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【特集】金はレンジ推移を脱するか?景気減速懸念と米中協議の進展期待が綱引き <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行
 金の現物相場は10月以降、1500ドルを挟んだレンジ相場となった。米連邦準備理事会(FRB)の追加利下げの見方が支援要因となったが、米国が中国製品に対する関税率引き上げを見送り、通商協議で部分合意に達したことや米国債の利回り上昇が上値を抑える要因になった。

 米中協議では部分合意の文書化が残っている。米中首脳の署名は今月になるとみられるが、中国の習近平国家主席が合意署名で訪米する可能性が高まっている。中国は第1段階の部分合意の後も協議を継続する意向だが、米国が12月に予定する追加関税の見送りや、これまでの関税撤廃を要求しており、長期的な合意は難しいとの見方も出ている。

 ただ、5日には米国が中国に対する関税で9月発動の1120億ドル相当分の撤回を検討していると伝えられた。第1段階の部分合意で12月の追加関税が見送られ、今後の協議に向けて関税の一部撤廃の動きが出ると、先行きに対する楽観的な見方が強まり、金は利食い売り主導でレンジ下限を割り込む可能性が出てくる。

 しかし、中国が構造問題で合意するのは難しいとの見方もあり、協議が難航すればトランプ米大統領が再び強硬姿勢に戻る可能性もある。米国が12月の追加関税を見送っても世界経済の減速見通しに変わりはなく、回復に転じるかどうかは米中の通商協議の進み具合に左右される。

●米FOMCで12月の利下げ休止示唆も来年の利下げの可能性残る

 10月30~31日の米連邦公開市場委員会(FOMC)ではフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を1.50~1.75%に引き下げることが決定された。7月、9月に続いて3回連続の利下げとなった。また、FOMC声明から「適切に行動する」との文言が削除され、利下げ休止が示唆された。

 パウエルFRB議長は記者会見で「金融政策は良い状況にある」と指摘したが、利上げには著しいインフレ率上昇が必要になる、とした。CMEのフェドウォッチによると、5日時点で12月のFF金利の誘導目標水準の確率は据え置きが94.8%(前月46.6%)、来年12月は据え置きが39.7%(同7.4%)、1.25~1.50%への利下げが38.9%(同21.0%)となった。12月に利下げが休止されても、来年の利下げの可能性が残っている。

 第3四半期の米国内総生産(GDP)速報値は前期比1.9%増と、事前予想の1.6%増を上回った。ただ、設備投資が2四半期連続で減少し、第2四半期の2.0%増から減速した。また、10月の米ISM製造業景気指数は48.3と、景気拡大・縮小の節目となる50を3ヵ月連続で下回った。

 中国の製造業PMI(購買担当者景況指数)は49.3と事前予想の49.8や前回の49.8を下回った。ユーロ圏の製造業PMI改定値は45.9と約7年ぶりの低水準だった9月の45.7からは改善したが、50を9ヵ月連続で下回った。世界的な製造業の減速が続いていることが改めて示された。

 一方、10月の米雇用統計で非農業部門雇用者数は12万8000人増加し、事前予想の8万9000人増を上回った。米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)のストライキにもかかわらず、労働市場は堅調となった。ただ、今後個人消費が伸び悩むと、労働市場に悪影響が出る可能性があり、引き続き経済指標を確認したい。

●米大統領の弾劾調査でウォーレンリスク

 米下院は10月31日、ウクライナ疑惑を巡るトランプ米大統領の弾劾調査を次段階に進める決議案を可決した。米下院は弾劾調査で公開証言などを行うことが可能になった。公開証言は数週間以内に開始する見通しである。ただ、米下院で弾劾訴追の決議案が可決されても、米上院では共和党が過半数議席を握っており、米大統領の罷免に必要な議員3分の2の賛成を得るのは難しいとみられている。

 米大統領選に向けて民主党の最有力候補はバイデン前副大統領だった。しかし、息子をかばうためウクライナ政府に検事総長の解任を要請したと伝えられ支持率が急落。その結果ウォーレン上院議員が首位となった。バイデン議員の息子であるハンター・バイデン氏はウクライナの天然ガス会社、ブリスマ・ホールディングスの取締役だった。米大統領の弾劾調査が進めばバイデン議員もダメージを受けることになるが、それでも民主党はトランプ米大統領の再選を阻もうとしている。

 ウォーレン議員は進歩的社会民主主義を掲げ、反大企業・反ウォール街であり、労働者や低所得者、女性の権利向上などを主張している。規制強化策や法人減税の見直し、富裕層向け課税が実施されると株安要因となる。また、同議員は「経済愛国主義」を唱え、対中関税を支持している。同議員が勝利すれば中国に対してトランプ米大統領よりも厳しい態度で臨むとみられている。

●金ETF残高は減少

 金の内部要因では、米中の通商協議の進展期待などを受けてファンド筋の手じまい売りが進んだが、売り一巡後はFRBの利下げ見通しなどを受けて買い直された。世界最大の金ETF(上場投信)であるSPDRゴールドの現物保有高は11月5日時点で915.85トンとなり、1ヵ月前から7.92トン減少した。

 一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは過去2番目の高水準となった9月24日時点の31万2444枚から10月15日時点で25万3027枚に縮小したが、29日時点では27万6515枚に戻した。米経済の先行き懸念が残ると、安値拾いの買いが続くとみられるが、米中の通商協議の進展期待が続くと、戻り場面で利食い売りが出ることになろう。

(minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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