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【特集】デリバティブを奏でる男たち【99】 金融危機で150億ドルを稼いだポールソン(後編)


 今回は2007年のサブプライム住宅ローン問題で150億ドルを稼いだポールソン&カンパニーの創設者、ジョン・アルフレッド・ポールソン(John Alfred Paulson)を取り上げています。彼は大学や大学院を首席で卒業し、経営コンサルティング会社に就職した後、自身に足りない知識、技術、人脈を求めて転職を繰り返しました。そして、1994年に200万ドルを集め、リスク・アービトラージなどを行うポールソン&カンパニーを設立します。ところが、運用実績がないために運用資金集めに苦労しました。そこで景気に左右されない良好な運用成績を積み上げるという地道な作業を7~8年続けることで、ようやく注目を浴びるようになり、運用資金は2006年に65億ドルにまで増えます。

◆金融危機で巨額の収益

 2005年頃、ポールソンは銀行の融資基準の甘さや金融機関のレバレッジの高さを背景に、住宅不動産市場で空前のバブルが発生しているのではないかとの懸念を抱きます。その懸念は的中し、2007年の半ば頃から住宅価格がピークアウトして、最終的には3割近くも値下がりしてしまいます。そのため、サブプライム住宅ローンのデフォルトが急増していきます。それとともに同関連の証券化商品が値崩れし始め、最終的には投げ売り状態となりました。このサブプライム住宅ローンから始まった金融危機は、大恐慌以来最悪の世界的な経済危機に発展します。2008年には米名門投資銀行のリーマン・ブラザーズが破綻しました。2009年初頭までに、世界の銀行やその他の企業の損失は3兆ドルに近づき、株式市場の投資家は30兆ドル以上を失います。

 こうした危機的な状態から利益を得ようとするときに一番の問題はタイミングです。サブプライム住宅ローンの問題に気付いていたのはポールソンだけではありませんでしたが、タイミングが早すぎたために大きな損失を被る同業者が相次いだのです。ポールソン自身も数千万ドルの損失を抱えましたが、彼はサブプライム住宅ローンの証券化商品のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を買い続け、ポジションは250億ドルにも膨れ上がります。そして、証券化商品の値が崩れ出すとCDSのプレミアムは跳ね上がり、ポールソンは150億ドルもの投資収益を得ることに成功します。

 2008年と2009年には劇的に投資スタンスを変え、投資銀行、ヘッジファンド、保険会社、ホテルの株式や債券などを底値で拾い、50億ドル近くの収益を上げました。2009年の終わり頃には、金鉱株と金関連投資に重点を置いた投資を始めます。米連邦準備制度理事会(FRB)やその他の中央銀行が実施した金融刺激策による大規模なバランスシート拡大が、通貨価値の下落、すなわちインフレをもたらすと考えたのです。これらの投資が奏功して2010年も約50億ドルを稼ぎ、2011年にはポールソン&カンパニーに360億ドルもの運用資産が集まります。

◆栄枯盛衰

 しかし、良いことばかりではありません。2011年と2012年の運用成績は二桁のマイナスになりました。その要因は、欧州債務危機を過小評価し、訪れることのなかった経済回復に乗ろうとしたことと、金価格が2011年8月をピークに乱高下したことなどでした。また、中国有数の商業用森林プランテーション事業者として、カナダのトロント証券取引所に上場していた嘉漢林業国際(シノ・フォレスト)への投資にも失敗します。

 第19回で取り上げたマディ・ウォーターズのカーソン・ブロック(Carson Block)が2011年6月に、シノ・フォレストは資産と収益を不正に膨らませており、会社の株式は無価値だと主張する空売りレポートを公表しました。このレポートを受けてシノ・フォレストの株価は82%下落し、同社最大の株主だったポールソンは、株式売却で7.2億ドルの損失を余儀なくされます。シノ・フォレストは同年8月に株式が取引停止となり、翌年3月にはカナダで破産保護を申請しました。

▼マディ・ウォーターズのカーソン・ブロック(前編)―デリバティブを奏でる男たち【19】―
https://fu.minkabu.jp/column/1284

 ポールソンは、その後も経営難に陥ったバリアント・ファーマシューティカルズ(現在のボシュ・ヘルス・カンパニーズ<BHC>)を含む製薬会社への誤った投資が一因となり、2015年と2016年に損失を余儀なくされました。一方でポールソンは2016年の米大統領選挙のときから、ドナルド・ジョン・トランプ(Donald John Trump)大統領候補を応援し、主要な選挙資金の調達者になっています。その背景の一つにはトランプがポールソン&カンパニーに運用資金を提供していたことも挙げられるでしょう。なお、ボシュに関しては以下でも取り上げていますので、ご参照ください。

▼パーシング・スクエアのビル・アックマン(後編)―デリバティブを奏でる男たち【17】
https://fu.minkabu.jp/column/1250

▼シトロン・リサーチのアンドリュー・レフト(前編)―デリバティブを奏でる男たち【18】
https://fu.minkabu.jp/column/1259

▼アッベン後のバリューアクト(前編)―デリバティブを奏でる男たち【68】
https://fu.minkabu.jp/column/2147

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◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):
証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。



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