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【特集】「紙パ関連」舞う! G20接近で脱プラ脚光、CNF1兆円市場も追い風に <株探トップ特集>

ペーパレス時代を背景に一時は斜陽産業の一角に名を連ねた製紙業界だったが、いまや状況は様変わりし、株式市場でも注目セクターとなりつつある。期待の注目株を追った。

―社会の構造変化で斜陽産業から一転、株高材料豊富で一躍檜舞台へと向かう―

 製紙業界に熱い視線が向けられている。ペーパーレス時代を背景に、一時は斜陽産業の一角に名を連ねたこともあったが、いまや状況は一変、株式市場でも注目のセクターへと様変わりしている。製紙業界が先導する「セルロースナノファイバー(CNF)」、ネット通販増加での需要が急拡大している「段ボール 」、更には脱プラスチックの動きを受けて代替需要としての「紙製品」への思惑など、注目材料が満載だ。6月後半に大阪で開催される20ヵ国・地域首脳会合(G20サミット)でも、海洋のプラスチックごみ削減が重要議題の一つに上ることから、「紙・パ株」は思惑買いを誘う可能性がある。段ボール需要拡大、CNF実用化、脱プラと、「売り手に良し」「買い手に良し」「世間に良し」のまさに“三方良し”の紙・パルプ株 に改めて注目した。

●脱プラ、CNF、段ボールで檜舞台へ

 ここ数年で製紙業界を巡る状況が大きく変化している。紙需要の減少を受け、製紙業界には暗雲が立ち込めていたが、時代の要請は再び同業界を檜舞台へと向かわせている。

 プラスチックごみの削減が急務となるなか、脱プラスチックの象徴として登場したのが「紙ストロー」だった。昨年8月には、すかいらーくホールディングス <3197> が2020年までに全業態においてプラスチック製ストローの使用を順次廃止することを発表、これが刺激材料になり「脱プラ」関連株の一角として紙・パ株にも注目が集まった。もちろん、土や海水中などの微生物に分解され、最終的には水や二酸化炭素になる「生分解性プラスチック」の開発も化学メーカーに加え製紙メーカーなどでも進展しているが、紙ストローという身近な存在が、投資家の食指を動かした格好だ。日本が初の議長国となる大阪G20サミットでは、海洋プラスチックごみ対策が重要議題になるだけに、G20開催接近で思惑買いを招く可能性もある。

 また、少し前まで斜陽産業と言われ意気消沈していた製紙業界に、光明をもたらしたのがCNFだった。CNFは、木質パルプなどを原料とし、植物繊維をナノレベルに精製した素材。鉄鋼の5分の1の軽さで、強度が同5倍以上という優れた特性を持っている。株式市場においても早くから注目されてはいたが、製品化への道は険しく、いわゆる“理想買い”の段階が長らく続いていた。しかし、ここにきて実用化への道筋が大きく開けており、満を持して“現実買い”のステージに登ろうとしている。経済産業省は、30年にCNFを1兆円市場へと育成する目標を掲げているが、これが実現すれば開発を牽引してきた製紙業界は大変貌の時を迎えるのは必至だ。

 更に、インターネット通販市場の急拡大が、商品を配送するための“段ボール特需”を招いていることも、紙・パ株の再評価につながっている。製紙業界は、急激な社会構造の変化のもと、斜陽産業の汚名を返上し、いま再び輝きを取り戻そうとしている。

●王子HDは生産体制再構築、CNFの商品化加速

 こうした追い風が製紙業界に吹くなか、王子ホールディングス <3861> は22日、生産体制の再構築を発表した。印刷用紙などの需要減を受け、3工場の一部設備を停止すると発表。また、苫小牧工場については段ボール需要の拡大を受け、一部設備を段ボール紙・クラフト紙の製造設備に改造する。設備投資額は150億円とするが、これによるコスト削減額は年間37億円を見込んでいる。再構築は国内需要の構造的な変化に対応するものだが、同社では「(段ボール紙は)注力分野の一つ」(広報IR室)としており、今後も継続が見込まれる需要拡大に対応する構えだ。

 CNFについては、今年に入ってからも生コンクリート圧送先行剤「ルブリ」へ同社のCNF「アウロ・ヴィスコ」が採用、化粧品原料向けCNF「アウロ・ヴィスコ CS」の製品化、今月20日にはウシオ電機 <6925> と共同でCNF透明シート上への微細パターニングに成功したと発表するなど、着々と商品化を進めている。同社ではCNFについて「研究開発段階を抜けて、実際の用途実現、拡大の段階に入っており、今後大きな需要をにらみ商品化の動きを加速させていく」(同)という。株価は4月3日に726円まで買われ年初来高値をつけたものの、全般相場の軟調地合いもあり、その後は調整局面入り。現在は600円を挟みもみ合う展開だ。

●CNFで連携進む日本紙、紙ストローは引き合い活発

 王子HDと製紙業界の覇権を競う日本製紙 <3863> だが、株式市場においてはCNFを牽引してきた代表格としての評価が高い。同社は、脱プラスチックへの動きが加速するなか、4月から紙製ストローの販売を開始した。話題が先行する形の紙ストローだが、同社では「引き合いは活発だ。こういった製品をきっかけとして、さまざまな分野で紙に置き換えができるような可能性を探りたい」(広報)としており、需要拡大へ向けてニーズを引き出す構えだ。またCNFについては、「用途開発に向けては、企業名は言えないが、具体的にさまざまな連携が進んでいる」(同)と話す。株価は王子HD同様、4月初旬に年初来高値を更新した後は冴えない状況が続いている。

●大王紙、株価は頑強展開

 製紙業界を巡る話題は尽きないが、王子HD、日本紙をはじめとして総じて業績もいい。直近では大王製紙 <3880> が17日の取引時間中に発表した19年3月期連結決算で、営業利益が従来予想の100億円を大きく上振れて前の期比9.6%増の121億2200万円と増益で着地。また、20年3月期連結業績予想で前期比65.0%増の同200億円と大幅増益を見込んでいる。株価は14日に1204円まで売られ年初来安値を更新していたが、17日の決算を受け急伸し上ヒゲで1375円まで買われた。その後も地合い悪を無視し、1300円近辺で頑強展開となっている。

●CNF、本丸は“自動車”

 北越コーポレーション <3865> は17日取引終了後に19年3月期決算を発表。増収ながら減益を余儀なくされたが、20年3月期の業績予想は売上高が前期比3%増と増収を確保し、営業利益は同63%増と急拡大を見込んでいる。また、3月25日、CNFと炭素繊維を融合させた新しい複合材料を開発したと発表。現在は、子会社の北越東洋ファイバーで既に量産技術を確立し、顧客ニーズに対応するためカスタマイズを進めており、自動車部品、電子機器部品・筐体(きょうたい)、建材などへの応用を図っているという。

 中越パルプ工業 <3877> もCNFで攻勢をかけている。15日に、量産化に向け高岡工場内(富山県高岡市)に高機能セルロースナノファイバーのパイロットプラントを建設すると発表。建設するのは3プラントで、それぞれ21~22年の稼働を予定している。株価面では商い薄が難点だが、CNFが注目を浴びるなか目を配っておきたい。

 また、きょう三菱製紙 <3864> は紙素材でありながら食品梱包に求められる高度なバリア性を有し、優れた生分解性と古紙リサイクル可能な環境に優しい食品包装用コート紙「バリコート」を日本を含むアジア地域で9月から販売開始すると発表。同製品は、既に欧州大手食品メーカーで採用されており、脱プラが進むなか今後の展開が期待される。これを受け、きょう株価は急動意、脱プラに対する関心の高さを改めて印象付けている。

 こうしたCNFの商品化が加速するなか、ある業界関係者は「CNF戦略の本丸は“自動車”」と語る。素材として自動車製造分野での用途活用が実用化されれば、そこには「新しい世界が待っている」と、将来待ち受ける巨大な市場に期待をかける。

●まだまだ続く段ボール需要の拡大

 配送ドライバーの労働環境の悪化など社会問題化したネット通販市場の急拡大だが、皮肉なことに段ボール業界を潤すこととなった。配達商品の急増は段ボール需要を驚異的に増加させ、同関連株にも物色の矛先が向かった。もちろん、現在もなおネット通販市場は拡大を続けており業績を後押しする。段ボール業界の雄・レンゴー <3941> もネット通販の恩恵を享受しており業績好調だ。同社は10日、20年3月期連結業績予想で、営業利益が前期比38.4%増の350億円、純利益は同45.7%増となる250億円と大幅増益を見込むと発表。年間配当は前期比2円増の16円を予定している。板紙・紙加工関連事業を中心に設備投資を積極化させているため償却費が増加する見込みだが、前期から取り組んできた製品価格の値上げ効果が想定されるほか、提案型営業の推進が寄与し大幅増益となる見通しだ。

 また、この分野ではトーモク <3946> にも注目。出来高流動性に乏しいものの、株価は3月8日の直近安値1544円を底にジワリ切り返し、現在は1700円中盤でもみ合っている。

 脱プラという時代の要請、CNF実用化で巨大マーケットの出現、段ボール需要拡大継続が製紙業界をいま新たな主役へと導きそう。三方良しの紙・パ株、更に「業績良し」で、まさに「四方良し」といえそうだ。

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