現CEOであるジェームズ・ダイモン(通称ジェイミー・ダイモン)など、そうそうたるメンバーが揃っていました。
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株探ニュース