【市況】明日の株式相場戦略=テスラ暴落は崩壊の序曲か?
日経平均 <日足> 「株探」多機能チャートより
もっとも、相場が裏切るというのは人間の側の驕った言い方であって、そもそも誰も未来を知ることはできないのだから、予想はあくまで予想の領域を超えられない、ともいえる。株価は時々刻々と変遷を遂げ、なおかつ接近して我々がどんなに目を凝らしても、一寸たりとも時間を飛び越え未来を見極めることは不可能だ。見えないからこそ至近距離で対峙する投資家に対して、時に陶酔にも似た楽観(ユーフォリア)や、恐怖にも近い悲観(パニック)をもたらす。ここまでは、コロナ恐慌とコロナバブルの狭間で投資家のマインドは右往左往したが、最近はややユーフォリアに傾いていた。その修正が今訪れている。
ただし、現時点で大勢トレンドが転換したとはいえないと思う。例えば実体経済にインフレ懸念が高まり金融緩和政策の継続が難しくなるといったような、過剰流動性が担保できなくなるような環境に陥った場合、あるいはその兆候が確認されたような場合、株価も長期的な波動の転換を余儀なくされることになる。どんなに強くても半永久的に上がり続ける相場は存在しないが、今はまだ緩和政策のエンジンが止まった状態ではない。
確かに米国ではテスラ株の暴落が象徴的で、局地的バブルは一部破裂したような状態にある。テスラは最高値をつけた今月1日から1週間あまりで時価総額にして16兆円以上を失った。国内上場企業で断トツの時価総額を誇るトヨタ自動車<7203>が約22兆円であるから、その8割方をわずか1週間で吹き飛ばしたインパクトは大きい。ただ、この突風はある程度想定されていた。これがGAFAMをはじめとするハイテクセクターすべてを巻き込むハリケーンに発展すると考えるのは早計だ。
では、こういう場面でどうするべきか。流れに従って流れを制すことが株式トレードの基本戦略。相場のボラティリティが一気に高まった時に、いったんキャッシュポジションを高めることで焦る気持ちを和らげ、冷静に流れを確認するという作業、その時間をもつことは意外に重要な投資戦略のひとつともいえる。「運命は我々の行為の半分を支配し、あとの半分を我々自身に委ねる」というのは『君主論』で有名なマキャベリの言葉。今の米国株の乱調が波の上下動なのか、潮の流れが発生しているのか決め打ちはできない。ファイティングポーズは崩さないけれど、踏み込むタイミングとしてはもう少し先とみておきたい。
きょうの相場は、売り一巡後は今月2回目となる日銀のETF買いが入ったことが予想され、全体相場も下げ渋り、日経平均は2万3000円台に戻して引けた。前日は“裏切られた”とはいえ、米株価指数先物は主要指数がいずれも高かったことや、米ハイテク株へのコール・オプション大量買いで“ナスダック・レバレッジ型ETF”とも揶揄されているソフトバンクグループ<9984>の株価が急落後に下げ渋ったことも、市場心理にプラスに働いた。
個別株に目を向けると、前日に取り上げた官公庁DX関連で後発組のSIG<4386>が上げ足を一気に加速した。やはり目先は株価3ケタ台の銘柄が人気化しやすい傾向がある。その観点でKYCOM<9685>は8月中旬の戻り高値655円の払拭が目前で注目。また、マイナンバー関連の切り口では株価400円近辺の富士ソフトサービスビューロ<6188>も面白い。このほかでは、株価4ケタ台ながらeコマース関連で4~6月期の業績好調なEストアー<4304>や指標面で割安感が際立つエノモト<6928>などもマークしたい。
日程面では、あすは7月の機械受注統計、8月のオフィス空室率など。海外ではECB理事会の結果発表とラガルドECB総裁の記者会見が注目される。このほか8月の米卸売物価指数(PPI)、7月の米卸売在庫・売上高など。
(中村潤一)
出所:MINKABU PRESS