市場ニュース

戻る
 

【特集】新型コロナワクチン接種近づく、急動意する関連株を追う <株探トップ特集>

国内でのワクチン接種スタートが迫っている。日常生活を取り戻すための反撃が始まろうとするなか、関連株に思惑買いが流入している。

―思惑か実需か、新たな段階に入るコロナとの闘い―

  新型コロナウイルスの脅威から身を守り平穏を奪還すべく、世界各地でワクチンの接種がスタートしている。日本においては、2月下旬までには接種開始できるように準備を進め、まずは医療従事者、高齢者、基礎疾患のある人などを優先し、順次進めていく方針だ。日常生活を翻弄(ほんろう)し、経済を疲弊させた新型コロナとの闘いは新たな段階に入ったといえる。こうしたなか、株式市場では思惑先行で待望のワクチン接種に絡むさまざまな銘柄が動意を見せている。政府が1都3県に対する緊急事態宣言発出に向けて動き出すなか、関連株のいまを取材した。

●海外勢先行、国内グループも開発進展

 待ちに待った国内での 新型コロナワクチンの接種開始が迫っている。中国・武漢に端を発した新型コロナの感染拡大は、瞬く間に世界を蹂躙(じゅうりん)し、混乱と不安に陥れ、多くの感染者と死者を出している。日本も第3波に襲われるなか、収束の糸口が見えない状況だ。しかし、昨年12月18日に、米製薬大手のファイザーが新型コロナワクチンの製造販売承認を厚生労働省に申請しており、2月下旬にもワクチン接種が始まるとみられる。かつてない短期間での開発ということで、未知数な部分も多いだけに不安も残るが、ワクチン接種を機に新型コロナに対する反撃が始まる。また、国内の研究機関もワクチン及び治療薬の開発を進めるなか、株式市場でもその行方に熱い視線が注がれている。

 新型コロナワクチンで先行するファイザーだが、日本おいては今年6月末までに1億2000万回分供給することで合意し、国内での治験を昨年10月から実施している。また、ファイザーに続き米食品医薬品局(FDA)が緊急時使用を許可した米モデルナについては、5000万回分の供給契約を締結。武田薬品工業 <4502> が日本での流通を請け負うが、同社による国内での治験開始については今月中にも始まると伝わっている。英アストラゼネカとも1億2000万回分の供給で基本合意している。

 国内勢も多くのグループが、新型コロナワクチンの開発を急いでいる。主なものとしては、塩野義製薬 <4507> がUMNファーマなどと、第一三共 <4568> は東京大学医科学研究所と開発を進めるが、株式市場においては大阪大学とアンジェス <4563> [東証M]などが共同開発するワクチンにとりわけ投資家の関心が高い。アンジェスは12月8日、開発中の新型コロナウイルスDNAワクチンについて、第2/3相臨床試験における接種を開始したと発表しており順調な進捗状況にあるようだ。同試験は500症例の被験者への接種を行い、ワクチンの用法及び用量における安全性と免疫原性の評価を行うのが目的で、接種期間は今年3月ごろまでを予定している。

●テルモ、ニプロ、JMSなどにシリンジ・針で増産要請

 ワクチン接種を巡っては、これに絡むさまざまな分野で膨大な需要が発生することになり、株式市場では思惑買いを誘う状況だ。シリンジ(注射器)や針も需要拡大が考えられる。厚労省の発表資料によるとワクチンについて「2回接種の想定で準備を進めている」としており、シリンジや針の不足に懸念が高まる。これに関しては、昨年7月中旬に加藤勝信厚労相(当時)が、テルモ <4543> 、ニプロ <8086> 、ジェイ・エム・エス <7702> など医療機器メーカー6社のトップと会談し、シリンジと針の増産を要請している。テルモでは「製造ラインを効率的に動かすことで対応している」(広報)、ニプロは「フル稼働で対応に当たっている」(総務部)、またJMSでも「既に要請に応じて生産をしている」(経営企画本部)という。あるメーカーでは「これ(増産)が収益に大きく寄与するかは、各社の事業規模にもより一概には言えない」と話す。一方で、「現在のところでは、(新型コロナによるワクチン接種に関連して)海外での受注に大きな変化は見られないが、今後需要が拡大する可能性もある」としている。

 テルモは11月5日、21年3月期の連結業績予想について営業利益を850億円から900億円(前期比18.6%減)へ、純利益を650億円から680億円(同20.2%減)へ上方修正した。上期は、新型コロナの影響は想定に比べて小さかった一方、第3四半期以降について医療需要の回復が緩やかになるとみて、売上高は6000億円(同4.6%減)の従来見通しを据え置いている。また、JMSの上期経常は17.9%増益で着地しており、21年3月期通期計画の22億円(前期比17.7%減)に対する進捗率は51.2%。ニプロの業績も健闘している。11月9日、21年3月期通期の経常利益を従来予想の245億円から248億円(前期は234億1700万円)に上方修正し、増益率は4.6%増から5.9%増へ拡大を見込んでいる。

●切り口多彩な日本金属

 磨帯鋼・冷延帯鋼に強みを持つ日本金属 <5491> は、11月18日に今年5月に施行される欧州医療機器規則(MDR)コバルト規制に対応する注射針向けステンレス鋼「NK-304NKM」を11月30日から出荷すると発表。会社側では「出荷は予定通り開始した」と話す。MDRは欧州で医療機器を販売するための規則で、従来の医療機器指令をより厳格にした承認制度。今年5月のコバルト規制対象は同社顧客の使用量全体の約13%に当たり、既にそのうちの約6%に相当する物量の打診が同社に入っているとしている(11月18日時点)。注射針の供給不足が取りざたされるなか、これを思惑材料に株価は急伸。700円近辺にあった株価は11月26日には1824円まで買われ年初来高値を更新している。また12月15日には、新開発した「マグネシウム合金二次電池負極用新合金」のサンプルを、今年1月(予定)に企業や研究機関の開発者向けに試験提供すると発表したことで、1000円近辺まで押し戻されていた株価に再び浮揚力を与え、現在は1500円水準に位置している。切り口多彩な点も魅力で、今後も注目場面が続きそうだ。

●エアウォータは注射針の生産能力増強

 また、産業用ガス大手のエア・ウォーター <4088> は、同社グループのミサワ医科工業が拡大する海外需要に対応し、高機能・高品質な日本製注射針の生産・開発体制を拡充するため、茨城県笠間市に本社工場を移転、生産設備を増強し6月から稼働している。既存工場と連携強化を図ることで、生産能力を従来の年間19億本から30億本に増強。同社製品は、国内をはじめ80ヵ国以上に供給しているが、ASEANや南米諸国における生活水準の向上や高齢化の進展に伴い、感染症予防のワクチン接種、糖尿病や人工透析などのために高品質な日本製注射針へのニーズが高まっているという。また、ミサワ医工は7月、新型コロナワクチン接種に必要な皮下注射針・筋肉注射針の提供が可能であることをホームページで公表している。株価は、11月中旬から上げ足を速め12月14日には1881円まで買われ年初来高値を更新、現在も高値圏でもみ合っている。

●ディープフリーザーで思惑買い流入

 新型コロナワクチンを巡っては、冷凍保管が必要なためディープフリーザー(超低温冷凍庫)に絡む銘柄にも思惑が高まっている。例えば、ファイザーのワクチンはm(メッセンジャー)RNAを直接体内に接種することで抗原タンパク質を作り出すが、mRNA自体は非常に不安定な物質であるため、安定性を確保できるよう超低温で保管する必要がある。そのため政府は、医療機関で冷凍保管が必要なワクチンを適切に保管できるように、セ氏マイナス75度のディープフリーザーを3000台、マイナス20度のディープフリーザーを7500台の確保に動いている。厚労省では「現在、業界団体を通じて要請をしている。供給能力が高いところを対象に、早急に進めている」と話す。政府が確保した冷凍庫については、各自治体の人口を基に可能な限り公平になるように割り当てを行うことになる。

 こうしたなか、株式市場で急速人気化したのがツインバード工業 <6897> [東証2]だ。同社は、超低温の精密な温度制御に広く使用可能なフリーザーボックスなど、ワクチン関連の保管・輸送製品を手掛けることから思惑買いが一気に流入した。10月中旬に600円水準だった株価は、12月14日には2072円まで買われ、およそ3.5倍化するという変貌ぶりをみせることになった。上昇一服だった株価は、きのう菅首相がワクチン接種に向けて早期推進の構えを見せたことで急動意している。同社では、フリーザーなどの受注について「現在のところ回答は控えさせていただく」としている。

 また、薬用冷凍冷蔵庫を手掛けるフクシマガリレイ <6420> では、「現在、保冷庫などについては、新型コロナに絡むもの以外でも需要が増えており増産しているところだ。また、いまのところ具体的な話はないが、マイナス85度仕様の超低温フリーザーも手掛けており、ファイザーのコロナワクチンにも対応可能だ。薬用冷凍冷蔵庫はマイナス5~マイナス35度まで対応しており、ファイザー以外のコロナワクチンの対応ができる」(広報)と話す。

 このほかでは、医療廃棄物専用容器「ミッペールシリーズ」を展開する天昇電気工業 <6776> [東証2]が連日の急騰で異彩を放ち、医療廃棄物処理を手掛けるイボキン <5699> [JQ]などにも連想が働きそうだ。

 ここにきては、感染力が強いと言われる変異種が国内でも確認されるなど不安は更に高まっている。ただ、厚労省は「12月21日、WHOにおいて、この変異株によって重症度、抗体反応、ワクチンの有効性に何らかの影響を与えることを示唆する証拠はないことなどの見解が公表された」と同月25日に発表している。

 このように緊迫した状況のなかでスタートする待望のワクチン接種だが、超低温での物流をはじめ課題は少なくない。しかし、これらを乗り越えた先に光明が待っていると信じたい。まさに、国家的命運をかけたワクチン接種が始まろうとするなか、関連銘柄から目が離せない状況が続きそうだ。

株探ニュース

株探からのお知らせ

    日経平均