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【特集】春に強い「スプリング・ストック」を探してみた

大川智宏の「日本株・数字で徹底診断!」 第110回
大川智宏大川智宏(Tomohiro Okawa)
智剣・Oskarグループ CEO兼主席ストラテジスト
2005年に野村総合研究所へ入社後、JPモルガン・アセットマネジメントにてトレーダー、クレディ・スイス証券にてクオンツ・アナリスト、UBS証券にて日本株ストラテジストを経て、16年に独立系リサーチ会社の智剣・Oskarグループを設立し現在に至る。専門は計量分析に基づいた株式市場の予測、投資戦略の立案、ファンドの設計など。日経CNBCのコメンテーターなどを務めている。

前回記事「プチ金融不安をスルーするなら、外国人売り&個人買いの相関に注目」を読む

欧米の景気悪化が、株式市場での懸念材料となってきた昨今、将来の業績の成長性に期待をして投資をするのは難しいと言わざるを得ません。

こうした環境下では、銘柄の季節性に注目する方法もあるでしょう。夏場には清涼飲料やアイス、ビールなどの売り上げが急増しやすい「サマー・ストック」があり、冬場には暖房機器やスキー関連などの特需の恩恵を受ける「ウインター・ストック」があります。

ならば、四季のある日本では、春に注目される「スプリング・ストック」はあってもいいはずです。桜の季節から6月の梅雨入り前までに、活躍が期待できる銘柄です。

ただ、これまでスプリング・ストックという言葉が一般的でなかったのは、夏や冬と比べて「これぞ」という明確なイメージが浮かばない点もあったためと見られます。

そこで今回は、まず定量的に春に強い銘柄を抽出し、それから定性的な意味づけをする形で「スプリング・ストック」を選んでいきます。

「セル・イン・メイ」は、もはや都市伝説に

スプリング・ストックを選ぶ前に、そもそも4月と5月の相場は上昇しやすいのか、それとも下落しやすい傾向なのかを確認します。一般に、5月は「セル・イン・メイ(5月に売れ)」と呼ばれ、相場の急落が発生しやすいアノマリー(経験則)があるとされています。実際はどうなのでしょうか。

過去10年間および20年間の日経平均株価およびTOPIXについて、それぞれの勝率(月間株価が上昇した割合)を計算しました。

■4月と5月の日経平均株価およびTOPIXの勝率
【タイトル】
出所:リフィニティブ・データストリーム

意外なことに5月も、前の月の4月と同様に上昇している割合が多いようです。特に緑の棒グラフで示した過去10年間に限れば、5月の勝率は日経平均もTOPIXも70%に達しており、「セル・イン・メイ」はもはや都市伝説になったのかもしれません。

4月と5月に強い業種は

業種の傾向についても確認しました。計測方法は東証33業種の業種指数の過去20年間の勝率を取ったものになります。騰落率はTOPIXの相対値としています。まずは、上位業種からです。

4月と5月の双方でランクインしている業種は薄緑でハイライトしています。全体として、景気敏感やディフェンシブといった業種の特色が、はっきりと見られているわけではありません。

■過去20年間の4月および5月の業種の勝率 上位10業種
4月5月
順位業種勝率順位業種勝率
1ゴム製品70%1精密機器75%
2海運業65%2空運業65%
3水産・農林業60%3その他金融業60%
4ガラス・土石製品60%4電気・ガス業55%
5情報・通信業60%5ガラス・土石製品55%
6保険業60%6情報・通信業55%
7機械60%7鉄鋼55%
8石油・石炭製品60%8機械55%
9その他金融業60%9医薬品55%
10繊維製品60%10不動産業55%
出所:リフィニティブ・データストリーム

また、80%を超えるような、突出して勝率が高い業種がないことも印象的です。これは、次ページでリストアップしている季節性に影響される個々の銘柄と、業種全体の特性が必ずしも一致しないことが原因でしょう。

とはいえ、5月に勝率の高い空運などは、5月の最大のイベントであるゴールデンウィーク(GW)による旅行需要の増加などが影響していると考えれば辻褄が合うこともあります。

4月と5月の勝率が下位の業種は

続いては、下位業種です。

こちらも4月と5月で共通してランクインしている業種には、グレーでハイライトしています。

上位業種と同様、偏りが明確に見られるわけではありませんが、その中でも比較的目立つ傾向としては、春からしばらくは銀行や証券といった大手金融の勝率が低くなりやすいということでしょうか。

■過去20年間の4月および5月の業種の勝率 下位10業種
4月5月
順位業種勝率順位業種勝率
1空運業15%1証券、商品先物取引業20%
2倉庫・運輸関連業25%2銀行業35%
3鉄鋼30%3鉱業35%
4その他製品30%4石油・石炭製品35%
5証券、商品先物取引業30%5海運業40%
6卸売業30%6パルプ・紙40%
7銀行業35%7小売業40%
8金属製品35%8ゴム製品40%
9パルプ・紙35%9倉庫・運輸関連業40%
10小売業40%10非鉄金属45%
出所:リフィニティブ・データストリーム

2013年の異次元緩和もそうですが、重要な金融政策の変更などは、新年度入り後に実施されることが多かった記憶があります。基本的には緩和方向で推移してきた日本では、銀行株が春先から傷みやすかったのは必然かもしれません。

今年は4月に日銀の新総裁が就任し、その挙動に注目が集まっていますが、急速な引き締めに動くとは考えられません。そのため、足元で米国の金融不安がくすぶる中で、今後も銀行株は日本株市場内で需給的にも厳しい状態が継続するかもしれません。

その他の業種も、4月、5月ともに軟調であった業種は、この時期に値上がりを期待するのは厳しいことになります。しかし、発想を変えれば5月に底値を拾えるチャンスがあるとも捉えられるので、関連銘柄に投資を考える場合はそれまで待つのも1つの戦術でしょう。

過去20年の勝率で見た「スプリング・ストック」の候補は

ここから、いよいよ今回の目的である「スプリング・ストック」を抽出していきます。基本的な方法は、東証プライム上場銘柄のうち、過去20年間の4月または5月の騰落率(TOPIX相対)が高い銘柄をスプリング・ストックとして定義します。

今回は、銘柄数の都合で勝率が75%以上のみを紹介します。また上場年数が15年間に満たない銘柄は集計対象から除外しています。

まずは、4月の勝率上位銘柄です。勝率100%はなかったものの、80%を超える銘柄が一定数存在しました。業績期待や需給的に何かしらの傾向を持つのかしれません。

※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。



 

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