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【市況】2024年4-6月決算発表から探る米国株投資の新たなトレンド【フィリップ証券】

 2024年4-6月期決算発表の真っ最中だ。利益率悪化が予想されていた電気自動車(EV)のテスラ<TSLA>が売られたのは想定の範囲内としても、検索広告やクラウド事業など堅調だったアルファベット<GOOGL>の株価下落は市場心理を悪化させた。これから決算発表を控える他の巨大時価総額・大型ハイテク株の「マグニフィセント・セブン」も、業績好調でも売られるのではないかと市場参加者が疑心暗鬼になるのも無理もないだろう。生成AI(人工知能)向け半導体への巨額投資のマネタイズ(収益化)への懸念、という見方が背景にあるのならば、生成AI向けのGPU(画像処理半導体)を一手に供給するエヌビディア<NVDA>は買われるべきという理屈に繋がることも考えられる。現に、7/31にはアドバンスト・マイクロ・デバイセズ<AMD>の業績上方修正を機に、アナリストからのエヌビディアへの再評価が動きも出てきた。

 他方、生成AIの普及は半導体などハード・インフラから企業のDX(デジタル変革)を通じた現場の業務効率化の段階に移り始めている。IBM<IBM>のようなインフラとソフトウエアの両方を押さえるIT企業や、インドのインフォシス<INFY>のようなソフトウエア受託請負開発企業の業績にも表れ始めている。生成AIに係るソフトウエア導入による業務効率化の余地が相対的に大きいとみられる金融業界からの受注が増えているようだ。

 株価大幅下落後、経営者交代により経営再建を目指す「ターンアラウンド」銘柄は、ここ数年のゼネラル・エレクトリック<GE>の株価にもみられるように、結果が出始めて以降は株価上昇トレンドが継続しやすく、外部環境にも左右されにくい面がある。今年に入ってからは化学・素材大手の3M<MMM>が特に注目される。同社はCEO交代に加え、ヘルスケア事業ソルベンタム(SOLV)のスピンオフ、および減配により60年余りにわたる「配当貴族」としての連続増配の伝統に終止符を打つなどの改革方針が業績改善と合わせて評価され、決算発表日(26日)の株価終値は前日比2割超の上昇となった。その他にも、7/30に決算発表を行ったペイパル・ホールディングス<PYPL>も同様の「ターンアラウンド」銘柄候補として有望とみられる。

 米商務省が26日に発表した6月の個人消費支出(PCE)価格指数は前年比2.5%上昇と、前月の2.6%から鈍化。インフレ状況の改善は米FRB(連邦準備理事会)による利下げ見通しを高めるプラス面の一方、景気減速のマイナス面も内包する。その意味ではヘルスケアなどのディフェンシブ銘柄の重要度が高まるとみるべきだろう。高齢化による退職者割合上昇を背景としてメディケアなど高齢者向けの医療・ヘルスケア分野への義務的経費の歳出も増大するとみられることから、医療・ヘルスケア業界は人口動態を背景とした成長が見込まれる。既に大手病院チェーンの4-6月期決算で公的医療保険制度の追加支払い制度導入州の増加が業績への貢献として表れている。医療・ヘルスケア関連銘柄への投資は当面、米国株物色の柱として位置づけられよう。

■アルファベットとテスラの2Q決算~株価反応は冴えないものの注目点あり

 米主要企業の4-6月期決算発表が相次いでいる。時価総額上位の大型ハイテク株への物色偏りに行き過ぎが見られる中で株価の更なる上昇への市場のハードルは予想以上に上がっている。23日の取引時間終了後に発表された主要ハイテク銘柄2社のうち、アルファベットは前年同期比14%増収、29%最終増益と堅調も、YouTube広告の増収率(13%)が市場予想に届かなかったとして24日の株価終値は前日比5%下落。ネット広告やクラウド事業は堅調で押し目は好機だろう。

 テスラは電気自動車において値引きなどの影響で平均単価が低下の一方、平均コスト削減に時間を要する点は懸念されるものの、大型蓄電池などエネルギー関連事業の売上比率が12%近くまで拡大している点は評価されよう。


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参考銘柄


HCAヘルスケア<HCA> 市場:NYSE・・・2024/10/24に2024/12期3Q(7-9月期)の決算発表を予定

・1968年設立の病院運営持株会社。米国と英国で一般・救急病院、精神病院、リハビリ病院、独立手術センターなど多様な医療施設を所有・運営。病院チェーン上場企業の時価総額で世界首位。

・7/23発表の2024/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比10.3%増の174.92億USD、非GAAPの調整後EPSが同28.2%増の5.50USD。既存施設入院相当患者数は同5%増、既存施設1入院相当患者当たり収入が同6%増と増収に寄与。人件費が同5.6%増も、売上高総費用率は1.4ポイント改善。

・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比7-10%増の697.5-717.5億USD(従来計画677.5-702.5億USD)、EPSが同14-20%増の21.6-22.8USD(同:19.7-21.2USD)とした。2024年にメディケイド(低所得者向けの公的医療保険制度)の追加支払いが追い風になる見込む。米共和党の政策綱領にも「社会保障と高齢者・障がい者向け公的医療保険を削減すること守り抜く」と盛り込まれている。


IBM<IBM>  市場:NYSE・・・2024/10/23に2024/12期3Q(7-9月期)の決算発表を予定

・1911年設立。コンピューター・ソリューションを提供する。ストレージ製品、サーバー製品のほか、人工知能(AI)の「Watson」やクラウドサービス、IoT、アナリティクス、コンサルティングなども手掛ける。

・7/24発表の2024/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比1.9%増の157.70億USD、継続事業に係る非GAAPの調整後EPSが同11.5%増の2.43USD。企業の生成AI(人工知能)や自動化システムへの取組み拡大を追い風にインフラ(同1%増収)とソフトウェア(同7%増収)の相乗効果が見られた。

・通期会社計画は、為替の影響を除く増収率が前期比1桁台半ば、フリーキャッシュフローが同7%増の120億USDで従来計画を据え置き。同社CEOは、昨年7月に提供開始の法人顧客向けAI(人工知能)の「ワトソンX」と生成AIに関する事業は4月時点で10億USDとの公表に対し20億USD以上の規模に育ったと公表。更に「同社技術や専門性を見込んだ顧客企業の引き合いが引き続き強い」とした。


インフォシス<INFY> 市場:NASDAQ・・・2024/10/17に2025/3期2Q(7-9月期)の決算発表を予定

・1981年設立。インドのバンガロールが本拠の世界有数のITコンサルティング・ソフトウエア受託開発企業。幅広い業界にアプリケーション開発、製品共同開発、システム実用化などサービス提供。

・7/18発表の2025/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比2.1%増の47.14億USD、純利益が同5.4%増の7.63億USD。営業利益率が同0.28ポイント上昇に加え、大口案件のTCV(合計契約金額)が同78%増の41億USDへ拡大したこともあり、フリーキャッシュフローが同56.5%増の10.94億USDへ伸長。

・通期会社計画を上方修正(2023年初以来)。為替の影響除く売上高を前期比3-4%増(従来計画1.0-2.5%増)とした。営業利益率は20-22%(1Q実績:21.1%)で据え置き。数年にわたり低迷していた企業の技術支出が生成AI(人工知能)の新潮流を受けて回復に転じる変曲点が示唆される。同社CEOによれば米国金融サービスの需要が加速。現場業務効率化ニーズ高まりの背景が窺われる。


ユニバーサル・ヘルス・サービシズ<UHS>  市場:NYSE・・・2024/10/25に2024/12期3Q(7-9月)の決算発表を予定

・1978年設立の医療施設運営会社。一般および専門外科、内科、産婦人科、小児科のほか、救急病院、行動医学ヘルス・センター、外来手術センター、放射線腫瘍学センターを所有・経営する。

・7/24発表の2024/12期2Q(4-6月)は、営業収益が前年同期比10.1%増の39.07億USD、非GAAPの調整後EPSが同70.4%増の4.31USD。既存施設営業収益は、1入院相当患者当たり収入増を受けて救急患者治療が6.6%増、行動医学ヘルス・センターが11.0%増。売上高総費用率が同3.3ポイント改善。

・通期会社計画を上方修正。営業収益を前期比9-10%増の155.65-157.53億USD(従来計画154.11-157.06億USD)、調整後EPSを同46-54%増の15.4-16.2USD(同:13.0-14.0USD)。BofA証券によれば同社ガイダンスにテネシー州とコロンビア特別区で承認待ちの新たな追加保険支払いの可能性を考慮していないとされ、他州でも同様に追加支払い制度の導入を検討と業績への追い風が続こう。


フィリップ証券
フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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