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【市況】債券市場の利回り曲線~日本株投資の好機を示唆【フィリップ証券】

 9月限の先物とオプションの取引最終日となった9/11、日経平均株価は終値で4万4000円の大台を超えた。翌日の日経平均株価採用225銘柄の始値を基に算出される特別清算値(SQ値)は4万5010円28銭に達した。その主な要因は、日本時間9/10早朝に発表された米オラクルの決算発表で6-8月期にデータセンターのインフラに関して巨額の受注が明らかになったことだ。オラクルやオープンAI、エヌビディアとともにトランプ米政権のAI(人工知能)インフラ投資プロジェクトの「スターゲート計画」で中心的な役割を果たしているのがソフトバンクグループ<9984>である。日経平均株価への寄与度が高いソフトバンクグループを中心に、エヌビディア関連銘柄、データセンター向けに光ファイバーなどの通信関連製品を提供する企業など幅広い銘柄群が日経平均株価を力強く押し上げた。

 8月下旬からエヌビディア、ブロードコム、オラクルと、米国の主要なAI半導体とAIインフラ関連企業の堅調な四半期決算の発表が続いた。米国の主要株価指数よりも、ごく一部の大型AI関連企業の株価が日本株市場に強い影響を及ぼすようになっている。

 日本時間9/18早朝に結果が発表される米FOMC(連邦公開市場委員会)では政策金利の引き下げが市場で確実視されている。グローバル投資資金が米国から外に向かう契機となる可能性がある。その資金が日本市場に向かうかどうかを占う手がかりは債券市場にある。

 一般的に景気サイクルと債券市場の利回り曲線(イールドカーブ)には以下のような関係がみられる。①「景気拡大期」には、投資家は将来の経済成長とインフレを期待して長期債に高い利回りを求める一方、短期金利は低めとなることから「順イールド」となる。②「景気ピーク期」には、経済が過熱しインフレ圧力が高まることから中央銀行が積極的に利上げを行い、短期金利が急上昇することから利回り曲線が高い水準で平坦化する「ベアフラット化」となる。③「景気縮小期(後退期)」には、投資家が景気後退を予測することを受けて長期金利は低下する。一方で、短期金利が依然として高止まりすることから「逆イールド」となる。④「景気回復期」には、経済が底を打ち、成長軌道に戻る中で中央銀行は低金利を維持する一方、長期金利が上昇することから「スティープ化」となる。⑤「過渡期」には、長期金利の低下に対して短期金利が相対的に高い状態となることから利回り曲線が低い水準で平坦化する「ブルフラット化」となる。

 日本の債券市場は長短利回り曲線の「スティープ化」が進行中だ。これは債券市場が日本経済について「景気回復期」に入っていることを示唆している。その後には「景気拡大期」の到来が見込まれる。債券市場から見れば、日本株投資は好機と捉えられるだろう。


■利回り曲線スティープ化の追い風~海外投資家は日本債券市場に熱視線

 政策金利動向について見ると、米国、ドイツ、英国は2022年~23年9月にかけて高インフレに対応して利上げを実施。日本は24年7月から利上げ局面入りした。その間の10年国債利回りは米国、ドイツ、英国が23年9月をピークにレンジ内を横ばいで推移した。

 30年国債の10年国債に対する利回り格差は、日本以外は1%以内で推移する一方、日本は海外投資家の取引が多い超長期ゾーンに対して10年ゾーンが日銀の金融緩和政策により低位に抑えられていることから、9/5時点で1.68%に達した。金融引締め局面では金利水準上昇とともに利回り曲線が平坦化する「ベアフラット化」が起きやすい。日銀の金融正常化においては「30年債ロング、10年債ショート」戦略を検討する余地がある。


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■日本国債の財政リスクプレミアム~「一般政府」と「国」のどちらで見るか

 日本国債について一般政府(中央政府、地方政府、社会保障基金)の総債務の対GDP比率が200%を超え、先進国の中で最も高い水準にある。中央政府である国の貸借対照表についても、財務省は2023年度末で債務超過額が696兆円に達していると公表している。そのような中、物価高対策などの経済対策に伴う財政支出拡大が日本国債の売り要因につながるとの見方が大勢を占めている。

 2023年度末の一般政府の貸借対照表は、国が建設国債を発行して集めた資金を地方政府の公共インフラに充てること等を背景に、地方の資産超過が国の債務超過を吸収することなどもあり、258兆円の資産超過となっている。国と地方の関係について多くの海外投資家は理解できていない向きが多いとみられる。


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参考銘柄


大王製紙<3880>

・1943年に四国紙業以下14社が合同して愛媛県で設立。主に紙・板紙事業、ホーム&パーソナルケア事業を展開する。2024年5月に北越コーポレーション<3865>と戦略的な資本業務提携を締結。

・8/8発表の2026/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比4.8%減の1582億円、営業利益が同6.8%増の20億円。事業別セグメント利益は、紙・板紙(売上比率54%)が59%増の20億円、ホーム&パーソナルケア事業(同44%)が海外事業の構造改革や伸び悩みから▲2億円へ赤字転落となった。

・通期会社計画は、売上高が前期比0.2%増の6700億円、営業利益が同124%増の220億円、年間配当が同横ばいの14円。9/7の日本経済新聞で「木質由来の極細繊維でセルロースナノファイバー(CNF)を使った複合樹脂を自動車メーカー向けに供給する」と報じられた。CNFは鉄の5分の1の重さながら5倍の強度があり、自動車の燃費向上と環境負荷軽減が見込まれる。低PBRも注目される。


サワイグループホールディングス<4887>

・1948年設立。ジェネリック(後発)医薬品の有力メーカー。生活習慣病(高血圧症、脂質異常症、糖尿病等)治療剤、抗がん剤など医療用医薬品約700品目、一般用医薬品の製造・販売を行う。

・8/12発表の2026/3期1Q(4-6月)は、売上収益が前年同期比11.7%増の495億円、非経常的要因による損益を除いたコア営業利益が同10.4%増の75億円。価格政策による単価上昇および販売数量増により増収。将来増産を見据えた工場の人材採用増で固定費が増加も、販管費率が低下した。

・通期会社計画は、売上収益が前期比5.9%増の2002億円、コア営業利益が同8.9%増の280億円、株式分割後換算の年間配当が同2円増配の55円。沢井製薬と日医工が9/10、後発医薬品の製造所集約と品目統合に向けた協業で合意したと発表。また、後発薬のような価格引き下げの影響を受けにくい新事業として減酒などの治療アプリ開発に注力。4月に「デジタル医療機器推進室」を設けた。


グローバル・ワン不動産投資法人<8958>

・明治安田生命、三菱UFJフィナンシャルグループ、近鉄グループをスポンサーとするオフィスビル特化型J-REIT。駅近、築浅、大型のオフィス物件を中心に厳選投資の方針で、規模拡大より質を重視。

・5/21発表の2025/3期(10-3月)は、営業収益が前期(2024/9期)比15.3%増の74億円、営業利益が同29.6%増の42億円、1口当たり分配金(利益超過分配金を含まない)が同51.7%増の3802円。横浜のテナント退去の影響で賃料等収入が減収も、錦糸町と品川の売却益計上により大幅増益。

・2025/9期(4-9月)会社計画は、営業収益が前期(2025/3期)比7.3%増の80億円、営業利益が同19.3%増の50億円、1口当たり分配金(利益超過分配金を含まない)が同21.7%増の4126円。2026/3期(10-3月)は減収増益予想も1口当たり分配金は2959円。9/11終値ベースで、2026/3期(10-3月)を含む会社予想年分配金利回りが5.13%、株式投資のPBRに相当するNAV倍率が1.04倍。


スカパーJSATホールディングス<9412>

・2007年にスカイパーフェクト・コミュニケーションズとジェイサットが経営統合。衛星通信サービス・放送事業者に衛星回線を提供する宇宙事業、通信衛星・光通信回線放送(スカパー!)関連のメディア事業を営む。

・8/6発表の2026/3期1Q(4-6月)は、営業収益が前年同期比2.2%減の298億円、営業利益が同7.7%増の80億円。営業利益の内訳は、宇宙事業(売上比率49%)が0.6%増の55億円、メディア事業が25.7%増の26億円。減価償却費減少およびデジタル化に伴う広告宣伝費減少が増益に寄与。

・通期会社計画は、営業収益が前期比3.1%増の1276億円、営業利益が同12.0%増の308億円、年間配当が同11円増配の38円。同社は安全保障、防災・減災分野での需要拡大に対応するため低軌道に打ち上げた複数の衛星を一体運用して通信をつなぐ「衛星コンステレーション」を構築中。政府も敵基地攻撃能力の精度を向上する目的で、2025年度の概算要求で初めて3232億円を計上した。


※執筆日 2025年9月12日


フィリップ証券
フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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