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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―トランプウォッチが金融市場分析の根幹

スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役 植草一秀

第21回 トランプウォッチが金融市場分析の根幹

●米中部分合意の成立

 10月10-11日に開かれた米中閣僚級会合で部分合意が大枠で成立しました。中国が米国の農産品輸入拡大を確約し、米国は10月15日発動予定の関税率引き上げを先送りしました。また、中国が人民元下落を誘導しないことについても合意が得られたと伝えられています。

 5月5日のトランプ大統領ツイート以来、拡大してきた米中貿易戦争が初めて戦線縮小に一歩踏み出しました。部分合意を受けて予想通り内外株価は反発しました。トランプ大統領の頭の中は大統領再選に向けての戦略構築で一杯なのだと思います。2016年11月の大統領選直前に1万7800ドルだったNYダウが2万7000ドル台に上昇したのですから、普通に考えれば大統領再選は自然の成り行きです。

 ところが、トランプ大統領の再選への道は平坦ではありません。大統領就任時こそトランプ大統領の支持率は5割を確保して不支持率と拮抗しましたが、それ以降は支持率が45%、不支持率が55%の状態が続いています。歴代大統領のなかでも最低の支持率が続いているのです。

 昨年11月の上院議員選でトランプ大統領の共和党は過半数を維持しましたが、内容は大統領選への不安をかき立てるものでした。大統領選で勝利した州のうち、8つの州で敗北を喫したのです。これを大統領選にあてはめると223対315で民主党勝利になってしまいます。

●トランプ流ポリシー・ミックス

 トランプ大統領は中間選挙に異例とも言える注力を示しました。それにもかかわらず十分な戦績を残すことができなかったのです。全米で選挙が実施された下院選では199議席対234議席で大敗しました。さらに、下院はウクライナ大統領への不正な捜査依頼疑惑でトランプ大統領に対する弾劾手続きの調査に着手しました。大統領を弾劾するには上院の3分の2の賛成が必要で、弾劾の可能性は高くありませんが、大統領選に向けてトランプ大統領のイメージダウンにつながる証言が次々に噴出する可能性があります。

 こうした事情もあり、トランプ大統領は有権者にアピールする施策の提示に血眼になると思われます。トランプ大統領がもっとも力を注いでいるのが、景気拡大と株価上昇の維持です。エコノミストの視点から見れば、2019年に金融引き締めを実行して経済と株価のある程度の調整を済ませておけば、大統領選の2020年に経済と株価の堅調推移を演出できたと思います。一歩引き下がる戦術を採用した方が大統領再選には有利だったはずです。

 ところが、トランプ大統領は引き下がることを嫌います。中国に対して徹底的に強硬な姿勢を示す一方で、FRBに対して大幅利下げを要求し続けてきました。貿易戦争拡大が景気抑制効果を発揮しましたので利下げが実現し、このトランプ流のポリシー・ミックスが、これまでのところは上手く機能しましたが、今後については楽観できません。

●トランプ大統領が進むべき道

 大統領選まで調和の取れた組み合わせを維持できるかが不透明なのです。トランプ大統領はFRBが大幅利下げを実施するべきと主張しています。しかし、過去の検証では、大幅利下げ実施の局面では株価が暴落していることが分かります。トランプ大統領は大幅利下げで株価を引き上げたいのでしょうが、歴史事実はこの組み合わせが成立しにくいことを示しています。

 逆に1990年代にFRBは金利を微修正しています。小幅利下げと小幅利上げを繰り返した時期があるのです。このとき株価は上昇し続けました。9月のFOMCではメンバーのFFレート見通しが公表されましたが、年内に追加利下げを見通したメンバーが7名いた一方で、年内に利上げをするとしたメンバーが5名いました。

 トランプ大統領は大幅利下げ一本槍なのですが、FOMCメンバーの判断とは著しく異なっています。トランプ大統領は、米中交渉の軟着陸実現に注力して金融政策をFRBに委ねるべきで、この道を進むことが大統領再選への近道だと思います。ところが、トランプ大統領が強硬な対中国交渉とFRBへの過剰な介入の組み合わせで突っ走ると、米国経済は不況に転落し、大統領再選が遠のいてしまうことになるでしょう。

 10月にトランプ大統領が米中部分合意実現に進んだことは、トランプ大統領が中庸の道を進む可能性を保持していることを示すもので、現時点ではトランプ大統領が軟着陸路線を選択する可能性は否定されていません。

●新たな不況への突入

 2019年の金融変動を振り返ってみても、変動の転換点には決まってFRBの政策変化と米中貿易戦争の局面変化が存在します。すなわち、トランプ大統領を軸とする政策の一挙手一投足で金融変動が引き起こされていることになります。これは米国金融市場変動だけでなく、これと連動する世界の金融市場変動についてもあてはまる現象です。

 2019年の金融変動については会員制レポート『金利・為替・株価特報』に詳述しています。金融変動の事実経過は、金融変動予測、投資戦略構築の基礎に、トランプ大統領分析を置かなければならないことを意味しています。政策運営の基本が明らかにされ、先行き見通しを立てるための情報が十分に提示されるのが「フォワード・ルッキング」な政策対応ですが、トランプ大統領の行動はこれの真逆になってしまっています。政策のあり方の是非を論じることはできますが、これが現実である以上、この現実を踏まえて市場予測と戦略構築を行わなければなりません。

 10月24日にペンス副大統領が対中国政策について演説しました。昨年10月のペンス副大統領演説が対中国強硬姿勢を鮮明に示し、その後の米国政策運営と整合的であったことから、今回の演説が注目を集めました。結果は、基本路線踏襲でしたが、米中協調にも一部配慮が示されました。このことから、トランプ対中国政策が緩やかに軟化する可能性が少しずつ高まりつつあると考えられます。引き続き、トランプウォッチの必要性が高い状態が持続することになりそうです。

(2019年10月25日 記/次回は11月9日配信予定)

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