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【特集】鉄の牙城を崩せ! 自動車業界で“樹脂”素材シフト <株探トップ特集>

三菱化学の「デュラビオ」が採用されたメーターカバー

―激しさ増す素材を巡る攻防、車体軽量化で大手化学メーカーに商機―

 大手化学メーカー各社が自動車関連素材を重点強化分野に位置付けている。自動車の素材といえば依然として鉄が主流であるが、車体軽量化の流れのなかで「鉄から樹脂」に置き換える動きが加速しつつある。1台当たり1トン程度が使われている鉄の牙城を崩せるか、素材を巡る攻防が激しさを増している。

●欧州では「鉄から樹脂」へのシフトが加速

 自動車業界は電気自動車(EV)燃料電池車(FCV)による環境対応と自動運転の実用化といった大きな転換期にあり、従来技術の延長線上とは異なる視点で開発が進められている。この技術革新を後押しするためには、自動車メーカーや部品メーカーの加工技術のほかに、部材を構成する素材も重要な要素となる。モーターやインバーターといったエレクトリックパワートレインを搭載すると車が重くなるというジレンマがあり、軽量化につながる素材が求められている。

 こうした課題を解決する手段のひとつとして注目されているのが、大手化学メーカーが手掛けるさまざまな機能性化学品だ。鉄や鉄合金の比重がおよそ7であるのに対し、樹脂はおよそ1.2~1.5といわれ、同じ形状で比較すると樹脂製の方が軽い。「鉄から樹脂」へのシフトは特に欧州で目立ち、独BMWは電気自動車に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を主要骨格に採用している。欧州ではシートの骨組みやエンジンオイルを入れるオイルパンをはじめとするエンジン周りなど、これまで鉄製が当たり前だった部品が続々と樹脂製に置き換わっており、今後は日本車にもこの流れが波及することが予想される。これは大手化学メーカーにとって、付加価値が高く安定収益が見込める機能性化学品の需要拡大につながり、業績面への寄与が期待される。

●三菱化学の素材を仏ルノーが採用

 三菱ケミカルホールディングス <4188> 傘下の三菱化学は今月2日、バイオエンジニアリングプラスチック「DURABIO(デュラビオ)」が仏ルノーの新型車のメーターカバーに採用されたと発表した。また、今年9月には傘下の三菱レイヨンがドイツに新設する炭素繊維中間基材の生産工場が稼働する予定で、グループを挙げて自動車向け素材事業の拡大を推進している。三菱ケミHDはグループの総合力を発揮するための組織「自動車関連事業推進センター」が中心となり、プラスチックその他の商品やその関連技術を自動車メーカーに積極的に提案。「ワンストップでさまざまな素材を提供できることが大きな強み」(広報・IR室)となっている。

●三井化学は各種素材の生産能力を増強

 三井化学 <4183> も自動車関連事業を成長領域と位置付け、積極的な拡大を図っている。7月28日には自動車の内装表皮などに使われる熱可塑性エラストマー「ミラストマー」の生産能力を増強すると発表。また、ポリプロピレン(PP)自動車材のグローバルでの需要拡大に対応するため、来年7月までに米国・メキシコ・インドの3拠点でPPコンパウンドの生産能力を増強し、世界トップクラスの供給力を強固なものにする。

●デンカは開発推進室を開設

 デンカ <4061> は7月1日、国内外の自動車メーカーおよび部品メーカーに対する技術・製品のプレゼンテーションを担う「Automotive Materials&Solution開発推進室」を開設した。同社は特殊合成ゴムであるクロロプレンゴムなどで自動車分野での実績を積み重ねているほか、無機・有機の幅広い素材群と放熱・接着・高分子設計・樹脂加工などで独自のコア技術を持っており、開発推進室を通じて次世代自動車向けなどにあらゆる素材を提供する狙いがある。

●旭化成はドイツに新拠点

 旭化成 <3407> は、4月に発表した中期経営計画で自動車関連事業の拡大を掲げた。同月には欧州自動車関連企業との連携を深めることを目的に、ドイツに「旭化成ヨーロッパ」を設立し営業を開始。グローバルで圧倒的なシェアを誇る鉛蓄電池用・リチウムイオン二次電池用双方のセパレータをはじめ、エコタイヤ用の合成ゴムやカーシート・エアバッグに用いられる繊維素材、金属代替としてのエンジリアリング樹脂などを売り込んでいく方針だ。

●積水化学は自発光中間膜の開発を推進

 積水化学工業 <4204> は昨年12月、自動車のフロントガラス全面に文字や図を表示することができる合わせガラス用中間膜の基礎技術を確立。18年の市販を目指し、自発光中間膜のさらなる開発を進めている。また、今年6月には米国で、車両用内装材などに使われる高機能プラスチックシートの第3工場が稼働した。

●東レは韓国にPPS樹脂生産拠点が完成

 東レ <3402> は7月12日、ターボ搭載車に用いられるターボダクトの材料および成形加工技術を強化するため、独Kautex社から大型3Dサクションブロー成形機を導入することを決定。また、同月にはグループ初の海外でのPPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂生産拠点が韓国に完成したほか、メキシコでの自動車エアバッグ用ナイロン繊維およびエアバッグ基布の事業化決定を発表した。

●ADEKA、カネカなどにも注目

 このほかでは、今年1月に東京ビッグサイトで開催された「クルマの軽量化技術展」に出展していたADEKA <4401> やカネカ <4118> 、住友ベークライト <4203> 、帝人 <3401> 、東洋紡 <3101> 、宇部興産 <4208> などの活躍も期待される。


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