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【市況】S&P500 月例レポート ― 高値更新街道を突き進む米国市場 (2) ―


●バイデン大統領と政府高官

 ○バイデン大統領は共和党指導部と自らのインフラ投資計画について協議を行いました。大統領はこれまでの1.7兆ドルの投資計画に代わる1兆ドル規模の計画を提案し(同計画の実施に伴う支出は、すでに向こう5年間で推定4000億ドルと見込まれている歳出額に上乗せされる)、その財源を法人税の引き上げによって確保することを強く主張しました。これに対して共和党は当初案を見直し、(向こう8年間で)9280億ドルの対案を提示しました。

 ○G7主要7ヵ国(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国)は最低法人税率15%と財・サービスの提供地域での現地納税に関する新たな課税ルールを支援することで合意しました。詳細な制度設計に関する作業は始まっていませんが、今後G20でも合意することが必要となります。米国では税制の変更には(政治と景気回復も同様に)時間がかかると見られており、(市場関係者によれば)2021年中に大きな変更が行われることはなさそうです。

 ○バイデン大統領はトランプ前大統領によるTikTok(ティックトック)とWeChat(微信・ウィーチャット)の使用を制限する大統領令を撤回し、商務省に対し外国政府とつながりのあるソフトウエア・アプリについて安全保障上のリスクを検証するように指示しました。

 ○バイデン大統領は8日間の(初めてとなる)欧州訪問で2つの目的を達成しました。第1の目的は、G7主要7ヵ国の会合へ参加し(過去数年間と比べて明らかに友好的な挨拶が交わされました)、欧州の同盟国の指導者と直接会って言葉を交わすことで友好関係を築くことです(大統領は複数の首脳と非公式の会合を行い、英国のエリザベス女王とも面会しました)。第2の目的(そしてハイライトともいえる)はロシアのプーチン大統領との対面での首脳会談です(スイスのジュネーブで開催)。この会談は礼儀正しく、政治的にも正しいと言えるものでした。合意には至りませんでしたが、両国間の対話の始まりを印象づけるものとなりました。

 ○EU(欧州連合)と米国は、欧州のエアバスと米ボーイング<BA>に対する補助金問題を巡る17年に及ぶ紛争(特にここ数年間で事態は悪化していた)に関して、今後5年間は報復関税を停止(問題解決ではない)することで合意しました。

 ○バイデン大統領と米国上院による1兆ドルのインフラ投資計画を巡る協議は、超党派グループの上院議員が支持を表明したことで前進したようです。

 ○今はカーター大統領の時代ではありませんが(当時のインフレ率は2桁)、物価は上昇しています。「一時的」な現象かどうかの議論はしませんが、しばらくの間はこれまでより多くを支払うことになると考えています。

●新型コロナウイルス関連

 ○カナダ政府はワクチン接種済の旅行者に対して入国を許可する意向を明らかにしました。また、米国では海外旅行に関する規制が緩和されました。

 ○バイデン政権は5億回分のファイザー<PFE>製ワクチンを他国に寄付すると発表しました(2021年に2億回分、2022年上半期に3億回分)。

 ○変異ウイルスの感染拡大が続いています。香港、ポルトガル、スペイン(イタリアも加わりました)は新たな規制を導入しました。また、オーストラリアのシドニーでは2週間のロックダウン措置が始まりました。米国では経済活動が再開されましたが、全体の感染者数が減少する中で変異ウイルスが占める割合は増加しています。

 ○新型コロナウイルスの治療薬と治療法、そして夢の万能薬

  ⇒日本では7月のオリンピック開催(7月23日-8月8日)を前にワクチン接種のペースが加速しています(職域接種や政府設置の大規模接種センターでの接種が開始されたことによる)。現時点で人口に対するワクチン接種(完了)率は7.3%となっています。

  ⇒治験の結果、モデルナ<MRNA>製のワクチンは12~17歳の若年層にも有効であることが示され、同社は6月にも適用を申請する見通しです。

  ⇒米ノババックス<NVAX>は開発中のワクチンの臨床試験で2回接種後の有効性が90%となったことを発表しました。

  ⇒現時点で、世界全体で30億1000万人が1回以上のワクチン接種を受けました(5月末時点では17.4億人、4月末時点では11億人、3月末時点では5億7400万人、2月末時点では2億2500万人)。

  ⇒米国では現時点で、3億2500万人が1回以上のワクチン接種を受けました(同2億8900万人、同2億3700万人、同1億4800万人、同6830万人)。

  ⇒米国では人口の54.2%(5月末時点では49.4%、4月末時点では43.3%)が少なくとも1回は接種したことになり、人口の46.4%(同39.3%、同30.0%)が2回の接種を終えました。

  ⇒米国の1日当たり接種回数の7日平均は90万回に低下しました(5月末時点では170万回、4月末時点では263万回、3月末時点では277万回、2月末時点では131万回)。これはワクチン接種希望者の人数が減少しているためです(供給は十分にあります)。

●各国中央銀行の動き(および関連ニュース)

 ○FRBの地区連銀経済報告(ベージュブック)によると、経済の拡大ペースは依然として緩やかながらも加速しており、物価上昇圧力が高まっています。

 ○FOMC(米連邦公開市場委員会)が開催され、声明は秩序があり政治的に正しい内容でした。新たなドット・プロット(金利予想分布図)では、金利は大方の予想より早い2023年末までに2回引き上げられる(0.60%に)との見通しが示されましたが、それでも2年以上先のことです。この新たな利上げ時期の予想を受けて市場は当初下落しましたが、下げ幅はその後縮小し、0.54%の下落で取引を終えました。FRBはまた、経済ならびにインフレはワクチン接種を受けて予想より急速に進行していると指摘しましたが、それでもインフレは一時的との見通しを示しました。

 ○FRBは大手銀行23行全てがストレステストを難なく通過し、自社株買いと配当金支払いの上限(過去の利益に基づく)を2021年7月1日から撤廃すると発表しました。そのため、発表の翌週初めに銀行が(自社株買いと配当金支払いの)引き上げを発表するとの見方が広がりました。

●IPOおよび「空箱」SPAC

 ○SPAC(特別買収目的会社)による上場は、増加時と同じくらいのペースで減速している模様ですが、依然として活発であり、目先は新規上場において重要な役割を担うとみられます。

 ○オンライン上で専門家による法律サービスを提供するリーガルズーム・ドット・コム<LZ>は、IPOにより28ドルで株式を公開しました。株価は38.79ドルまで上昇した後、37.85ドルで取引を終了し、時価総額は70億ドルとなりました。

 ○中国配車アプリのディディ・グローバル<DIDI>はIPOにより14ドルで株式を公開しました。株価は18.01ドルまで上昇した後、14.14ドルで取引を終了し、時価総額は680億ドルとなりました。

 ○今後も活発なIPOが見込まれます:

  ⇒デジタル貯蓄・投資アプリを運営するAcornはSPAC経由での上場を計画しており、企業評価額を22億ドルと見込んでいます。

  ⇒英国のオンライン中古車販売会社Cazoon Holdingは、SPAC経由で上場することを明らかにしました。上場時の企業評価額を80億ドルと見込んでいます。

  ⇒未公開のリチオムイオン電池メーカーEnovixはSPAC経由での上場を準備しており、当初評価額11億ドルを見込んでいます。

  ⇒イスラエルのデジタル取引プラットフォームのeToro GroupはSPAC(FinTech)経由で上場すると発表しました。時価総額100億ドルを見込んでいます。

  ⇒東南アジアでライドシェア、フードデリバリー、送金のアプリを運営しているグラブ(Grab Holdings)はSPAC経由で上場することを発表し、企業評価額を400億ドルと予想しています。

  ⇒EVメーカーのルシード・モータース(Lucid Motors)はチャーチル・キャピタルIV<CCIV>との合併を通じて上場を計画しています。

  ⇒シェアオフィス大手のウィーワーク(WeWork)が再び上場を計画しており、上場時の企業評価額として90億ドルを見込んでいます。これに対して、パンデミックにより労働環境が変化するよりもかなり前の2019年の評価額は470億ドルでした。

●企業業績

 ○2021年第1四半期決算の発表が終わり、市場関係者の関心は第2四半期の業績に移り始めました。第2四半期は過去最高となった第1四半期から6.9%の減益になると予想されています(2020年第2四半期との比較では64.8%増益)が、依然として四半期としては過去2番目の好業績を記録すると見込まれています。

  ⇒2021年第1四半期は、499銘柄のうち426銘柄(85.4%)で利益が予想を上回り、498銘柄のうち391銘柄(78.5%)で売上高が予想を上回りました。また、同四半期の営業利益率は過去最高の13.02%となったようです(過去15年間の四半期ベースの営業利益率の平均は8.92%)。

  ⇒2021年第2四半期の利益予想は2021年第1四半期末から7.1%引き上げられ、1年前(2020年第2四半期末)からは16.3%の上方修正となりました。利益は力強い伸びを記録した2021年第1四半期から6.9%の減益が見込まれており、2020年第2四半期からは64.8%増益となる見込みです。

  ⇒2021年については過去最高益を更新する見通しで、2020年比で53.1%増益が見込まれており、2021年の予想PERは22.9倍となっています。

  ⇒2022年は2021年比でさらに12.5%の増益と、再度の最高益の更新が見込まれており、2022年の予想PERは20.4倍となっています。

※「高値更新街道を突き進む米国市場 (3)」へ続く

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