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【市況】大型ハイテク株への物色集中と利下げ観測後退【フィリップ証券】

 米国株式市場は、「年末ラリー」、「サンタクロース・ラリー」の中で平穏に年末を迎えるというわけには行かなくなってきたようだ。現地12/18に結果が発表されたFOMC(連邦公開市場委員会)までを振り返ると、米主要株価指数のうちハイテク株の比率が高いナスダック総合指数が12/11に終値で初めて2万ポイントを超えた。12/6発表の11月雇用統計、および12/11発表の11月消費者物価指数(CPI)を受けて利下げ期待の高まりがその背景の中心にあった。それに加え、トランプ次期政権のAI(人工知能)や暗号資産など金融技術に関する規制緩和、および引き続き生成AIの進化への期待の高まりも後押しをしていた。

 その一方、多国籍大企業や景気敏感銘柄が多いダウ工業株30種平均(ダウ平均)株価の終値は、12/4に4万5000ドルを超えた後、12/18までで1974年10月以来の最長となる10営業日連続で下落した。12/19終値は前日比で辛うじてプラスだったものの、終値が始値を下回る日次ローソク足の陰線11日連続(11陰連)となっている。

 12/13に10年国債利回りが3ヵ月物国債利回りを2022年11月以来初めて上回ったことは潮目の変化を示唆している。新型コロナ・パンデミックの大幅下落から底打ちした2020年3月を起点とする上昇相場において、2021年末~2022年11月近辺までの期間は、FRB(連邦準備制度理事会)による政策金利の引上げによる調整局面から主要銘柄の株価が軒並み下落した、押し目の「中間波動」を形成していた。

 30銘柄の平均株価をベースとするダウ平均株価に対し、時価総額加重平均型のS&P500株価指数およびナスダック総合指数は、時価総額上位7銘柄の「マグニフィセント・セブン」に12/13に時価総額1兆ドル超えを達成した半導体大手ブロードコム<AVGO>を加えた時価総額上位8銘柄の時価総額合計の堅調な増加ペースに牽引され、2023年初以降は相対的にパフォーマンスが好調となっていた。2022年11月までの相場への回帰が示唆されるなら、この時価総額上位銘柄の相対的優位性も揺らぐ可能性があるだろう。

 大型ハイテク株からの資金流出が進む可能性があるとしても、トランプ政権の規制緩和でAIやフィンテック関連銘柄が恩恵を受けやすいことに変わりはないと考えられる。その場合に資金が向かいやすい受け皿としては、相対的に中小型のITほかテクノロジー関連銘柄と想定される。


■時価総額上位8銘柄とそれ以外の銘柄との格差

 米国主要株価指数は、昨年末から12/18終値までの騰落率でダウ工業株30種平均株価の15.0%上昇に対し、時価総額加重平均型株価指数であるS&P500指数が23.1%上昇、ナスダック総合指数が29.2%と相対的に高い。その要因として時価総額上位銘柄へ買いが集中している点が挙げられる。S&P500指数とナスダック総合指数について、①「時価総額上位8銘柄の時価総額合計」、②「上位8銘柄を除く時価総額合計」を昨年末を100とした相対指数で見ると、12/18終値は①が149.35に対し、②はS&P500指数が111.5、ナスダック総合指数が104.68と相対的に伸び悩んだ。12/18発表の米FOMC(連邦公開市場委員会)を通じて利下げペース鈍化見通しが強まった。時価総額上位銘柄への買い集中が変化する可能性もあるだろう。


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参考銘柄


アファーム・ホールディングス<AFRM> 市場:NASDAQ・・・2025/2/7に2025/6期2Q(10-12月)の決算発表を予定

・ペイパルのCTO(最高技術責任者)だったマックス・レヴチンが2012年に創業。ネット消費者のEコマース購入時に「Buy Now, Pay Later(BNPL)」と呼ばれる後払い決済・分割払いサービスを提供。

・11/7発表の2024/6期1Q(7-9月)は、売上高が前年同期比40.7%増の6.98億USD(会社予想:6.4-6.7億USD)、流通総額が同36%増の76億USD(同:71-74億USD)、調整後営業利益率が同6.5ポイント拡大の18.6%(同:14-16%)と会社予想を上回って推移。年末商戦でBNPLサービス需要が高まった。

・通期会社計画を上方修正。流通総額を前期比27.8%増の340億USD(従来計画:335億USD)、売上高対流通総額比率を同0.2ポイント拡大の8.9%(同:8.8%)、調整後営業利益率を同3.6ポイント拡大の20.0%(同18.4%)とした。BNPLはクレジットカードを持ちにくい低所得者層を中心に拡大。米アドビ調査によれば感謝祭週明けの「サイバーマンデー」のBNPL利用額が前年比6%増で過去最高。


アクソン・エンタープライズ<AXON> 市場:NASDAQ・・・2025/2/27に2024/12期4Q(10-12月)の決算発表予定

・1993年設立。法執行機関(警察等)や刑務所、軍隊他向けに電気兵器類(スタンガンの一種で電気ショックで相手を動けなくさせるテーザー銃)やソフトウェアセンサーシステムを開発・製造・販売。

・11/7発表の2024/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比31.7%増の5.44億USD、非GAAPの調整後EBITDAが同54.4%増の1.45億USD。売上維持率(1既存顧客当たり平均契約金額の前回比率)が123%。テーザー事業が同36%増収、ソフトウエア&センサー事業が同29%増収と堅調に推移。

・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比32%増の20.7億USD(従来計画:20.0-20.5億USD)、調整後EBITDAマージンを同1.5ポイント拡大の24.6%(同:23.1%)とした。米取引所ナスダックは12/13、同銘柄は12/23よりナスダック100指数に採用されると発表。トランプ次期政権の下で不法移民規制や薬物輸入規制強化目的で警察など法執行機関向けテーザー銃の需要増が見込まれる。


ダイナトレース<DT> 市場:NYSE・・・2025/2/7に2025/3期3Q(10-12月)の決算発表予定

・2005年設立のSaaS(Software as a Service)企業で、マルチクラウド環境上の様々なアプリケーションのパフォーマンス管理・運用監視をリアルタイムかつ一元的に行うツールの「Dynatrace」を提供。

・11/7発表の2025/3期3Q(10-12月)は、売上高が前年同期比18.9%増の4.18億USD(会社予想:4.04-4.07億USD)、非GAAPの調整後EPSが同19.4%増の0.37USD(同:0.32-0.33USD)。企業のデジタル変革(DX)需要を追い風に、継続課金に係る年間経常収益(ARR)が同20.3%増の16.16億USD。

・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比16-17%増の16.65-16.75億USD(従来計画:16.44-16.58億USD)、調整後EPSを同9-11%増の1.31-1.33USD(同:1.26-1.29USD)とした。同社のソフトウェアはAIを中核として導入から監視・検証・分析まで全て自動化。急速に普及する生成AIとの間でのデータ連携の進展が生産性を向上させることで、企業のDX化への貢献が見込まれる。


パランティア・テクノロジーズ<PLTR> 市場:NASDAQ・・・2025/2/5に2024/12期4Q(10-12月)の決算発表予定

・ペイパルの共同創業者で起業家のピーター・ティール氏らが2003年に設立 。ビッグデータ解析プラットフォームを開発・提供。米諜報機関が対テロ分析で活用するほか、ヘッジファンドなども利用。

・11/4発表の2024/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比30.0%増の7.25億USD(会社予想6.97-7.01億USD)、非GAAPの調整後営業利益が同68.7%増の2.75億USD(同:2.33-2.37億USD)と堅調に推移。民間商業向け売上が同27%増の3.17億USD、政府機関向け売上が同33%増の4.08億USD。

・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比26.1-26.2%増の28.05-28.09億USD超(従来計画:27.42-27.50億USD)、調整後営業利益を同84-85%増の10.54-10.58億USD(同9.66-9.74億USD)とした。同社CEOのピーター・ティール氏は「ペイパル・マフィア」と呼ばれるペイパル元幹部の事業家集団の中でも中心的な人物であり、トランプ次期政権下でも強い影響力を発揮することが期待される。


イェルプ<YELP> 市場:NYSE・・・2025/2/14に2024/12期4Q(10-12月)の決算発表予定

・2004年にペイパルの元幹部だったジェレミー・ストップルマンが創業。地元企業の口コミ情報を無料登録できるプラットフォームを運営。企業は無料登録のほか広告表示有料サービスも選択できる。

・11/7発表の2024/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比4.4%増の3.60億USD(会社予想:3.57-3.62億USD)、非GAAPの調整後EBITDAが同5.1%増の1.01億USD(同:0.82-0.87億USD)。サービス事業からの広告収入が有料広告需要増加を受けて同11%増の2.28億USDと、業績を牽引した。

・通期会社計画は、売上高を前期比4-5%増の13.97-14.02億USD(従来計画:14.10-14.25億USD)と下方修正の一方、調整後EBITDAを同3-5%増の3.41-3.46億USD(同:3.25-3.35億USD)へ上方修正した。トランプ次期政権が「米国ファースト」を掲げる中で地域ローカルの中小企業の支援に注力してくると見込まれる。また、地域ローカル向けでありつつ20ヵ国超へのグローバル展開も強みだろう。


執筆日:2024年12月19日


フィリップ証券
フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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