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【特集】「水素社会」実現に大きな役割、アンモニア関連株に注目なワケ <株探トップ特集>

クリーンエネルギーとして期待が高まる水素。普及へのネックはガソリンの数倍に達するコストだが、こうしたなか注目が高まっているのがアンモニアだ。

―水素製造コスト低減へ大きな役割、相次ぐ研究成果発表とこれから―

 化石燃料の枯渇に伴うエネルギー問題や、大量のエネルギー消費による環境汚染問題などの解決に向け、燃焼後は水しか出ない 水素がクリーンエネルギーとして期待されている。国内では2009年に家庭用燃料電池が発売され、14年には燃料電池自動車(FCV)が登場しているものの、現状では水素社会の実現までには至っていない。その要因のひとつが水素の製造・貯蔵・輸送にはコストがかかり、現在供給されている水素はガソリンの数倍となっていることが挙げられる。こうしたなか、その特性から既に幅広く利用されている「アンモニア」が新たなエネルギー源として注目されている。

●水素エネルギーキャリアとして注目高まる

  水素は、化石燃料と二酸化炭素回収・貯留、または再生可能エネルギーなどのリソースを結びつけ、脱炭素化を実現するキーテクノロジーであり、世界各国で水素利用に向けたさまざまな取り組みが進められている。内閣府は14年度から「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」で、30年までに日本が革新的で低炭素な水素エネルギー社会を実現し、水素関連産業で世界市場をリードすることを目指したエネルギーキャリア(気体のままでは貯蔵や長距離輸送の効率が低い水素を、液体にしたり水素化合物にしたりして効率的に貯蔵・運搬する方法)の研究開発を行っている。

 水素エネルギーを本格的に活用していくためには、輸送や貯蔵などの効率性が課題となっており、水素を アンモニアや液化水素、有機ハイドライドなどのエネルギーキャリアに変換する必要がある。なかでも成分中に水素を多く含むアンモニアは、室温かつ10気圧程度の条件で容易に液体となることから貯蔵や運搬がしやすいといった面を持つ。また、肥料や化学原料として広く利用され、既に輸送インフラが整っており、いままでの技術を活用できることも他の方法に比べた大きな利点となる。

 政府は17年12月に策定した「水素基本戦略」で、30年にFCV80万台程度(現在は2000台程度)、水素ステーション900ヵ所(同100ヵ所程度)などの目標を掲げているが、水素社会の実現はキャリアとしてのアンモニア製造および利用技術開発がカギを握りそうで、足もとでは研究開発の成果が相次いで発表されている。

●沢藤電機は水素製造装置の高出力化に成功

 澤藤電機 <6901> は5月28日、岐阜大学との共同研究により開発していた、プラズマを用いた水素製造装置「プラズマメンブレンリアクター(PMR)」の高出力化に成功したことを明らかにした。PMRはアンモニアから99.999%の高純度水素を毎時150リットル製造できるほか、99.9%の低純度水素から99.999%の高純度水素を毎時385リットル精製することが可能。この技術により、水素をアンモニアで貯蔵して、必要な時に必要な場所で、必要な量の高純度水素を取り出すことができ、今後、水素ステーションや燃料電池発電機、半導体製造プロセス、モビリティなどへの応用が期待される。

●日揮はアンモニア合成実証試験装置の運転開始

 日揮 <1963> も5月28日、産業技術総合研究所と共同で研究を進めていた新規アンモニア合成触媒を用いたアンモニア合成プロセスの実証試験装置が完成し、運転を開始したと発表した。同社は14年から再生可能エネルギーによる水の電気分解で得られた水素を原料としたアンモニア合成プロセスの研究開発を進めており、この方法は水素製造時に二酸化炭素を排出しないことなどが特徴。実証試験は今年末ごろまで行われる予定で、水素エネルギーキャリア実現への取り組みとして注目される。

●IHIは アンモニアを燃料とした発電に成功

 IHI <7013> は5月16日、アンモニアを燃料として直接供給する固体酸化物形燃料電池(SOFC)システムを開発し、横浜事業所で1キロワット級の発電に成功したと発表。同社はアンモニアの製造から利用までをつなぐバリューチェーンの構築を目指し、SIP支援のもと、アンモニアを燃料として利用するガスタービンや石炭火力ボイラーの燃焼技術や、SOFCの開発に取り組んでいる。

●味の素、昭電工、日触媒、ノリタケなどにも注目

 また、17年7月には科学技術振興機構(JST)が、京都大学、ノリタケカンパニーリミテド <5331> 、IHI、日本触媒 <4114> 、豊田自動織機 <6201> 、三井化学 <4183> 、トクヤマ <4043> と共同で、アンモニア燃料電池の1キロワット級の発電に成功したと発表。同年6月には、早稲田大学が日本触媒と共同で、電場印加した触媒上で低温かつ世界最高レベルの速度でアンモニアを合成できることを明らかにした。

 このほかにも、17年4月に味の素 <2802> が東京工業大学の教授などと共同で、オンサイト型のアンモニア合成システムの実用化を目指す「つばめBHB」を設立しており、21年ごろをメドに実用化を図る計画。16年7月には、広島大学とJST、昭和電工 <4004> 、大陽日酸 <4091> 、豊田自動織機が共同で、アンモニアからFCV用高純度水素を製造する技術を確立している。

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