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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ― 基本ファクター変化から市場変動を先読み

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第7回 基本ファクター変化から市場変動を先読みする

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

●株価下落の三要因

 昨年10月初から12月末にかけてグローバルに株価が急落しました。 NYダウは史上最高値を更新した局面、 日経平均株価は27年ぶりの高値を記録した局面でした。金融市場の変動は文字通り「一瞬先は闇」ということがよく分かります。

 この株価急落のきっかけは中国株価の急落にありました。国慶節の連休明けに合わせて中国人民銀行が預金準備率引き下げを決定したのですが、これを受けて上海総合指数が3.7%急落し、これがNY市場の株価急落につながったのだと見られます。預金準備率引き下げが中国経済の先行き不安感を強く意識させることにつながったのだと考えられます。

 NYダウは19.4%、日経平均株価は22.5%も急落しました。2009年のサブプライム金融危機に伴う株価暴落の安値から丸10年の時間が経過するなかで、新たな金融危機発生のリスクが取り沙汰されるようになりました。筆者はこの期間の株価急落の背景になった要因を三つ挙げてきました。(1)米中貿易戦争、(2)米国金融引き締め政策、(3)日本増税政策です。

 米中貿易戦争は12月初の米中首脳会談で収束の方向に進むかに見られましたが、直後に中国先進企業ファーウェイ幹部がカナダで逮捕されて、逆に緊張が高まりました。12月19日にはFRBが2018年4度目の利上げを決定し、さらに2019年に2回、2020年に1回の利上げを実施する見通しを示しました。他方、日本の安倍首相は10月15日に2019年10月の消費税率10%への引き上げを具体的に指示しました。

 これらを背景にグローバルな株価急落が進行し、新たな金融危機発生が強く警戒されたのです。

●インフォメーションVSインテリジェンス

 「禍福はあざなえる縄のごとし」と言いますが、株価最高値の直後に襲来した株価急落。先行きは闇に見えたのですが、がらりと風景が変わりました。1月4日にFRBのパウエル議長が講演で「迅速かつ柔軟に政策を見直す用意がある」と述べたのです。筆者はこの発言を踏まえて1月15日発行の会員制レポートで「株価警戒警報解除」を明記しました。

 日経平均株価は筆者が予測したとおり、2007年後半の推移と酷似した変動を示していましたが、この連動からの離脱を予測したのです。実際に、グローバルに株価は急反発を示しました。ある変化が生じたときに、その変化のインパクトを正確に予測するためには、現在の金融変動、株価変動が何を主因として引き起こされているのかを正確に把握していることが必要になります。

 米国の金融引き締め政策が株価急落の主因のひとつであるとの「洞察」があって、初めてパウエル発言後の相場急変を予測できることになるのです。株価が反発し切ったあとで、パウエル発言が株価の流れを変えたと「理解」できても、投資には役立ちません。この「理解」を蓄積しておいて、パウエル発言があった瞬間に相場の急変を予測できて、初めて投資に役立つ「洞察」になるのです。

 ある変化が生じたときに、過去の蓄積、論理から未来を正確に「洞察」することは、「インフォメーション」ではなく「インテリジェンス」によってもたらされます。投資に必要な情報活用は、この「インテリジェンス」にあると言えるでしょう。

●君子は豹変する?

 パウエルFRB議長の力量は未知数で、これが原因で2018年1月から2月にかけて金融市場が動揺しました。しかし、この動揺をパウエル議長は昨年2月の議会証言で払拭しました。昨年12月のFOMC決定はグローバルな株価急落を引き起こしましたが、パウエル議長は1月4日にFOMC決定を全否定するような発言を示して金融市場の流れを変えました。「君子は豹変する」という言葉は褒め言葉なのですが、これに該当する行動であったと言えるでしょう。

 1月になると、もうひとつの株価下落要因である米中通商交渉に変化が観察されました。米中交渉が加速し、協議が妥結するとの楽観的な見通しも浮上するようになりました。さらに、日本の増税政策に影響を与える情報が流布される状況が発生しています。日本経済の変調がメディアによって強調され始めているのです。

 これまで日本のメディアは経済悪化を示す経済指標を大きく取り上げてきませんでしたが、ここに来て、急激に経済悪化を強調するニュースが増えました。安倍内閣が消費税増税を再々延期する下地を作るためにメディアにこの種の情報を流布させている可能性があります。この意味で、日本増税政策にも変化の兆しが観察されています。

 この変化を受けてグローバルに株価が反発し、新たな潮流を形成し始めているように見えます。高値警戒感はあるのですが、全体としては株価の強い基調が生み出され始めているように見えます。

●注意を怠らずに基本観を持つ

 2月末の米朝首脳会談が物別れになったことで水が差されましたが、ここで先行きをどのように「洞察」するのかが重要になります。米朝に続いて米中協議も物別れになるかも知れない。このような警戒感が広がったからです。

 米中協議の鍵を握るのはトランプ大統領と習近平主席です。トランプ大統領は2020年の大統領再選を最重要目標に置いています。習近平主席は中国経済の底割れ回避を最重視していると考えられます。このことを踏まえると、二人の首脳は交渉を決裂させるよりも、交渉を何らかのかたちで着地させる方向に強いインセンティブを有していると考えられます。

 これを前提に考えれば、米中通商協議は紆余曲折があるにせよ、最終的に着地すると判断するのが妥当であると考えられます。また、米朝協議もトランプ大統領の事情を踏まえれば、決裂させるわけにはいかないと判断できます。今後は北朝鮮との駆け引きが激化すると思われますので、なお、いくたびかの紆余曲折が予想されますが、最終的には交渉成立に向かう公算が高いと判断されます。

 パウエルFRB議長は1月に路線転換を示唆しましたが、その後は、その路線を確実に進んでいます。3月20日FOMCでは2019年利上げゼロの見通しが示されました。3月8日発表の2月雇用統計で雇用者増加数が2万人に急減したことが、これらの政策変更を支えることになりました。

 注意しなければならないのは、1回の雇用統計で市場心理が急変することがあり得ることです。足下では株価下落要因が大幅に後退していますが、金融変動の「一瞬先が闇」であることを忘れてはいけません。注意を怠らぬように基本観を保持することが大切です。

(2019年3月22日 記/次回は4月13日配信予定)


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