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【特集】気象、いまそこにある投資機会 「ウェザーテック株」フロンティアを行く <株探トップ特集>

気象データは宝の山――。気象データの活用が巨大な経済効果を生むと予想されている。注目が高まるウェザーテックの最前線を探った。

―経済効果“18兆円”、気象データ活用が拓く大市場の可能性―

 気象データに人工知能(AI)などを絡み合わせた「ウェザーテック」が高い関心を集めている。地球規模での異常気象が頻繁に起き、より高精度な天気予報が求められるなか、 気象ビジネスは最先端のIT技術と融合し爆発的に進化する市場といわれている。IoTセンサー ビッグデータをもとに、AIによる解析でビジネス向け気象予測を行う企業はここ数年で急増している。気象庁は、安倍政権が進める「生産性革命」のもと、2018年に「気象ビジネス支援企画室」を設け、市場の創出に積極的に取り組んでいる。18年6月には新たにスーパーコンピューターを導入し、従来よりも正確で長期間先までの天気情報を予測することができるようになった。急成長が続くウェザーテック市場の動向を探った。

●気象データは「宝の山」、日本には約18兆円の市場が存在

 「宝の山」である気象データは、日本ではまだ充分に活用が進んでいないといわれる。総務省の「平成27年版情報通信白書」によると、企業が分析に活用しているデータの割合は顧客データが46.7%、電子メールが31.2%なのに対して、気象データは1.3%に過ぎない。売り上げに影響を与える気温などの気象情報を、米国では1ヵ月前から正確に予測できるようになり、機会損失や売れ残りを最小限に抑えることに成功した事例が出ている。米国の民間気象事業会社、AccuWeatherによると、気象データの活用がもたらす経済効果は11年時点でGDPの約3.4%に当たる53兆円(1ドル=100円)と推計されている。これを日本に当てはめると約18兆円と試算され、国内の気象ビジネス市場が長年300億円前後で推移していることを考慮すると、莫大な未開拓市場が広がっていることになる。

●WNIウェザは仏企業買収でグローバル展開を推進

 ひと口に気象データの活用といっても、事業のシステムや自社サービスに気象データをどう組み込むか悩む企業は多い。こうしたなか、民間気象事業者を巻き込んだ事業提携やM&Aといった再編の動きが活発化している。直近で話題を集めたのが、民間気象情報で世界トップのウェザーニューズ <4825> によるMetnext(フランス)の買収だ。Metnextは欧州で再生可能エネルギーの発電量想定や、天候と連動する電気などのエネルギーと一般小売商品の需要想定、農業ICT分野において実績を持ち、欧州におけるグローバル展開の足掛かりになるとみられている。

 また、IT業界の巨人、米IBMの取り組みからは目が離せない。同社は17年、気象情報大手の米ウェザー・カンパニーを買収し本格的な企業向け予測サービスに事業参入した。ウェザー・カンパニーは、IoTセンサークラウドコンピューティング、そしてビッグデータ解析を組み合わせた地球規模の気象予測システムの構築をすすめている。これは、10万台規模のIoT化した気象センサーを世界各地に設置するだけでなく、移動中の航空機や車両、更には個人が携帯している何百万台ものスマートフォンも情報収集源にして、これらから送られてくるデータをクラウド上に転送し、ビッグデータ解析したものを企業向けに提供する。これが進展すれば前例のない大規模なIoT観測システムを構築できることから注目が集まっている。IBMは世界のなかでも日本市場に高い関心を寄せている。日本の製造業が重要顧客だからだ。

 更に、電通 <4324> 傘下の電通テック(東京都千代田区)は、日本IBMと連携し気象変化による顧客心理状況を捉えて広告を配信できる顧客情報管理(CRM)システムを開発した。食品や飲料、旅行、外食、化粧品などを扱う企業を対象に昨年6月から運用を始めている。同社によると、気象状況に収益が左右される企業は多く、天候の変化を踏まえた広告配信システムは利用企業の裾野が広い。今後、先行導入した企業で広告効果を示すことができれば、気象ビジネスにおける日本IBMなどのデータを持つ企業の存在感は増しそうだ。

●気象ビッグデータ活用し農業やエネルギー分野に展開進める

 NTTデータ <9613> 傘下のハレックスは、気象ビッグデータのリアルタイム処理をオンラインで実行する独自ツール「Weatherview」を開発、このツールをベースに「HalexDream!」と呼ばれるサービスを開発・提供する。HalexDream!は高い情報鮮度とエリア情報の詳細さを特徴としている。また、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)として提供されていることで、ユーザーの防災/安全対策システムに組み込まれ、既に鉄道会社の運行管理システムや地方自治体の防災システムに利用されているが、今後農業やエネルギー分野への活用も期待されている。

 千葉銀行 <8331> など地方銀行系ファンド4社から出資を受けたオクト(東京都千代田区)は気象データを活用して、現場の効率化から経営改善まで一元で管理するクラウド型建設プロジェクト管理ツール「&ANDPAD」(アンドパッド)を今年拡充すると発表した。同社が開発・運営するアンドパッドの新サービスは、気象による工程への影響を事前に予測することができ、対策を迅速に行って時間やコストを削減し、建築現場の生産性向上を支援する。同サービスは8月現在で1600社を超える企業が導入しており、シェアナンバーワンの施工管理アプリとして人気を呼んでいる。

●エコモットは北海道のインバウンド需要拡大に活用

 観光業界における活用も進行中だ。日本政府観光局(JNTO)の推計によると、8月の訪日外客数は前年同月比2.2%減の252万人と11ヵ月ぶりに前年割れとなったが、7月は過去最多を記録するなど、高水準をキープしている。

 地震や台風といった自然災害が絶えない日本で、訪日客を喚起するには、災害への不安を和らげる環境面の整備が課題となる。IoTソリューションの企画や端末の製造を手掛けるエコモット <3987> [東証M]は、北海道庁が運営するブログ、SNSの観光・防災情報などのコンテンツから抜粋した情報を14言語で外国人観光客に伝える「MOTENAZ CLOUD(モテナスクラウド)」を展開することで、北海道へのインバウンド観光需要拡大に貢献している。

 更に同社が開発した位置情報を発信するハンディ位置情報デバイス「HLP-200」は、小型軽量ながらバッテリーによる長時間の位置情報収集が可能であり、非常時には訪日客の位置情報を踏まえたメール配信リストを作って自治体担当者が被災状況や避難所の開設場所などの情報を配信できる。エコモットは20年までに3万台の端末を生産して道内各所と連携する予定で、今後五輪に向けて観光客が更に増えると予想されるなか引き合いが活発化しそうだ。

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