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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―株価の好悪材料を点検する-

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第42回 株価の好悪材料を点検する

●株価暴落から半年

 コロナによる株価暴落の底値から半年の時間が経過します。中国政府が武漢市を封鎖したのが1月23日でしたが、安倍首相は1月24日に在中国日本大使館HPで中国国民に2月の春節休暇に日本を訪問することを呼びかける動画メッセージを発信しました。ダイヤモンド・プリンセスが横浜港に帰港したのが2月3日です。安倍内閣が緊急事態宣言を発したのは4月7日でした。

日本の本格的なコロナ対応は丸2ヵ月の遅れをとりました。台湾政府は12月末に武漢市の異変を捕捉してWHOに報告。1月23日には武漢市からの入境禁止措置を取りました。中国を含む台湾、韓国、日本の東アジア諸国のなかで、株価のコロナ暴落からの反発率は中国169%、台湾123%、韓国122%、日本93%となっています。コロナ暴落からの各国株価反発率はコロナ被害の大小と政策対応力の違いを反映するものになっています。

日本政府の対応は極めてまずいものでしたが、東アジアでのコロナ被害が極めて軽微に抑制されたことに救われて大惨事を発生させずに済んだものと言えます。欧州で検査が最も行われている英国のコロナ致死率は11.7%です。感染者の10人に1人以上が死亡しています。これに対して東アジアで最も検査が行われているシンガポールのコロナ致死率は0.05%です。致死率に200倍以上の乖離が観察されています。シンガポールのコロナ死者は感染者2000人に1人の水準で通常のインフルエンザよりも低いものになっています。

●株価反発率に大きな相違

安倍内閣がコロナ感染症を2類相当の指定感染症とすることを閣議決定したのは1月28日のことです。コロナの実態が掴めぬ時点でSARS、MERSと同水準の極めて危険な感染症に指定してしまいました。感染者は入院、隔離され、感染追跡の疫学調査が義務付けられました。医療崩壊が叫ばれた主因はコロナ感染症そのものにあったのではなく、コロナを2類相当感染症に指定したことにありました。

コロナ感染症に対する必要以上の警戒姿勢が経済活動の極端な悪化をもたらした面が強く存在します。ただし、欧州などでの被害数値が実態と乖離していないなら、欧州諸国が最高レベルの警戒態勢を敷くことが正当化されます。欧米と東アジアでこれほどの被害格差が生じているために大きな混乱がもたらされてきたことも事実です。

世界の株価は3月下旬にかけて3割から5割の暴落を演じました。この暴落を脱する契機になったのが米国の2兆ドル経済対策策定でした。トランプ大統領は各方面から根強い批判を受けますが、危機発生時の対応の迅速さと大胆さでは突出した対応力を備えていると評価することができます。

コロナ被害が深刻だった米国とドイツ、被害が軽微な日本の株価反発率が90%台で肩を並べています。被害が大きく、政策対応でカバーし切れていない英国、フランスの株価反発率は6割にとどまっています。

●選挙と株価

この状況下で8月28日、安倍首相が辞意を表明しました。退陣と後継首相選出、そして衆院総選挙のシナリオが密かに練り上げられてきたと見られます。日経平均株価は瞬間的に600円ほど下落しましたが、瞬時に値を戻し、その後は何事もなかったかのような反応を続けています。後継首相には、これまで官房長官を務めてきた菅義偉氏が就任する方針が瞬時に固められました。

9月16日に召集される臨時国会で菅内閣が発足することになりますが、新内閣の初仕事が衆院総選挙になるとの見方が急激に強まっています。16日召集の臨時国会は3日間で閉幕され、改めて臨時国会が召集されて衆院解散が実施される可能性が強まり始めています。投票日は11月1日説が有力視され始めています。

不確定要素はコロナ感染状況ですが、9月10日に東京都が感染警戒レベルを一段階引き下げ、GoToキャンペーンにも組み込まれることになり、解散総選挙の環境は整うとの説明が流布される可能性があります。コロナ感染は晩秋から春にかけて拡大する可能性が高いと考えられています。感染拡大がやや下火になる間隙を捉えて選挙を挙行してしまう戦術が念頭に置かれているようです。

米国の大統領選は11月3日に投票日を迎えます。焦点は中西部およびフロリダ、テキサスなどの激戦州です。トランプ大統領は再選を果たすため、NYダウを何としても3万ドルの大台に乗せたいと考えていると思われます。日本でも選挙期間中は公的資金投下などで株価が引き上げられるケースが目立ちますので、政治日程と株価の連動関係に関心を払う必要がありそうです。

●消費税減税が争点に浮上

 とはいえ、世界経済はコロナの影響もあり極めて深刻な不況に転落しています。日本の実質GDPは安倍内閣発足時の498兆円から本年4-6月期には485兆円に減少してしまいました。安倍内閣7年半の実質GDP成長率の単純平均値(季調済前期比年率)はマイナス0.1%で民主党政権時代のプラス1.7%をはるかに下回っています。

その一方で法人企業当期純利益は2012年度から2017年度の5年間に2.3倍水準に激増しました。経済が縮小するなかで企業収益が倍増したことは労働者の分配所得が激減したことを意味します。実際に、労働者一人当たりの実質賃金は本年5月時点で7年前比6%減を示しています。安倍首相は雇用者数が増えたことを強調しますが、減少した労働者の分配所得を分け合う人数だけが増えたわけで、このために一人当たりの実質賃金が激減してしまったのです。増えた雇用の7割は非正規雇用であり、労働者の大半が下流に押し流されてしまいました。

安倍内閣総辞職のタイミングで新しい野党第一党が誕生します。党名も党首も変わらない新鮮味に欠ける新党ですが、原発ゼロ方針を明確にし、消費税減税の主張を鮮明にしたことが大きな特徴になります。新首相に就任する菅義偉氏は早速、消費税増税の方針を明示しましたので、次の総選挙では消費税問題が大きな争点に浮上する可能性が高まります。

上値が重くなっている各国株価推移に政治変動がどのような影響を与えるのか、思考をめぐらせる必要がありそうです。

(2020年9月11日記/次回は9月26日配信予定)


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