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【特集】「つみたてNISA、金融庁が推進する本当の理由」 セゾン投信・中野晴啓社長に聞く<直撃Q&A>

中野晴啓氏(セゾン投信 代表取締役社長)
 1月から「つみたてNISA」がスタートした。同制度では、口座を開設した投資家は、年間40万円を上限に非課税で20年間にわたり投信による積み立て投資が可能となる。長期投資による資産形成を図ることができる同制度に対して、セゾン投信の中野晴啓社長は「金融庁がつみたてNISAを推進するのには深い意味がある」と言う。「積立王子」とも呼ばれ、投信業界改革の先頭に立つ中野社長につみたてNISAの意義を聞いた。

Q1 新年からつみたてNISAがスタートしました。この制度に注目すべきポイントは何なのでしょうか?

中野 日本では、短期で利益確定することが格好良い行為で、ずっと持ち続けることは素敵な行為としては受け取られていません。しかし、この認識には問題があると思います。短期投資ではしっかりとした資産基盤は作れないと思います。つみたてNISAでは、毎月積み立てをするため短期の売買行動が制約されます。これは非常に良いことなのです。行動経済学的にも実証されていますが、相場は下がれば怖いし、上がれば売りたくなるものです。人間は自分で投資のタイミングを判断したら大体は、間違えます。一方、つみたてNISAを続けていれば、決まったタイミングで自動的に買い付けてくれるので次第に買い値が分からなくなっていきます。これは、保有資産の値動きが気にならなくなるため、長期投資には絶大な効果を発揮します。良い資産を長期で持てば、時間が経つほど資産価値が高まり、収益を生みやすくなります。

 金融庁のデータによれば、過去20年間、資産、地域を分散して積み立て投資を行った場合、どのタイミングでも損を出していないという結果がでています。つまり、つみたてNISAに参加した人に対しては、20年間の投資により全員成功させたいという意味があるのです。これは国家を挙げての成功体験作りであり、極めて重要な国策だといえます。この制度が成功すれば、フォロワーが雪崩を打って参入することで、日本の預貯金神話は崩れていくことが予想されます。つみたてNISAは、実はすごく画期的で、金融庁の思い入れの深い制度だと思います。

Q2 金融庁はつみたてNISAを始めるにあたり、毎月分配型投信は排除するなどファンドを絞り込みました。この意味をどう考えますか?

中野 つみたてNISAには金融制度改革も一気に進めるという深い戦略的な意味があると思います。まだ金融業界は、みんな高をくくっていますが、つみたてNISAにまじめに取り組み、きちんと一定の成果を一生懸命積み上げようとしている金融機関と、そうではなかったところでは、相当差がつくと思います。その差をきちんと表そうとするのが、これからの金融行政でしょう。まさに、つみたてNISAにより、これからの金融業界の優勝劣敗が決まると考えています。この点にまだ多くの人達が気付いていないと思います。

Q3 日本で投信による長期投資の市場が育たないのは、なぜなのでしょうか?

中野 米国では投信などの市場が成長し、長期投資が根付いていると言われています。しかし、それはこの20年ほどのことです。ピーター・リンチが運用し80年代にかけ抜群のパフォーマンスを挙げたマゼランファンドも、あれほど投資家が損失を出したファンドは無いとも言われています。ファンドのパフォーマンスは良かったのですが、投資家が短期で売買したため長期の上昇トレンドを捉えられなかったのです。米国もそんな状況だったのです。そのようななか、米国では80年代から本格化した401k(確定拠出年金)や退職年金制度が成功体験を生み、長期投資が根付いていったのです。日本は、この動きがいま始まったところなのだと思います。
 
Q4 なぜ金融庁は、この時期につみたてNISAを始め、金融行政を大転換させようとしているのでしょうか?

中野 20世紀に輝いていた日本の科学技術が、21世紀には凋落しないという保証はありません。同じことは日本の産業界全体に言えます。経済が停滞すれば、社会保障のコストばかり増えて、日本の国民の生活が窮乏化することは目に見えています。現在の国民の生活水準を維持する、唯一、残された方策は我々の持っている金融財産を活用することなのです。これは極めて勝てる確率の高いチャレンジなのです。

 日本政府はGDPを600兆円へ拡大すること打ち出しており、この目標が成果を出す可能性はあると思います。しかし、そのGDPの成長を国民一人一人に均等に分配できない状況となりつつあります。NISA、iDeCo(イデコ、個人型確定拠出型年金)、そしてつみたてNISAは、新たな分配方法です。ここに参加しない人はこの分配にあずかれないと考えた方がいいと思います。

Q5 つみたてNISAは大きなトレンドを生み出しますか?

中野 投資経験がない人はもちろんですが、投資経験がある人もこの制度に参加するべきだと思います。しっかりとした資産基盤を築くためには必要な制度であり、真面目に自分の人生の基盤を作るという意味で、みんなが参加するべきでしょう。

 今回、金融庁はつみたてNISAを実施するにあたり“長期・つみたて・分散”の3原則を打ち出しました。とりわけ、日本だけではなく世界に分散投資をすることが望ましいとしたことは、画期的だと思います。これまでの日本の官庁なら、日本経済や日本市場にこだわっていたと思います。しかし、金融庁は大きな割り切りで資金の全部が日本経済や産業資本に回らなくとも構わないという姿勢を打ち出したのです。国益より国民益を優先したとも言えます。そういう意味で、つみたてNISAは突き抜けているのです。もし、このつみたてNISAが動きだし、滞留した日本の資金が産業資本に向かい始めたとすれば、年金など長期の外国人投資家も日本市場に本腰を入れて資金を投入してくると思います。

(聞き手・岡里英幸)

●セゾン投信
 2006年6月設立。クレディセゾンの100%子会社として設立され、14年に日本郵便が出資。「セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド」(純資産額約1590億円)と「セゾン資産形成の達人ファンド」(同570億円)の2本の投信を直販スタイルで運用・販売。独立系の投信会社として注目を集める。

<プロフィール>
●中野晴啓(なかの・はるひろ)
 セゾン投信代表取締役社長。1963年東京生まれ。1987年明治大学卒業。同年、クレディセゾン入社。金融子会社での資金運用業務を経て、2006年にセゾン投信を設立し07年4月より現職。「預金バカ」(講談社)、「お金のウソ」(ダイヤモンド社)など著書多数。

出所:みんなの株式(minkabu PRESS)


最終更新日:2018年01月10日 18時15分

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