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【特集】「量子コンピューター」120兆円巨大市場、株高マグマ噴火前夜の銘柄群 <株探トップ特集>

インテルやグーグルなど米国の巨大テック企業は、生成AIと並行して、量子コンピューターの研究開発にも注力する。技術力の高い部品メーカーや開発型企業は、大きな恩恵を受けそうだ。

―日米連合で開発需要は一段と拡大、生成AIとの親和性も高く中長期観点で投資妙味強まる―

 量子コンピューター の実用化に向けた研究開発が一段と加速している。日本政府が国策として産業育成に舵を切るなか、米巨大IT企業と日本の研究機関が提携し、開発投資を実施するといった新たな動きもみられるようになった。昨今、株式市場をにぎわせている生成AI の精度向上にも、計算速度などの面での進化が欠かせない。今回の株探トップ特集では、中長期的な観点で投資妙味のある量子コンピューターの関連銘柄を取り上げていく。

●米IBM・グーグルと東大が新たなタッグ

 量子分野での「日米タッグ」の発表が相次いでいる。IBM<IBM>は5月21日、東京大学とシカゴ大学とともに、量子を中心としたスーパーコンピューターの開発に今後10年間で1億ドル(約144億円)の投資を実施すると表明した。米アルファベット<GOOG>傘下のグーグルも、量子コンピューター領域での両大学とのパートナーシップをもとに、10年間で最大1億ドルの共同出資をするという。また、米インテル<INTC>は5月18日、理化学研究所と量子コンピューターなどの共同研究に向けた連携に関する覚書を締結した。

 国内ではこれまでも、NEC <6701> [東証P]や富士通 <6702> [東証P]、日立製作所 <6501> [東証P]、東芝 <6502> [東証P]など大手電機メーカー各社によって、量子コンピューターの開発が進められてきた。ヒト・モノ・カネのリソース面で優位にある米国企業が、海外のなかでも日本での研究開発に注力するとなれば、日本の産業競争力を更なる高みに引き上げることとなりそうだ。

 米ボストンコンサルティンググループは2021年時点で、量子コンピューターがもたらす経済価値が今後15~30年以内で、最大8500億ドル(約122兆4000億円)に上ると予測した。日本政府も量子技術イノベーション戦略のもと、30年に量子技術の国内利用者を1000万人、同技術による生産額を50兆円規模にする野心的な目標を掲げている。市場の急成長を見越した投資活動は今後、一段と活発化すると考えられている。

●超電導方式で試される冷却技術

 量子コンピューターといってもさまざまなタイプがある。従来型コンピューターの演算素子であるゲート(論理回路)をベースとする「量子ゲート方式」や、量子揺らぎをはじめとする物理現象を応用した「量子アニーリング方式」などがあり、量子ゲート方式にも超電導方式やイオントラップ方式など、さまざまな種類が存在する。

 IBMなどが開発を進める超電導方式の場合、極低温環境を作り出す必要があるが、この分野での商機獲得が期待されるのが住友重機械工業 <6302> [東証P]と、三菱ケミカルグループ <4188> [東証P]子会社の日本酸素ホールディングス <4091> [東証P]だろう。

 住友重は昨年12月に開催された半導体の国際展示会「セミコン・ジャパン」において、量子コンピューター向けの冷却装置を展示した。日本酸素HDは、傘下の大陽日酸が、超電導冷却システムの開発に欠かせない企業として名高い。科学技術振興機構の「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」では、医学・生命科学領域でのイノベーション創出に向けた共同研究に、東レ <3402> [東証P]グループの東レリサーチセンターなどと参画した実績も持つ。

 電子部品大手では、日本航空電子工業 <6807> [東証P]が昨年10月、量子コンピューターでの搭載を視野に、正常な動作を妨げる磁性の影響を受けない極小サイズの同軸コネクターを試作開発したと発表。人工衛星分野で培ったノウハウを生かし、極低温にも対応できるようにした。

●中核銘柄にFスターズやQDレーザ

 中小型株では、フィックスターズ <3687> [東証P]が関連銘柄の筆頭格となる。同社はアニーリング方式の量子コンピューターを商用提供するカナダのDウェイブ・クアンタム<QBTS>と17年に協業を始め、高性能な計算基盤を提供している。スーパーコンピューターの研究開発で密接な関係を構築してきた理研や富士通が生成AIの開発に乗り出したことを受け、AI関連株としても注目を集めている。

 富士通研究所からスピンオフしたQDレーザ <6613> [東証G]も市場の関心が高い。同社は今年4月、量子ドットレーザーを受注し量産すると発表。コンピューターの情報処理速度の飛躍的な向上につながる光配線用シリコンフォトニクスチップ向けの光源として利用されるという。ナノレベルの粒に電子を閉じ込める「量子ドット」の応用先には量子コンピューターも含まれ、事業領域の更なる拡大が期待される。

 加えて、オキサイド <6521> [東証G]は今年3月に買収したイスラエル企業が量子コンピューティングなどに用いられる結晶や光源モジュールを製品群に持つ。シグマ光機 <7713> [東証S]は、量子コンピューターの重要部品であるビームスプリッターなどを手掛け、「高精度オプティカル・キャビティ」では海外を含め量子・先端技術分野での問い合わせや受注が増加中という。量子コンピューター向け低雑音信号処理システムのエヌエフホールディングス <6864> [東証S]も含め、開発分野での需要増が見込まれている。

●IPO控えるグリッドなどもマーク

 IPO(新規株式公開)を控える企業のなかでは、7月7日に東証グロース市場に新規上場するグリッド <5582> [東証G]が、社会インフラ領域でのAIソリューション提供などを手掛けつつ、量子コンピューターアルゴリズムの開発に携わる。昨年11月にはトヨタ自動車 <7203> [東証P]と量子機械学習の研究分野で協業すると発表した。

 6月30日にスタンダード市場に新規上場するAIソリューションのジーデップ・アドバンス <5885> [東証S]は多くの研究機関を顧客に持つ。例えば東京大学の昨年度の調達情報をみると、「量子機械学習計算機」の納入企業に同社の名前が記載されている。

 このほか、人・夢・技術グループ <9248> [東証P]は傘下の長大が量子コンピューターを活用した最適配電網作成に関する特許を取得している。量子ドットレーザーを子会社で取り扱うYKT <2693> [東証S]や、量子コンピューターを活用したゲノム解析に関する共同研究を京都大学と実施するBlueMeme <4069> [東証G]、量子コンピューター向けのクラウドサービスなどを手掛けるblueqat(東京都渋谷区)と提携するシンデン・ハイテックス <3131> [東証S]も、関連銘柄としてマークしておきたい。

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