【特集】坪井裕豪(大和証券)が斬る ―どうなる?半年後の株価と為替―
日米の株式相場の動きが不安定になっている。日本市場では、公明党の連立離脱により、今後発足する新政権に対する不透明感が強まっている。トランプ米大統領が中国に対して100%の追加関税をかける方針を示したことから、米中の経済摩擦懸念も再燃している。トランプ米大統領が「就任から24時間以内に終わらせる」と豪語したロシアによるウクライナ侵攻は収束のメドがつかず、イランを中心とした地政学的リスクも残る。
金融・資本市場が「トランプ相場」の様相を呈する中、アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」や「半年後の為替」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第42回は、大和証券の坪井裕豪チーフストラテジストに話を聞いた。
●坪井裕豪(つぼいゆうご)
大和証券 投資情報部 チーフストラテジスト。2004年大和証券入社。2009年より投資情報部にて主に外国株式リサーチ業務を担当。米国株だけでなく香港やインドなど新興国銘柄資料も執筆。2013年に大和証券キャピタルマーケッツアメリカに赴任。帰国後エクイティ営業部を経て、2022年より投資情報部ストラテジー課で課長、25年から現職。15年にわたり内外株式マーケットの調査業務に携わっている。
―― 米中摩擦や日本の政局への懸念から高値をつけていた日米の株式相場は大幅に下落しました。半年後(2026年3月末)の日米の株価水準をどう予測しますか。
坪井:私は、日経平均株価は5万円程度、S&P500種株価指数は6900ポイント程度だと予測しています。ただ、与野党協議や政策期待の継続性の状況変化によっては変わる可能性があります。
●図1 S&P500種株価指数(日足)

―― 日本の政局、海外の政治経済などの状況は流動的ですが、現時点での予測の背景を教えて下さい。
坪井:米国経済は緩やかに成長しており、株式市場も過熱した相場からの軟着陸に向けて歩みを進めています。具体的には、雇用の悪化が抑制されていることです。米労働省が発表した8月の雇用統計では、非農業部門の就業者数が前月から2万2000人増えました。失業率は4.3%と5%を大幅に下回っています。米国では失業率4~5%が完全雇用状態とされており、過去の平均から見ても現状では大きな心配はありません。トランプ関税による押し上げが懸念されていた物価もある程度、落ち着いています。8月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.9%上昇にとどまりました。今後は、米連邦準備理事会(FRB)による段階的な利下げも期待できます。米景気は「良い面、悪い面が入り混じっているものの、大崩れはしていない」状態と言え、軟着陸の可能性が高いでしょう。
―― 米国経済や株式相場の軟着陸は日本株にもプラスかと思います。日本株の予測の背景を教えて下さい。
坪井:日本企業の業績見通しは緩やかに改善しており、市場が予想する増益率が実現する期待は高まっています。これは米景気が堅調であることの恩恵とも言えます。日本固有の要因としては、物価上昇の持続が名目GDP(国内総生産)を押し上げていることがあります。適正なインフレや名目GDPの増加は、企業業績や1株当たり利益(EPS)と正の相関関係があります。賃上げも持続しており、今後の税制や財政を含めて株価を後押しすることになると考えられます。
これに加えて、高市早苗氏の自民党総裁就任が決まりました。高市氏は経済浮揚に積極的だとみられており、市場関係者の間で株価の先行きへの期待が高まっています。当社としても日経平均株価の予想PER(株価収益率)を21倍以上に引き上げています。安倍晋三政権が進めた経済政策「アベノミクス」時にPERは24倍まで上昇していましたから、必ずしも非現実的な水準ではありません。今後は政策期待で実際にどのくらい業績が押し上げられるのか、上昇した株価が中期的に持続可能なのかを見極める必要があるでしょう。
●図2 日経平均株価 今期予想PERとEPS(1株当たり純利益)

※直近データは2025年10月10日まで(出所)日本経済新聞、ブルームバーグより大和証券作成
―― 高市氏は複数の政治・経済政策を打ち出していましたが、期待できると考える具体的な政策は。
坪井:個人的には、エネルギー需給率や食料需給率の大幅な引き上げの実施に期待しています。原子力発電所の再稼働や再生可能エネルギーの推進、蓄電設備、送電網の再整備なども大事です。デフレからインフレになっているわけですから、供給力を引き上げ、潜在成長力を高める政策が必要です。サイバーセキュリティの強化や医薬品の国産化などへの投資増も期待したいと思っています。
―― 衆参両院は21日に召集される予定の臨時国会で、石破茂首相の後任となる第104代首相を指名します。公明党の連立離脱により、野党連合による統一候補を模索する動きも出ています。高市氏が首相に指名されない、または首相に指名されたものの、政権基盤が不安定になる可能性もあります。
坪井:政権が不安定になった場合、私が懸念するのは海外投資家の動向です。与党の議員数が少なくなり、高市氏が首相になっても、やりたい政策を実施できない事態になるリスクがあるためです。結果として短命政権が続き、海外投資家が資金を日本市場から引き揚げてしまうことが考えられます。そうならないためには、自民党は公明党に代わる連立を模索するか、予算協議で協力できる政党を見つける必要があります。当面は連立協議が進むかどうかがポイントになると思います。
仮に立憲民主党、国民民主党、日本維新の会が連合し、野党連合の首相が誕生した場合、立憲民主党が左派的な政策を放棄しないと成立しません。その際は中道的な国民民主党、日本維新の会の政策が中心になるため、株価もいったん下がるものの、中期的には回復していくでしょう。ただ、立憲民主党と公明党が組んで左派色が強めの政権ができれば、株価は大幅に下落し、戻るのに時間がかかるでしょう。
―― 米物価は比較的落ち着いているとの見解がありましたが、日米の金融政策と為替相場の見通しはいかがですか。
坪井:FRBは年内に2回、0.25%ずつ利下げすると見ています。雇用が鈍化した場合、FRBが来年3月末までに利下げをもう一度してもおかしくありません。一方、日銀は緩やかに金融引き締めに入ると考えています。早ければ今年12月に利上げを実施する可能性があります。来年9月以降には再度の利上げがあるとみています。円安や物価高を考えれば、高市氏が首相になっても、独立性を持つ日銀に介入して利上げを阻止することはできないでしょう。日米の金融政策の方向性を考えれば、半年後の円相場は1ドル=145円程度で推移しているとみています。
―― 来年11月に予定される米中間選挙に向けて、トランプ政権がさらなる景気浮揚策を打ち出せば、株価押し上げに寄与します。
坪井:米政権はトランプ減税の恒久化を柱とする大型の減税・歳出法を成立させましたが、それ以外に、めぼしい政策が見当たらない状況です。金融規制の緩和は企業が設備投資しやすくなるなどのメリットがありますが、一般市民への恩恵は間接的です。
現在の米国は大統領職と連邦議会の上下両院の多数派を共和党が占める「トリプルレッド」にあります。トランプ政権はテキサス州で下院選挙区割りの操作「ゲリマンダー」を進めているようですが、トリプルレッドを維持できるかはわかりません。共和党が大敗するようなら、株式市場にとってはネガティブに働くでしょう。利下げ期待が続くので株価の急落はないと思いますが、必ずしもポジティブな材料ばかりではありません。製造業の業績には力強さがなく、S&P500のPERは23倍を超え、過熱感が出てきています。
―― 注目する銘柄セクターを教えて下さい。
坪井:高市氏が首相に就任する場合、エネルギーや食料関連、サイバーセキュリティなどの防衛関連といった政策関連銘柄に注目が集まるでしょう。個人的には人手不足を背景に、ダイフク <6383> [東証P]やキーエンス <6861> [東証P]などロボット関連への投資が集まると考えています。世界経済の大崩れや資源価格の急落も考えにくいことから、三菱商事 <8058> [東証P]や三井物産 <8031> [東証P]など大手商社にも注目しています。商社は日米関税交渉でまとめた総額5500億ドル(約80兆円)の対米投資を実施するためのプロジェクトにも深く関わっており、上値余地があります。

(※聞き手は日高広太郎)
株探ニュース
金融・資本市場が「トランプ相場」の様相を呈する中、アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」や「半年後の為替」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第42回は、大和証券の坪井裕豪チーフストラテジストに話を聞いた。
●坪井裕豪(つぼいゆうご)

| 坪井裕豪氏の予測 4つのポイント |
| (1)半年後の日経平均株価は5万円程度 |
| (2)半年後のS&P500種株価指数は6900ポイント程度 |
| (3)円相場は緩やかな円高へ。半年後は145円程度 |
| (4)注目するセクターはエネルギー、食料、防衛、ロボット関連や商社 |
―― 米中摩擦や日本の政局への懸念から高値をつけていた日米の株式相場は大幅に下落しました。半年後(2026年3月末)の日米の株価水準をどう予測しますか。
坪井:私は、日経平均株価は5万円程度、S&P500種株価指数は6900ポイント程度だと予測しています。ただ、与野党協議や政策期待の継続性の状況変化によっては変わる可能性があります。
●図1 S&P500種株価指数(日足)

―― 日本の政局、海外の政治経済などの状況は流動的ですが、現時点での予測の背景を教えて下さい。
坪井:米国経済は緩やかに成長しており、株式市場も過熱した相場からの軟着陸に向けて歩みを進めています。具体的には、雇用の悪化が抑制されていることです。米労働省が発表した8月の雇用統計では、非農業部門の就業者数が前月から2万2000人増えました。失業率は4.3%と5%を大幅に下回っています。米国では失業率4~5%が完全雇用状態とされており、過去の平均から見ても現状では大きな心配はありません。トランプ関税による押し上げが懸念されていた物価もある程度、落ち着いています。8月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.9%上昇にとどまりました。今後は、米連邦準備理事会(FRB)による段階的な利下げも期待できます。米景気は「良い面、悪い面が入り混じっているものの、大崩れはしていない」状態と言え、軟着陸の可能性が高いでしょう。
―― 米国経済や株式相場の軟着陸は日本株にもプラスかと思います。日本株の予測の背景を教えて下さい。
坪井:日本企業の業績見通しは緩やかに改善しており、市場が予想する増益率が実現する期待は高まっています。これは米景気が堅調であることの恩恵とも言えます。日本固有の要因としては、物価上昇の持続が名目GDP(国内総生産)を押し上げていることがあります。適正なインフレや名目GDPの増加は、企業業績や1株当たり利益(EPS)と正の相関関係があります。賃上げも持続しており、今後の税制や財政を含めて株価を後押しすることになると考えられます。
これに加えて、高市早苗氏の自民党総裁就任が決まりました。高市氏は経済浮揚に積極的だとみられており、市場関係者の間で株価の先行きへの期待が高まっています。当社としても日経平均株価の予想PER(株価収益率)を21倍以上に引き上げています。安倍晋三政権が進めた経済政策「アベノミクス」時にPERは24倍まで上昇していましたから、必ずしも非現実的な水準ではありません。今後は政策期待で実際にどのくらい業績が押し上げられるのか、上昇した株価が中期的に持続可能なのかを見極める必要があるでしょう。
●図2 日経平均株価 今期予想PERとEPS(1株当たり純利益)

※直近データは2025年10月10日まで(出所)日本経済新聞、ブルームバーグより大和証券作成
―― 高市氏は複数の政治・経済政策を打ち出していましたが、期待できると考える具体的な政策は。
坪井:個人的には、エネルギー需給率や食料需給率の大幅な引き上げの実施に期待しています。原子力発電所の再稼働や再生可能エネルギーの推進、蓄電設備、送電網の再整備なども大事です。デフレからインフレになっているわけですから、供給力を引き上げ、潜在成長力を高める政策が必要です。サイバーセキュリティの強化や医薬品の国産化などへの投資増も期待したいと思っています。
―― 衆参両院は21日に召集される予定の臨時国会で、石破茂首相の後任となる第104代首相を指名します。公明党の連立離脱により、野党連合による統一候補を模索する動きも出ています。高市氏が首相に指名されない、または首相に指名されたものの、政権基盤が不安定になる可能性もあります。
坪井:政権が不安定になった場合、私が懸念するのは海外投資家の動向です。与党の議員数が少なくなり、高市氏が首相になっても、やりたい政策を実施できない事態になるリスクがあるためです。結果として短命政権が続き、海外投資家が資金を日本市場から引き揚げてしまうことが考えられます。そうならないためには、自民党は公明党に代わる連立を模索するか、予算協議で協力できる政党を見つける必要があります。当面は連立協議が進むかどうかがポイントになると思います。
仮に立憲民主党、国民民主党、日本維新の会が連合し、野党連合の首相が誕生した場合、立憲民主党が左派的な政策を放棄しないと成立しません。その際は中道的な国民民主党、日本維新の会の政策が中心になるため、株価もいったん下がるものの、中期的には回復していくでしょう。ただ、立憲民主党と公明党が組んで左派色が強めの政権ができれば、株価は大幅に下落し、戻るのに時間がかかるでしょう。
―― 米物価は比較的落ち着いているとの見解がありましたが、日米の金融政策と為替相場の見通しはいかがですか。
坪井:FRBは年内に2回、0.25%ずつ利下げすると見ています。雇用が鈍化した場合、FRBが来年3月末までに利下げをもう一度してもおかしくありません。一方、日銀は緩やかに金融引き締めに入ると考えています。早ければ今年12月に利上げを実施する可能性があります。来年9月以降には再度の利上げがあるとみています。円安や物価高を考えれば、高市氏が首相になっても、独立性を持つ日銀に介入して利上げを阻止することはできないでしょう。日米の金融政策の方向性を考えれば、半年後の円相場は1ドル=145円程度で推移しているとみています。
―― 来年11月に予定される米中間選挙に向けて、トランプ政権がさらなる景気浮揚策を打ち出せば、株価押し上げに寄与します。
坪井:米政権はトランプ減税の恒久化を柱とする大型の減税・歳出法を成立させましたが、それ以外に、めぼしい政策が見当たらない状況です。金融規制の緩和は企業が設備投資しやすくなるなどのメリットがありますが、一般市民への恩恵は間接的です。
現在の米国は大統領職と連邦議会の上下両院の多数派を共和党が占める「トリプルレッド」にあります。トランプ政権はテキサス州で下院選挙区割りの操作「ゲリマンダー」を進めているようですが、トリプルレッドを維持できるかはわかりません。共和党が大敗するようなら、株式市場にとってはネガティブに働くでしょう。利下げ期待が続くので株価の急落はないと思いますが、必ずしもポジティブな材料ばかりではありません。製造業の業績には力強さがなく、S&P500のPERは23倍を超え、過熱感が出てきています。
―― 注目する銘柄セクターを教えて下さい。
坪井:高市氏が首相に就任する場合、エネルギーや食料関連、サイバーセキュリティなどの防衛関連といった政策関連銘柄に注目が集まるでしょう。個人的には人手不足を背景に、ダイフク <6383> [東証P]やキーエンス <6861> [東証P]などロボット関連への投資が集まると考えています。世界経済の大崩れや資源価格の急落も考えにくいことから、三菱商事 <8058> [東証P]や三井物産 <8031> [東証P]など大手商社にも注目しています。商社は日米関税交渉でまとめた総額5500億ドル(約80兆円)の対米投資を実施するためのプロジェクトにも深く関わっており、上値余地があります。

(※聞き手は日高広太郎)
◆日高広太郎(ジャーナリスト、広報コンサルティング会社代表)
1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証1部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。2022年5月に著書「B to B広報 最強の戦略術」(すばる舎)を出版。内外情勢調査会の講師も務め、YouTubeにて「【BIZ】ダイジェスト 今こそ中小企業もアピールが必要なワケ」が配信中。

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