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2015年09月10日20時10分

【市況】矢口 新のマーケット展望 「それでも、米連銀は利上げを敢行する?」


●利上げ見送りの「7つの理由」への反論

 ドイツ銀行のチーフエコノミストは、米連銀は来週、絶対に利上げをしないとして、以下の7つの理由を挙げた。

1)世界の株式市場が混乱状態にある。

2)米連銀が好む、貿易加重平均ドルが上昇し続けている。

3)金融市場は未だ、利上げを織り込んでいない。

4)FOMCの重要メンバー、アトランタ連銀のロックハート総裁、ニューヨーク連銀のダッドレー総裁、サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁が慎重姿勢に傾いている。

5)9月に上げなくても、10月、12月と選択肢がある。

6)年内2回の利上げ機会を残しているので、今回はリスクを回避する。

7)インフレ率が高騰する兆候がない。
参照:Seven Reasons the Fed Won't Raise Rates Next Week: Deutsche Bank

 一方で、新興市場国は「不確実性を終らせるために」、米連銀に来週にも利上げをと要請した。
参照:Emerging markets call on Fed to lift rates and end uncertainty

 私は、米連銀は利上げを敢行するとみている。そこで、ドイツ銀行のエコノミストが掲げる利上げをしない7つの理由を、1つずつ検討してみよう。

1)はその通りだが、金融市場が最も嫌うのは「不確実性」なので、利上げの先送りは混乱状態の継続しか意味しない。その意味で、私はドイツ銀行のエコノミストよりも、新興市場国の政策担当者たちの考え方に近い。

2)これは主要貿易相手国である中国やカナダ、南米諸国の通貨安が大きい。その通貨安の1要因である「不確実性」を取り除くことは、更なる通貨安、つまり、貿易加重平均ドルが上昇し続けることを防止する可能性がある。

3)私は十分過ぎるほど織り込んだとみている。今、行うべきは「不確実性」の排除で、利上げすれば、むしろ通貨や株価の反騰が見込めるとみている。

4)私は、彼ら政策担当者たちの見ているものが一貫していないことに驚いている。この点だけが、9月利上げが先送りされるリスクだと思う。

5)利上げの先送りは混乱状態の継続しか意味しない。そしてその間に、中国リスクの深刻化や、ユーロやウクライナ・リスクの再燃、シリアなど地政学的リスクが起きたなら、利上げは更に先送りになる。

6)判断の先送りは、多くの場合、思考停止状態を意味している。

7)インフレ率が高騰する兆候はないが、空前のほぼゼロ金利、サブプライム・ショック前の5倍増となっている米連銀の資産を正当化できるようなデフレ環境でもない。

●米連銀は利食いの好機を逃すのか?

 一方、雇用市場はゼロ金利を正当化できるどころか、景気加熱期に匹敵するほど回復している。米連銀が注目するJOLTS求人件数をみても、9月9日に発表された7月の数値は前月比43万件増の575万3000件と、統計を開始した2000年12月以来の高水準だった。採用件数は前月の520万件から500万件に減少した。採用ペースは鈍っており、企業の人材確保が困難な状況を示唆した。いずれ賃金の伸びが加速する可能性がある。

 また、0.25%や0.50%の利上げで、実体経済や企業業績に大きな影響が出るとは思えない。米企業の社債残高の大きさを懸念する声もあるが、これは低利でふんだんに資金調達を終えたことを意味し、今後10年近くの金利負担は低いままであることも示唆している。

 米国投資適格社債市場規模は2015年4月1日時点で、5兆3001億ドル。1-3月の米企業の債券による資金調達額は4260億ドル超と、過去最大規模だったので、4-8月が同じペースで増えていても、6兆ドル余りだ。

 一方で9月2日時点の、法人向けMMFの資産残高は1兆7800億ドルだった。利上げはMMFからの金利収入を増やすので、今後の利上げは米企業収益にプラスに作用する可能性が高い。

 米連銀のほぼゼロ金利と、膨大なバランスシートは、米経済が未だ未曽有の危機から脱していないことを示唆している。つまり、実態とは大きくかけ離れた金融政策なのだ。

 米連銀の2007年9月からの利下げ、それに続く量的緩和は見事なものだった。実体経済、株価、住宅市況も回復した。特に労働市場の回復には目を見張るものがある。

 相場に例えるならば、米連銀はポジションを史上空前規模のロングでパンパンにすることで、この大相場をつくってきた。これまでにも利食いのチャンスはあったが、中国リスクの台頭で、利食えない可能性も出てきた。先に挙げたリスクが顕在化し、9月の利上げが最後のチャンスになる可能性は誰も否定できない。そうなると、せっかくの利食いのチャンスを逃し、量的緩和の再開というナンピン買いの可能性が浮上する。


矢口 新(やぐち あらた)
アストリー&ピアス、野村證券、グリニッジ・キャピタル・マーケッツ、ソロモン・ブラザーズ、スイス・ユニオン銀行などで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤める。2002年5月株式会社ディーラーズ・ウェブ創業。2013年4月まで同社代表取締役社長。JTI(Japan Trading Intelligence)初代(2003-7年)代表。

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