安田秀樹(東洋証券)が斬る ―どうなる?半年後の株価
米国のSVBファイナンシャル・グループ<SIVB>傘下のシリコンバレーバンク、シグネチャー・バンク<SBNY>と米金融機関の経営破綻が相次ぎ、金融・資本市場が動揺している。ロシアによるウクライナ侵攻は収束のメドがつかず、米国と中国の政治経済の対立も残る。アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」や「半年後の為替」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第12回は東洋証券の安田秀樹アナリストに話を聞いた。
●安田秀樹(やすだひでき)
大学院で商学修士号取得後、1996年、エース証券(現東海東京証券)入社。投資情報室に配属、その後アナリスト業務を開始、電機、情報・通信、サブカルチャー、陸運と幅広いセクターをカバーし、サブカルチャーの中でもコンシューマゲーム業界で、ユニークなリサーチを行っている。2022年に東洋証券に移り、幅広いセクターを独自の視点で分析している。株価はランダムウオークするため、正確に予測することは困難だが、企業の規模が10年後にどうなるかは予測可能との考えに基づき、数量の伸長が続く、コンシューマゲーム、セラミックコンデンサ、航空貨物の調査を継続している。
―― 株式相場は足元で変動がやや激しくなっています。半年後(9月末)の日経平均株価、東証株価指数(TOPIX)をどう予測しますか。
安田:東洋証券では9月末の日経平均株価を3万円程度、TOPIXを1200程度と予測しています。これまではバリュー(割安)株が株式相場を引っ張ってきましたが、ここにきて米国の大幅利上げ観測が後退し、ハイテク・グロース(成長)株にも買いが入っています。ハイテク株は昨年の下げが大きかっただけに、戻り幅も大きくなるでしょう。今後はバリュー、グロース株にバランス良く買いが入ると予測しています。
新型コロナウイルスからの景気回復が欧米諸国に比べて遅れていた日本も3月以降、本格回復に向かう見込みです。政府も新型コロナの感染症法上の分類を季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行します。経済の本格回復が株式相場を後押しすると見ています。
―― 米シリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻し、米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に入りました。足もとでは日本株にも売りが出ていますが、株式相場への影響は。
安田:中期的にみれば大きな影響はないでしょう。FRBが急激に金利を上げた副作用がこうした形であらわれたといえます。金融当局は自らの政策に責任があるので対応する必要があり、預金も全額保護される見通しです。金融システムが棄損することはないと考えています。日本株が売られているのは3月に入って株価が上がっていた反動だとみています。多くの投資家にとっては買いのチャンスが訪れたといってよいでしょう。
―― 個人消費についてはアフターコロナでのペントアップ(先送り)需要への期待が根強くありますが、物価高が壁になっています。
安田:確かにインフレの悪影響もあり、個人消費の本格回復は足もとではなかなか難しい状況です。しかし、春闘では賃上げが相次ぐ見通しで、徐々に消費も回復していくでしょう。また、原材料高の価格転嫁や政府の経済対策などを背景に企業の収益性も改善する見通しです。ロシアによるウクライナへの侵攻を受けて地政学的リスクが高まったことから、経済安全保障への意識が急速に高まりました。日本政府も「産業のコメ」と呼ばれる半導体のサプライチェーン(供給網)の見直しや自国への生産回帰を進めています。日本政府も、トヨタ自動車 <7203> [東証P]やNTT <9432> [東証P]、ソニーグループ <6758> [東証P]などが出資する新会社「Rapidus(ラピダス)」による半導体の国産化を支援する方針です。地政学的リスクの高まりを背景に半導体価格は今後も大きく下がることはないでしょう。このため、日本国内でも半導体関連を中心に企業の設備投資も増えてくると予測しています。
―― アジアを含めた海外経済の見通しはいかがでしょうか。
安田:中国では5日から全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開幕しました。今後は経済対策を打ち出してくるでしょう。アフターコロナで個人消費をはじめとした景気回復も見込まれています。米国もこれまで通り景気が堅調です。好調な海外経済は日本の株式市場にも好影響を与えると考えられます。
――政府は日銀の次期総裁として元日銀審議委員の植田和男氏を起用する人事案を固めました。今後は量的緩和政策の出口を巡る議論が本格化する可能性があります。株式市場への影響をどうみますか。
安田:市場関係者はすでに日銀総裁の交代を受けた金融政策の変更について、ある程度は織り込んでいるとみられます。このため、日銀が昨年12月に長期金利の上限を引き上げたときのような大きなショックはないと思います。植田氏は国会での所信聴取で金融緩和の継続方針を表明しており、急激な政策変更のリスクは大きくないと考えています。
ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけとした地政学的リスクの高まりやコロナ禍、「GAFAM」などテクノロジー大手の台頭への警戒感、経済格差の拡大などを背景に、市場重視の「新自由主義」は終わりを告げつつあります。今は政府が経済への関与を深め、ある程度は景気を支えていく時期だと考えています。
―― これまで株式相場の堅調な見通しをお話しいただきましたが、下振れリスクはあるのでしょうか。
安田:地政学的リスクが最も大きいと考えています。日本はロシア、中国、北朝鮮に近接した国です。今後は台湾情勢が緊迫することも考えられます。地政学的リスクがさらに高まるようであれば、日本の株式市場に大きな悪影響を与えるでしょう。
―― 注目しているセクターや銘柄を教えてください。
安田:半導体や半導体製造装置です。「ChatGPT(チャットGPT)」の利用拡大により、大量のデータを格納するためのデータセンターの需要が増加します。自動車用の半導体への需要も引き続き旺盛です。このため、CPU(中央演算処理装置)の米インテル<INTC>や画像処理半導体(GPU)の米エヌビディア<NVDA>などには買いが入りやすくなりそうです。また、データの一時保存に使うDRAMの米マイクロン・テクノロジー<MU>などにも注目しています。東京エレクトロン <8035> [東証P]や東京精密 <7729> [東証P]、アドバンテスト <6857> [東証P]、信越化学工業 <4063> [東証P]にも買いが集まる可能性があります。
―― 安田さんは電子部品やゲームなどの分野に詳しいことで知られています。2023年の見通しはいかがですか。
安田:世界の23年のスマートフォンの生産台数は22年から横ばいにとどまると考えています。スマホの進化のスピードが遅くなっている上、価格も上昇しています。このため、消費者のスマホの買い替えサイクルが従来の2年程度から3~4年程度に伸びています。20~21年に販売が好調だったパソコンも22年に落ち込み、23年も回復の傾向はみられません。ただ、高性能のゲーミングパソコン(ゲームPC)の販売は堅調に推移する見通しです。eスポーツやユーチューバーの配信用に使われており、これに影響を受けた個人が高額のゲームPCを購入しているようです。
(※聞き手は日高広太郎)
1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証1部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。2022年5月に著書「B to B広報 最強の戦略術」(すばる舎)を出版。内外情勢調査会の講師も務め、YouTubeにて「【BIZ】ダイジェスト 今こそ中小企業もアピールが必要なワケ」が配信中。
株探ニュース
●安田秀樹(やすだひでき)
大学院で商学修士号取得後、1996年、エース証券(現東海東京証券)入社。投資情報室に配属、その後アナリスト業務を開始、電機、情報・通信、サブカルチャー、陸運と幅広いセクターをカバーし、サブカルチャーの中でもコンシューマゲーム業界で、ユニークなリサーチを行っている。2022年に東洋証券に移り、幅広いセクターを独自の視点で分析している。株価はランダムウオークするため、正確に予測することは困難だが、企業の規模が10年後にどうなるかは予測可能との考えに基づき、数量の伸長が続く、コンシューマゲーム、セラミックコンデンサ、航空貨物の調査を継続している。
安田秀樹氏の予測 4つのポイント | |
(1) | 半年後の日経平均株価は3万円程度、TOPIXは1200程度を予想 |
(2) | 経済の本格回復を受けて日本株はバリュー、グロース両方に買い |
(3) | 東京エレクトロンなど半導体・半導体製造装置関連の銘柄に注目 |
(4) | パソコンやスマホ市場は低調もゲームPCは好調 |
―― 株式相場は足元で変動がやや激しくなっています。半年後(9月末)の日経平均株価、東証株価指数(TOPIX)をどう予測しますか。
安田:東洋証券では9月末の日経平均株価を3万円程度、TOPIXを1200程度と予測しています。これまではバリュー(割安)株が株式相場を引っ張ってきましたが、ここにきて米国の大幅利上げ観測が後退し、ハイテク・グロース(成長)株にも買いが入っています。ハイテク株は昨年の下げが大きかっただけに、戻り幅も大きくなるでしょう。今後はバリュー、グロース株にバランス良く買いが入ると予測しています。
新型コロナウイルスからの景気回復が欧米諸国に比べて遅れていた日本も3月以降、本格回復に向かう見込みです。政府も新型コロナの感染症法上の分類を季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行します。経済の本格回復が株式相場を後押しすると見ています。
―― 米シリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻し、米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に入りました。足もとでは日本株にも売りが出ていますが、株式相場への影響は。
安田:中期的にみれば大きな影響はないでしょう。FRBが急激に金利を上げた副作用がこうした形であらわれたといえます。金融当局は自らの政策に責任があるので対応する必要があり、預金も全額保護される見通しです。金融システムが棄損することはないと考えています。日本株が売られているのは3月に入って株価が上がっていた反動だとみています。多くの投資家にとっては買いのチャンスが訪れたといってよいでしょう。
―― 個人消費についてはアフターコロナでのペントアップ(先送り)需要への期待が根強くありますが、物価高が壁になっています。
安田:確かにインフレの悪影響もあり、個人消費の本格回復は足もとではなかなか難しい状況です。しかし、春闘では賃上げが相次ぐ見通しで、徐々に消費も回復していくでしょう。また、原材料高の価格転嫁や政府の経済対策などを背景に企業の収益性も改善する見通しです。ロシアによるウクライナへの侵攻を受けて地政学的リスクが高まったことから、経済安全保障への意識が急速に高まりました。日本政府も「産業のコメ」と呼ばれる半導体のサプライチェーン(供給網)の見直しや自国への生産回帰を進めています。日本政府も、トヨタ自動車 <7203> [東証P]やNTT <9432> [東証P]、ソニーグループ <6758> [東証P]などが出資する新会社「Rapidus(ラピダス)」による半導体の国産化を支援する方針です。地政学的リスクの高まりを背景に半導体価格は今後も大きく下がることはないでしょう。このため、日本国内でも半導体関連を中心に企業の設備投資も増えてくると予測しています。
―― アジアを含めた海外経済の見通しはいかがでしょうか。
安田:中国では5日から全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開幕しました。今後は経済対策を打ち出してくるでしょう。アフターコロナで個人消費をはじめとした景気回復も見込まれています。米国もこれまで通り景気が堅調です。好調な海外経済は日本の株式市場にも好影響を与えると考えられます。
――政府は日銀の次期総裁として元日銀審議委員の植田和男氏を起用する人事案を固めました。今後は量的緩和政策の出口を巡る議論が本格化する可能性があります。株式市場への影響をどうみますか。
安田:市場関係者はすでに日銀総裁の交代を受けた金融政策の変更について、ある程度は織り込んでいるとみられます。このため、日銀が昨年12月に長期金利の上限を引き上げたときのような大きなショックはないと思います。植田氏は国会での所信聴取で金融緩和の継続方針を表明しており、急激な政策変更のリスクは大きくないと考えています。
ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけとした地政学的リスクの高まりやコロナ禍、「GAFAM」などテクノロジー大手の台頭への警戒感、経済格差の拡大などを背景に、市場重視の「新自由主義」は終わりを告げつつあります。今は政府が経済への関与を深め、ある程度は景気を支えていく時期だと考えています。
―― これまで株式相場の堅調な見通しをお話しいただきましたが、下振れリスクはあるのでしょうか。
安田:地政学的リスクが最も大きいと考えています。日本はロシア、中国、北朝鮮に近接した国です。今後は台湾情勢が緊迫することも考えられます。地政学的リスクがさらに高まるようであれば、日本の株式市場に大きな悪影響を与えるでしょう。
―― 注目しているセクターや銘柄を教えてください。
安田:半導体や半導体製造装置です。「ChatGPT(チャットGPT)」の利用拡大により、大量のデータを格納するためのデータセンターの需要が増加します。自動車用の半導体への需要も引き続き旺盛です。このため、CPU(中央演算処理装置)の米インテル<INTC>や画像処理半導体(GPU)の米エヌビディア<NVDA>などには買いが入りやすくなりそうです。また、データの一時保存に使うDRAMの米マイクロン・テクノロジー<MU>などにも注目しています。東京エレクトロン <8035> [東証P]や東京精密 <7729> [東証P]、アドバンテスト <6857> [東証P]、信越化学工業 <4063> [東証P]にも買いが集まる可能性があります。
―― 安田さんは電子部品やゲームなどの分野に詳しいことで知られています。2023年の見通しはいかがですか。
安田:世界の23年のスマートフォンの生産台数は22年から横ばいにとどまると考えています。スマホの進化のスピードが遅くなっている上、価格も上昇しています。このため、消費者のスマホの買い替えサイクルが従来の2年程度から3~4年程度に伸びています。20~21年に販売が好調だったパソコンも22年に落ち込み、23年も回復の傾向はみられません。ただ、高性能のゲーミングパソコン(ゲームPC)の販売は堅調に推移する見通しです。eスポーツやユーチューバーの配信用に使われており、これに影響を受けた個人が高額のゲームPCを購入しているようです。
(※聞き手は日高広太郎)
1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証1部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。2022年5月に著書「B to B広報 最強の戦略術」(すばる舎)を出版。内外情勢調査会の講師も務め、YouTubeにて「【BIZ】ダイジェスト 今こそ中小企業もアピールが必要なワケ」が配信中。
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株探ニュース