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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―コロナに関する逆説的思考-

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第34回 コロナに関する逆説的思考

●緊急事態宣言の延長

 4月7日に発出された 新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言は5月6日が期限でしたが、安倍内閣は5月4日に緊急事態宣言の対象期間を5月31日まで延長しました。このなかで、13の特定警戒都道府県については、引き続き、極力8割の接触削減に向けた「これまでと同様の取り組み」が必要であるとする一方、それ以外の県については、「感染拡大の防止」と「社会経済活動の維持」との両立に配慮した取り組みが必要としました。

 緊急事態宣言に伴い外出の自粛が要請されるとともに、一部の業種に対しては休業要請が提示されました。ゴールデンウイークは各地の行楽地の人出が激増しますが、宣言の影響で全国的に人出の大幅減少が観測されました。コロナウイルスの感染は人と人の接触によって生じることが多く、大幅な接触削減は新たな感染者発生を抑止する効果を持つと考えられています。

 日本の場合、感染を確認するPCR検査が十分に実施されていないため、感染の実態をどの程度捕捉できているのか不明な部分が大きいのですが、公表される日々の感染者数そのものでは減少が観測されるようになりました。対策を講じて感染拡大に歯止めがかかれば経済活動の再拡大を図ることになりますが、一気に活動が拡大すれば感染拡大が再発するリスクがあります。

●コロナ大不況の到来

 日本経済においては生産額も就業者数も第3次産業のウエイトが圧倒的に大きくなっています。宿泊、飲食、生活サービス、娯楽、小売、卸売、運輸、建設、製造などの産業分野で極めて深刻な売上減少=生産減少が生じています。密閉された空間に密集して密接な会話などを行うことが感染拡大をもたらすと考えられていますので、こうした状況が生じる場面を忌避する消費行動は持続することが予想されます。

 その結果として経済活動が低下します。経済指標ではGDP成長率の低下に集約して表出されることになるでしょう。日本の実質GDP成長率は昨年10-12月期がマイナス7.1%(前期比年率)でした。これはコロナの影響を受けていない数値です。大幅マイナス成長率が観測された理由は消費税増税です。日本経済はコロナ不況に見舞われる前に、すでに消費税増税不況に陥っていたのです。

 ここにコロナウイルスの影響が加わるので経済の落ち込みは極めて深刻になると考えられます。5月18日に本年1-3月期のGDP成長率が発表されますが、2四半期連続でマイナス成長になることが確実視されています。さらに4-6月期はマイナス20%程度の成長率(年率)が予想されています。

 自然災害による経済活動の落ち込みとは異なり、活動停滞の期間が長期化すると考えられるところにパンデミックがもたらす経済活動抑止の深刻さがあります。

●コロナ致死率の真実

 ジョンズ・ホプキンス大集計のデータでは5月7日時点での感染者数は364万人、死者は25万人を超えています。致死率は7%に達しています。世界人口77億人の6割にあたる46億人が感染し、その7%が死亡すると死者数は3.2億人に達してしまいます。このような選択はできないということになり、世界各国が行動抑制を実行しています。

 日本では感染者数が1万6287人、死者が603人で致死率は3.7%になっています。ところが、本当の感染者数は発表数値よりもはるかに多いと考えられています。神戸にある市立病院が外来患者の血液を用いて抗体検査を実施したところ、3.3%が陽性反応とのことでした。この比率で感染者が存在すると神戸市全体の感染者数は公表数値の594倍ということになります。コロナウイルス感染症による死者が十分に把握されていない可能性がありますので、結論を単純に導くことはできませんが、コロナウイルス感染症の致死率は公表数値の100分の1、あるいは600分の1という仮説さえ生じてくることになります。

 仮にコロナウイルス感染症の致死率が0.3%以下ということになりますと、大規模な行動抑制は正当化し難くなります。2009年に流行した新型インフルエンザの致死率は0.5%未満と考えられていますが、これと大差がないということになります。欧米で流行している感染症と日本などのアジア地域で流行している感染症のウイルスに違いがあるとの見方もあり、断定的なことは言えないのですが、コロナウイルスの致死率を正確に知ることは対応策策定において決定的に重要な意味を持つことになります。

●逆説的思考を忘れない

 仮定の話になりますが、万が一、新型コロナウイルス感染症の致死率が実は非常に低い、あるいは、日本において、すでにかなりの人が感染して抗体を保持しているということになると、基本的な判断が一変します。経済活動を通常通りに回帰させてよいことになります。金融市場では株価の大暴騰が生じることになるでしょう。

 私たちはさまざまなメディア等が提供する情報を元に判断を形成しています。そのほぼすべては2次情報です。つまり、自分の手で直接入手した情報ではないのです。もし、その情報が真実の情報でない場合、私たちはウソの情報に踊らされるということになります。

 仮に情報を操作できる存在がある場合、その者は自分の利益を拡大するために情報操作を利用するかも知れません。巨大な資本が優良な企業を手中に収めるための最良の方策はターゲットとした企業の株価を暴落させることです。一般投資家が投げ売りする株式を安値で買い集めれば濡れ手に粟の不労所得を獲得することが可能になります。

 2003年5月に向けて、日本では大銀行も倒産させるとの情報が流布されて株価が大暴落したことがありました。しかし、日本政府は銀行を破綻させずに公的資金で救済しました。このことを知っていた一握りの勢力が莫大な利益を得たと見られています。コロナ暴落についても、このようなトリックがある可能性を否定し切らずに注視することが大切かも知れません。

(2020年5月8日記/次回は5月23日配信予定)

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