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【特集】運営会社が破産、女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」の投資家たちは今――その1
株探プレミアム・リポート
女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」事件が発覚してから1年半あまり。運営会社のスマートデイズ(SD、東京都中央区)が資金繰りの悪化で2018年4月に経営破綻し、約700人の投資家が本来受け取るはずの満室の保証賃料を、受け取れない状態に追い込まれた。
投資家の多くはフルローンと呼ぶ物件購入価格とほぼ同じ額を借り入れ、その融資では提携先のスルガ銀行 <8358> が審査書類を改ざんしていたこともあって、事件は社会問題に発展。関連ニュースが連日のように報道された。それも今は昔、事件は人々の記憶から消えようとしている。
しかし、かぼちゃの馬車のオーナーにとっては、事件を忘れたくても忘れられない日々が続く。毎月受け取るはずの保証家賃をなくなっても、ローンの返済は免れることはできない。『株探』プレミアムでは、彼らがその後、どのような日々を送っているのかを追った。
中には、毎月、巨額の赤字が出ていた物件を努力して黒字化することに成功した人もいれば、投資家としての自覚が足りず、黒字化に苦戦している人とさまざま。また途中で連絡が音信不通になってしまった人もいた。
不動産投資に限らず、どんな投資にも失敗はつきまとう。その失敗を糧に何を得るか、得ようとするかで、その後の投資人生で見えてくる風景は変わってくるはずだ。「かぼちゃの馬車」オーナーたちの歩みに、投資家が得られる教訓は多い。
満室保証家賃を支払うビジネスモデルが破綻
まず事件について簡単におさらいしよう。「かぼちゃの馬車」は2014年4月から首都圏を中心に展開された投資用物件で、その建築・販売を行っていたのが、破綻したSDだ。同社は投資家に保証した賃料を毎月支払う「サブリース」と呼ばれる仕組みで、業容を急拡大した。
彼らが投資家を獲得するうたい文句にしていたのが、「『家賃0円・空室有』でも儲かる不動産投資」。サブリース販売の他にも、上京した女性に職業を斡旋して紹介料がプラス数万円入る事業モデルも加え、一定以上の収入がある大手企業の30~40代の会社員らに物件を販売してきた。
■「かぼちゃの馬車」の宣伝に使った書籍の表紙
急速に事業を拡大したSDは、17年半ば、メーンバンクのスルガ銀行に融資を打ち切られたことで、状況は一変。保証賃料の支払いの一部が滞り始め、18年1月に入って完全に停止。そして冒頭に触れたように、5月に破産手続きに入った。
そんなシェアハウスを買ったオーナーたちはどうしているのか。
「誰に頼るか」で明暗がくっきり
大半の物件が「新築の家賃設定のままでは入居率10~40%程度」(不動産業者)といわれている。厳しい運営の中で、億単位のローンを返済しないといけない。
もっとも、投資家の多くは、現在ローン返済が事実上猶予されている。不正融資で批判を浴びたスルガ銀行が金利の引き下げや元本の一部カットなどの交渉の間は、返済の猶予に応じている。話がまとまり次第、順次ローン返済が再開される見通しだ。
だがローンそのものがなくなるわけではないため、物件収支の黒字化は必須だ。取材を進めると投資家の多くは、第三者に打開策を相談していた。その相手とは、賃貸経営のコンサルタント、プロの不動産投資家、シェアハウスの販売代行業者、弁護士とさまざまだ。
相談相手とタッグを組んで黒字化に成功したオーナーもいれば、「被害者支援」をうたう別の詐欺業者に騙されてそのまま音信不通になったり、弁護士に依頼して購入した物件を代物弁済するためにスルガ銀行と係争したりと、頼る相手によって、その後の命運が左右されていることが分かった。
黒字を達成できた人と事態を悪化させた人では、何を見誤り、どこで判断を間違えたのか。まずは二次被害に見舞われた落合健二さん(仮名・49歳・東京都大田区)の事例から紹介したい。
入居率40%、うたい文句と違い「空室あり」は赤字
落合さんは大手電機メーカー勤務のサラリーマンで、年収800万円。17年3月、副収入を求めて1棟1億1000万円の「かぼちゃの馬車」をフルローンで購入した。物件は、品川区・西大井駅から徒歩12分で部屋数は10室だ。
この物件の入居率は40%。つまり10室中6室は空室となっていた。周辺のワンルーム相場と比べると、その人気の低さは納得がいく。下の表のように家賃は相場と比べて1万円ほど高い上に、部屋の広さや水回りの設備面でも劣っている。
厳密には、落合さんの物件の例は、18年時点なので現在のワンルーム相場との比較は正確ではないが、家賃は1年で大きく変動することはないので、参考として掲載した。
部屋の仕様をみると、シェアハウスは「風呂・トイレ」「キッチン」が共同利用に対し、ワンルームはそれらの設備が各室に付いている。部屋の広さも、シェアハウスは7㎡と、ワンルームの10~15㎡と比べて手狭だ。
シェアハウスを6000室ほど管理する業界大手・オークハウスの海老原大介・営業本部長は「シェアハウスに住む若者のほとんどが、相場より安い家賃にひかれて入居を決める」と話す。その点で落合さんのシェアハウスは入居者のニーズからずれていることになる。
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。
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筆者:千住さとし(Satoshi Senzyu)
ライター。不動産会社、ハウスメーカー、不動産投資家などを精力的に取材している。
ライター。不動産会社、ハウスメーカー、不動産投資家などを精力的に取材している。
女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」事件が発覚してから1年半あまり。運営会社のスマートデイズ(SD、東京都中央区)が資金繰りの悪化で2018年4月に経営破綻し、約700人の投資家が本来受け取るはずの満室の保証賃料を、受け取れない状態に追い込まれた。
投資家の多くはフルローンと呼ぶ物件購入価格とほぼ同じ額を借り入れ、その融資では提携先のスルガ銀行 <8358> が審査書類を改ざんしていたこともあって、事件は社会問題に発展。関連ニュースが連日のように報道された。それも今は昔、事件は人々の記憶から消えようとしている。
しかし、かぼちゃの馬車のオーナーにとっては、事件を忘れたくても忘れられない日々が続く。毎月受け取るはずの保証家賃をなくなっても、ローンの返済は免れることはできない。『株探』プレミアムでは、彼らがその後、どのような日々を送っているのかを追った。
中には、毎月、巨額の赤字が出ていた物件を努力して黒字化することに成功した人もいれば、投資家としての自覚が足りず、黒字化に苦戦している人とさまざま。また途中で連絡が音信不通になってしまった人もいた。
不動産投資に限らず、どんな投資にも失敗はつきまとう。その失敗を糧に何を得るか、得ようとするかで、その後の投資人生で見えてくる風景は変わってくるはずだ。「かぼちゃの馬車」オーナーたちの歩みに、投資家が得られる教訓は多い。
満室保証家賃を支払うビジネスモデルが破綻
まず事件について簡単におさらいしよう。「かぼちゃの馬車」は2014年4月から首都圏を中心に展開された投資用物件で、その建築・販売を行っていたのが、破綻したSDだ。同社は投資家に保証した賃料を毎月支払う「サブリース」と呼ばれる仕組みで、業容を急拡大した。
彼らが投資家を獲得するうたい文句にしていたのが、「『家賃0円・空室有』でも儲かる不動産投資」。サブリース販売の他にも、上京した女性に職業を斡旋して紹介料がプラス数万円入る事業モデルも加え、一定以上の収入がある大手企業の30~40代の会社員らに物件を販売してきた。
■「かぼちゃの馬車」の宣伝に使った書籍の表紙
急速に事業を拡大したSDは、17年半ば、メーンバンクのスルガ銀行に融資を打ち切られたことで、状況は一変。保証賃料の支払いの一部が滞り始め、18年1月に入って完全に停止。そして冒頭に触れたように、5月に破産手続きに入った。
そんなシェアハウスを買ったオーナーたちはどうしているのか。
「誰に頼るか」で明暗がくっきり
大半の物件が「新築の家賃設定のままでは入居率10~40%程度」(不動産業者)といわれている。厳しい運営の中で、億単位のローンを返済しないといけない。
もっとも、投資家の多くは、現在ローン返済が事実上猶予されている。不正融資で批判を浴びたスルガ銀行が金利の引き下げや元本の一部カットなどの交渉の間は、返済の猶予に応じている。話がまとまり次第、順次ローン返済が再開される見通しだ。
だがローンそのものがなくなるわけではないため、物件収支の黒字化は必須だ。取材を進めると投資家の多くは、第三者に打開策を相談していた。その相手とは、賃貸経営のコンサルタント、プロの不動産投資家、シェアハウスの販売代行業者、弁護士とさまざまだ。
相談相手とタッグを組んで黒字化に成功したオーナーもいれば、「被害者支援」をうたう別の詐欺業者に騙されてそのまま音信不通になったり、弁護士に依頼して購入した物件を代物弁済するためにスルガ銀行と係争したりと、頼る相手によって、その後の命運が左右されていることが分かった。
黒字を達成できた人と事態を悪化させた人では、何を見誤り、どこで判断を間違えたのか。まずは二次被害に見舞われた落合健二さん(仮名・49歳・東京都大田区)の事例から紹介したい。
入居率40%、うたい文句と違い「空室あり」は赤字
落合さんは大手電機メーカー勤務のサラリーマンで、年収800万円。17年3月、副収入を求めて1棟1億1000万円の「かぼちゃの馬車」をフルローンで購入した。物件は、品川区・西大井駅から徒歩12分で部屋数は10室だ。
この物件の入居率は40%。つまり10室中6室は空室となっていた。周辺のワンルーム相場と比べると、その人気の低さは納得がいく。下の表のように家賃は相場と比べて1万円ほど高い上に、部屋の広さや水回りの設備面でも劣っている。
厳密には、落合さんの物件の例は、18年時点なので現在のワンルーム相場との比較は正確ではないが、家賃は1年で大きく変動することはないので、参考として掲載した。
部屋の仕様をみると、シェアハウスは「風呂・トイレ」「キッチン」が共同利用に対し、ワンルームはそれらの設備が各室に付いている。部屋の広さも、シェアハウスは7㎡と、ワンルームの10~15㎡と比べて手狭だ。
シェアハウスを6000室ほど管理する業界大手・オークハウスの海老原大介・営業本部長は「シェアハウスに住む若者のほとんどが、相場より安い家賃にひかれて入居を決める」と話す。その点で落合さんのシェアハウスは入居者のニーズからずれていることになる。
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。
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