マイクロアド Research Memo(2):消費者行動を分析し、企業のデジタルマーケティングの課題を解決(1)
■会社概要
1. 会社概要
マイクロアド<9553>は、「Redesigning the Future Life(データとテクノロジーの力で未来のくらしを創る)」というビジョンのもと、データとテクノロジーの力によって、マーケティングを変革し、人々の生活をより良いものに、より充実したものにすることを目指している。同社の強みは「膨大な消費者行動データを保有していること」「プライバシー保護に対応したデータ分析と商品開発力を有していること」「マネタイズ能力が高いこと」の3つに大別できる。これらの強みを有機的に結合することによって、大量のデータから価値ある内容を抽出し、顧客のデジタルマーケティングにおける課題を解決している。今後は、3rd Party Cookieのサポート停止が2024年末に予定されるなど、プライバシーへの意識が高まっていくことが想定される。こうした状況において、同社の技術・ビジネスモデルが優位性を発揮することが想定される。
2023年9月期第2四半期末時点において、(株)MADS、(株)エンハンスを始めとする連結子会社10社、非連結子会社2社、及び関連会社1社の組織体制となっている。国内の事業所及び研究施設は、東京本社、大阪支社、福岡支社、名古屋支社、京都研究所である。
2. 事業内容
同社はデータプラットフォーム事業の単一セグメントであるものの、ビジネスモデルに応じた成長戦略を立案するために各サービスを2つのビジネスモデルに分けたうえで戦略を検討している。具体的には「データプロダクト」と「コンサルティング」に分類するというものだ。
「データプロダクト」には、消費者に関する膨大なデータを分析し、分析されたデータをもとに顧客ごとに最適な広告配信を実現する「UNIVERSEサービス」、「MONOLITHS」を通じて提供される「デジタルサイネージサービス」が含まれる。
「コンサルティング」には、媒体社向けプロダクトである「MicroAd COMPASS」と子会社エンハンスによるサービスである「Enhance」で構成される「メディア向けコンサルティングサービス」、海外を拠点にデジタルマーケティングを総合的に支援する「海外コンサルティングサービス」の2サービスが含まれている状況だ。
2つのビジネスモデルの収益性として「コンサルティング」の粗利率が約20%なのに対して、「データプロダクト」の粗利率は約40%と高収益なビジネスモデルとなっている。
このように、同社サービスを2つのビジネスモデルに分割したうえで、今後は「データプロダクト」ビジネスに注力していく方針だ。自社開発のプロダクト販売によって、収穫逓増・高収益が見込めることが理由だ。2022年9月期までは「データソリューションサービス」「海外コンサルティングサービス」「デジタルサイネージサービス」というサービス分けを行ってきたが、2023年9月期からはサービス区分を見直し、「データプロダクト」「コンサルティング」という2つの区分に集約している。
(1) データプロダクト
同サービスには、「UNIVERSE」と「デジタルサイネージサービス」が含まれる。
a) 「UNIVERSE」
「UNIVERSE」は業界や業種によって多種多様な消費者の好みや購買プロセスを分析し、そこから得られた知見を活用することによって顧客が抱えるマーケティング課題の解決を支援するサービスである。「UNIVERSE」は同社が開発した2つの独自プラットフォームにより構成されている。
・「UNIVERSE DATA PLATFORM」
消費者のライフスタイルの変化をとらえるデータ、消費者の性別・年齢等を推定したデモグラフィックデータなどの一般的なデータ群に加えて、業界・業種に特化した大量のデータが蓄積されている。具体的なデータとしては、各種自動車関連のインターネットメディア閲覧履歴のデータなどが挙げられる。これらのデータは自動車購買までの消費者行動を分析するために活用される。2022年9月時点で212の外部データ保有企業・メディアからデータを収集・集約しており、これらの大量のデータを分析することによって消費者の複雑な購買行動を分析している。
・「UNIVERSE Ads」
同プラットフォームは「UNIVERSE DATA PLATFORM」が導き出したインサイトを活用し、顧客ごとに適切な広告配信を実現する広告主向けのプロダクトである。顧客のマーケティング課題を実際に解決するフェーズで導入される。RTB(Real Time Bidding)という広告配信技術を用いて、顧客企業のマーケティング投資に対するリターンを最大化できる。鍵となるのが、同社のAIを活用した最適化アルゴリズムだ。AIによる分析においては、企業の製品・サービスのカテゴリ、掲載面の品質やコンテンツの内容、配信を行う時間、広告クリエイティブの種類(静止画・動画・ネイティブ広告等)など、広告の費用対効果を決定づける数十の変数を解析し、最適なアルゴリズムを構築している。このアルゴリズムを適用することによって、リアルタイムで最適な消費者に対して最適な価格での広告配信が可能である。また、多くのSSPに接続可能なことも適切なターゲットに広告を配信できる要因の1つになっている(配信先の数は月間2,000億超)。これにより、顧客が抱える「ターゲットに適切にリーチできているかわからない」「ターゲットの条件を絞ったら配信ボリュームが落ちた」「効率よく広告配信したいが適切なターゲットが見つからない」などの課題を解決している。
さらに、実際に顧客にサービスを提供する際には、顧客が所属する業界毎に特化したプロダクトを提供している。業界に特化したデータ分析によって、より顧客のニーズに応えられプロダクトを提供し、顧客のKPI達成に貢献できるという特徴がある。業界特化型のプロダクトが対象とする業種は現在、18業種まで拡大している。代表的なプロダクトとその特徴は以下の通りである。
・BtoB業界向け「シラレル」
同プロダクトは、BtoBマーケティングを支援するデータプラットフォームである。法人向け製品やサービスの認知拡大を目標としている企業に対し、1,000万以上のデータ量をほこる大規模ビジネスデータを利用してターゲティング広告を配信するサービスを展開している。同プロダクトの特徴は、「豊富なデータを利用し、精緻なターゲティング広告が可能になること」「広告配信後のレポーティングサービスが充実していること」「アンケートによって広告配信の効果を可視化できること」だ。特にBtoBマーケティングに活用可能なデータソースは非常に豊富であり、企業のIPアドレスによる企業情報データベースや、名刺情報データベース、各種ビジネスパーソン向けメディアが保有する大量のデータと連携している。これにより、企業名、業種、職種、職位など細かいターゲティングとアプローチが可能になっている。また、レポート機能に関しては、広告配信後に業種、上場区分、売上規模、資本金などに関するデータをレポート形式で提供している。顧客はこのレポートを活用することにより、広告配信の実績とマーケティング戦略との整合性を確認したうえで、次回以降のマーケティング戦略への反映が可能となる。
・自動車業界向け「IGNITION」
同プロダクトは、自動車業界に特化したマーケティングデータプラットフォームである。自動車専門メディアからの膨大なサイト閲覧データと「IGNITION」独自のAI分析を組み合わせることによって、来店につながる可能性が高い潜在顧客層の獲得を可能にしている。具体的には、複数の自動車専門メディアや趣味に関するメディアのデータからユーザー毎の自動車購買可能性をスコア化し、購買までのユーザー行動を購買プロセスとしてモデル化している。そのうえで、購買可能性を基にした広告配信を実行することによって検討者数の最大化を実現している。大量のデータベースに加えて、購買プロセスのモデル化による的確なターゲティングと広告配信がユーザーに与えた影響を可視化して比較できる点も特徴だ。これらの機能によって、顧客が抱える「購買を予定している層に配信したい」「自動車関心層よりも細かいターゲティングをしたい」「来店しても成約につながる顧客が少ない」といった課題を解決している。
・飲料食品業界向け「Pantry」
同プロダクトは、飲料・食品業界に特化したマーケティングプラットフォームである。実店舗でのクレジットカード等の決済データや、各種ポイントサービスの履歴データを活用し、オフラインの実店舗での購買活動を基にした、オンライン上でのマーケティングを実現している。消費者が定常的に購入している飲料・食品ブランドを分析することで、ブランドスイッチを促すマーケティングをオンライン上で実現するなど、オフラインでの購買傾向を基にしたデジタルマーケティングを可能にしている。また、実施したデジタルマーケティングの効果が実店舗での製品売上にどれだけ寄与したのかを、購買データを基に分析することで、その広告効果を可視化するレポーティングも行っている。これらの機能によって、顧客が抱える「リアルな消費行動を元にしたマーケティングを行いたい」「デジタルマーケティング施策が売上にどの程度効果があったか把握したい」といった課題を解決している。
UNIVERSEの特徴の一つとして、「保有するデータを組み合わせることで、新規のシステム開発は必要なく、即座に新商品を提供することが可能」という点がある。UNIVERSEの保有データを活用した新たなマーケティングプロダクトは適宜市場に投入されており、直近の事例としては以下のものが挙げられる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)
《SI》
提供:フィスコ