【市況】S構成点まで調整可能性、トランプ政策はヘルスケアも重視【フィリップ証券】
現地3/26、米トランプ大統領が米国へ輸入される自動車(完成車)および基幹部品について25%関税導入を発表。さらに3/30にも、4/2に発表予定の「相互関税」について「全ての国々」を対象に開始を計画していると述べ、当初は限定的な適用を期待していた市場関係者を失望させた。経済指標も、3/28発表の2月の米個人消費支出(PCE)価格指数および3月のミシガン大学米消費者態度指数・確定値が、景気悪化とインフレが併存する「スタグフレーション」の兆候として米国株の売りに拍車をかけた。
主要株価指数の3/28終値の過去最高値からの下落率を見ると、ダウ工業株30種平均株価(ダウ平均)が24年12月高値から▲7.7%、S&P500株価指数が25年2月高値から▲9.2%、ナスダック総合指数が24年12月高値から▲14.3%である。米FRB(連邦準備制度理事会)がインフレ退治のために急激に金利を引き上げた22年の株価下落局面では、ダウ平均が22年1月高値から22年9月安値まで▲22.2%、S&P500株価指数が22年1月高値から22年10月安値まで▲19.6%、ナスダック総合指数が21年11月高値から22年10月安値まで▲32.2%である。
21~22年にかけての下落率を参考に、ダウ平均、S&P500指数が過去最高値からそれぞれ2割、ナスダック総合指数が3割下落すると仮定すると、以下のようになる。ダウ平均は3万6058ドルまで下落し、22年10月高値の3万6952ドルを下回る。S&P500指数は4918ポイントまで下落し、22年1月高値の4818ポイントに近付く。ナスダック総合指数は1万6163ポイントまで下落し、21年11月高値の1万6212ポイントを下回る。
投資家の間でよく使われるテクニカル分析の中に、株価下落後に反転し大幅に上昇した後、再度下落して最初の下落前ピークだった時点(S構成点)まで押したポイントを買い場とする手法がある。ダウ平均で見ると、22年1月高値(A)、22年9月安値を(B)、24年12月高値を(C)とした場合、(C)から約2割下落した時点を(D)とすると、ほぼ(A)の株価と同水準となる。この「(A)→(B)→(C)→(D)」は株価チャート上で「S字」を構成することから、(D)を「S構成点」と呼ぶ。S&P500株価指数の25年2月高値からの2割下落、ナスダック総合指数の24年12月高値から3割下落したポイントはS構成点に相当する。主要株価指数のそれぞれについてS構成点までの下落は通常の調整の範囲内と見る余地があるだろう。
投資の方向性としては、米国外(欧州、中国)重視、関税の恩恵を見込める業種も考えられるが、基本はトランプ政策に沿う銘柄だろう。米共和党の綱領の中に「社会保障とメディケア(高齢者・障がい者向け公的医療保険)を削減することなく守り抜く」とある。ヘルスケア関連銘柄の押し目買いが有効だろう。
参考銘柄
ボーイング<BA> 市場:NASE・・・2025/4/24に2025/12期1Q(1-3月)の決算発表を予定
・1916年創業の航空・宇宙機器製造会社。民間航空機、防衛・軍用機、電子・防衛システム、衛星、衛星打ち上げ機、高度情報通信システムなどを手がける。世界150ヵ国以上で事業を展開。
・1/28発表の2024/12期4Q(10-12月)は、売上高が前年同期比30.8%減の152.42億USD、非GAAPのコアEPSは前年同期の▲0.47USDから▲5.90USDへ赤字幅拡大。12月末合計受注残が同0.2%増の5213億USDも、フリーキャッシュフローは前年同期の29.50億USDから▲40.98億USDへ赤字転落。
・2025/12期会社計画は未公表。2024年1月に起きた小型機の事故による品質問題で航空機の生産が滞るなど、目先の収益にとらわれず安全な製品をつくる体制を整えられるかどうかが経営再建の鍵を握る。財務面では増資により運転資金を確保し、資金繰り懸念は後退。次世代戦闘機「F47」についてロッキード・マーチン<LMT>との受注獲得競争に勝利。経営再建への弾みとなるだろう。
フリーポート・マクモラン<FCX> 市場:NYSE・・・2025/4/23に2025/12期1Q(1-3月)の決算発表を予定
・1987年設立。世界的鉱業会社で米アリゾナ州を本拠地とする。米モレンチ鉱物地区、ペルーのセロベルデ鉱山のほか、世界最大の銅・金鉱床の1つであるインドネシアのグラスベルグ鉱山を運営。
・1/23発表の2024/12期4Q(10-12月)は、売上高が前年同期比3.1%減の57.20億USD、非GAAPの調整後EPSが同14.8%増の0.31USD。主力の銅販売は、平均販売単価が9%上昇も生産量が5%減少。銅の単位当たり純現金費用が9%増と嵩むも、金やモリブデンの平均販売価格上昇が貢献。
・2025/12通期会社計画(販売量)は、銅が前期比5.1%増の40億ポンド、金が同15%減の1600万オンス、モリブデンが同9%減の8800万ポンド。インドネシア政府による同国の銅輸出規制の動向の影響を受けるとみられる。米トランプ政権による銅輸入への25%関税の懸念が強まる中、銅先物の国際相場が上昇基調。同社は米国内に銅の権益を持つことで関税が追い風になる面があるだろう。
HCAヘルスケア<HCA> 市場:NYSE・・・2025/4/25に2025/12期1Q(1-3月)の決算発表を予定
・1968年設立の病院運営持株会社。米国と英国で一般・救急病院、精神病院、リハビリ病院、独立手術センターなど多様な医療施設を所有・運営。病院チェーン上場企業の時価総額で世界首位。
・1/24発表の2024/12期4Q(10-12月)は、売上高が前年同期比5.7%増の182.85億USD、非GAAPの調整後EPSが同5.4%増の6.22USD。既存施設入院相当患者数が3.1%増、既存施設1入院相当患者当たり収入が2.9%増と増収に寄与。経費が嵩んだものの、営業キャッシュフローが改善した。
・2025/12通期会社計画は、売上高が前期比3-7%増の72.8-75.8億USD、EPSが同9-18%増の24.05-25.85USD。トランプ政権の政策の基盤となっている米共和党政策綱領に「社会保障と高齢者・障がい者向け公的医療保険を削減せずに守り抜く」と盛り込まれており、当銘柄は政策の追い風が見込まれる。先行き不透明感から市場参加者のディフェンシブ色が強まる中で見直し余地があるだろう。
インテュイティブ・サージカル<ISRG> 市場:NASDAQ・・・2025/4/22に2025/7期3Q)2-4月)の決算発表を予定
・1995年設立。腹腔鏡手術のロボット支援システム「ダヴィンチ」や管腔内視鏡肺生検のロボットシステム「イオン」の開発・製造・販売を行う。ダヴィンチの設置台数は2024年12月末時点で9902台。
・1/23発表の2024/12期4Q(10-12月)は、売上高が前年同期比25.2%増の24.13億USD、非GAAPの調整後EPSが同38.1%増の2.21USD。ダヴィンチは、手術件数が同18%増、出荷件数が同19%増と拡大。ダヴィンチは特許切れ後も参入障壁が高く、4Qの粗利益率が同1.8ポイント上昇の68.0%。
・2025/12通期会社計画は、ダヴィンチの手術件数が前期比13-16%増、調整後粗利益率が同2.1-1.1ポイント低下の67-68%。2024年に米国で導入されたダヴィンチの最新版「ダヴィンチ5」は、手術中に外科医が体内の動きをより把握しやすくなるとのことから販売が好調。より精密な手術がより短時間で行えるようになると見込まれる。「ダヴィンチ5」は2025年中に海外展開が予定されている。
ヴァンエック鉄鋼ETF<SLX> 市場:NYSEArca・・・分配金:年1回(12月)
・NYSE Arca Steel指数の価格および利回りに連動する投資成果を目指す。NYSE Arca Steel 指数は調整時価総額加重平均指数であり、主に鉄鋼生産、鉄鉱石の採掘・加工業の上場企業から構成。
・3/28日終値の時価総額7579万USD、過去12ヵ月間の実績分配金利回りが3.36%。組入れ上位銘柄7社はリオ・ティントADR<RIO>、ヴァーレADR<VALE>、USスチール<X>、アルセロール・ミタルADR<MT>、ニューコア<NUE>、ポスコ・ホールディングスADR<PKX>、スチール・ダイナミクス<STLD>。
・昨年末終値から3/28終値までの騰落率は、当ETF(インカムゲインを除く)が+5.8%に対し、ダウ工業株30種平均株価が▲2.3%、S&P500株価指数が▲5.1%、ナスダック100が▲8.2%。トランプ政権は3/12、輸入される鉄鋼製品とアルミニウムに25%の関税を課す措置を発効。主に電炉での製鉄に使う鉄スクラップは需要増の思惑から米国内価格が上昇。鉄鋼業界への恩恵が見込まれる。
執筆日:2025年3月31日
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