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【市況】武者陵司「半導体不足は日本ハイテク復活の予兆である可能性」<前編>

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

(1)株式市場の焦点は半導体に

●半導体が株価上昇をリード

 2020年秋口まで世界の株式市場はGAFA中心のグロース株が上昇のけん引役であった。しかし、米大統領選挙以降、GAFAに代わって半導体がけん引役になっている。 半導体はグロースセクターと見られがちだが、景気敏感株の代表でもあり、需要と業績の急反発を理由に買われている。フィラデルフィア半導体指数(SOX)、国別では半導体2大強国の韓国、台湾の株価指数が特に好調である。日本株式も米欧より好パフォーマンス。市場のフォーカスは明らかに、2021年景気急回復を主導する製造業にシフトし、韓国・台湾ほどではないが日本株式にも照明が当たっている。

(2)突如浮上した半導体不足による自動車減産

●車載用半導体、なぜ不足したのか

 コロナ感染により世界的に需要回復にブレーキがかかる中、半導体不足による 自動車減産のニュースが突如現れた。それも長期化するということである。ホンダ <7267> は国内および北米と中国で減産体制に入った。日産自動車 <7201> も1月に減産を開始。トヨタ自動車 <7203> は米国でピックアップトラックを減産、中国でも一部ラインを停止した。独フォルクスワーゲン(VW)や米フォードなど海外勢も生産調整に動いている。

 この影響は数カ月から半年尾を引く可能性がある、とのアナリストのコメントも報じられている。(A)自動車需要の急回復をメーカーが読み違えた、(B)ゲーム、消費者用エレクトロニクス製品向けなどに半導体生産ラインを押さえられてしまった、等が理由として指摘されている。しかし、全体としては、半導体需要の背景にあるエレクトロニクス機器需要はピークには戻っていない。他方で半導体供給は2020年で前年比5%と成長を続けており、需給ひっ迫という状況ではない。

●電子機器需要はまだピークに戻っていないのに

 自動車需要も、スマートフォン(スマホ)需要も、過去のピークには戻っていない。スマホは2017年14.5億台でピーク、2020年は12.0億台とピークを下回る予測である。2021年も13.8億台と予想され、すでにスマホの世界需要は完全に成熟期に入っているのである。自動車販売も中国で急回復しているが、まだピークではない。中国の2020年の新車販売台数は2527万台、前年比は1.9%減と、3年連続で前年実績を下回った。米自動車販売も回復傾向の鈍化がみられる。11月の自動車販売台数は季節調整済み年率換算で1555万台と前月の1621万台、前年同月の1709万台をそれぞれ下回った。

●半導体不足要因(1)、米国の対中半導体制裁

 何が起きているのか。二つの要因が考えられる。第1は米中摩擦が半導体需給に乱気流を引き起こしている可能性である。まず(A)ファーウェイは米国による半導体購入禁止の制裁前に巨額の半導体在庫積み増しを行った、(B)ファーウェイから市場シェアを奪うチャンスと見込んだ競合他社が、半導体を買い漁った、(C)米政権によるSMIC制裁により、SMICからの調達不安を意識した半導体ユーザーが他のメーカー(TSMCなど)への発注を強めた、などである。米政府は12月SMICをエンティティリストに登録し、SMICへの出荷を免許制にし、米国の半導体製造技術の利用に制限を加えた。これにより、一部のSMIC顧客は供給に制限が出ることを懸念し、他の半導体メーカーへの代替を考え始めたようである。SMICは最先端素子は作れていないものの、半導体受託生産世界シェア5%、2019年の売上高31億ドルと、レガシー半導体分野ではそれなりのプレゼンスを持っており、そこからの需要シフトが一定のインパクトを与えたのである。

 このように摩擦が新規需要を刺激したこととともに、米国の対中制裁により中国の半導体工場建設が滞り、供給力が増加していないことも指摘される。2年ほど前まで中国における半導体投資の急増により、世界的に半導体需給が緩和すると懸念されていたが、逆の事態となったのである。

(3)半導体需給構造の大変化

●半導体不足要因(2)、半導体需要構造の変化、先端品不足からレガシー品不足へ

 半導体不足が突如浮上した第二のより本質的な理由として、半導体需要構造が転換期を迎えている可能性を指摘したい。半導体需要が構造変化しつつあり、品目別に供給力不足が表面化している可能性である。産業用、自動車用などレガシー半導体と呼ばれる、旧世代のものが不足している可能性である。

 これまで半導体需要の主力であったスマホ、パソコンなどの電子機器・個人用のインターネットターミナル市場(B to C)は、いまや完全に頭打ちとなっている。これに代わり、新たな成長分野として台頭しているものが産業用、自動車、エネルギー開発、インフラ関連(B to B)である。 5G IoT時代の主戦場は産業機器分野である。

 この新規成長分野の半導体はこれまでの先端高集積のMemory(メモリー)、Micro(マイクロ)、Logic(ロジック)ではなく、旧世代型(レガシー)半導体である。具体的にはアナログ、パワー、オプト、 センサーなどである。いま不足している車載用半導体はこちらである。自動車はEV(電気自動車)になると半導体需要が大きく増える。1台当たりの半導体搭載金額はガソリン車220ドル、電気自動車400ドル、HV車480ドル、レベル3自動運転車800ドルと推計(英調査会社Informa)されている。

 半導体の加工線幅、微細化別の需要見通しをみると、今後最も増加するウエハー需要は40ナノメートルのレガシーものである。これらの半導体は高密度、高集積よりも、省電力、耐熱、耐振動性など異なる特性が求められる分野である。半導体のビジネスモデルは大きく変化するといえる。

 このように、現在の半導体不足には、5G、IoT時代の需要構造変化に供給サイドが対応できていないことも一因と考えられる。

※<後編>へ続く

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