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【特集】実証段階突入、出航の汽笛鳴る「自動運航船」関連株 <株探トップ特集>

国交省注力の生産性革命「i-Shipping」。造船や海運業界の競争力向上を目指すものだ。この一環でスタートする自動運航船実用化への取り組みを追った。

―造船・海運業界の競争力向上へ、政府後押しで勝機得る企業は―

 国土交通省が注力している分野のひとつに、海事産業の生産性革命「i-Shipping」がある。これはIoTビッグデータ人工知能(AI)などを活用した船舶・舶用機器の技術開発を支援し、 造船及び海運業界のコスト競争力や品質の向上、サービスの革新を図る取り組みを指す。この一環として同省は7月25日、自動運航船の実用化に向けた実証事業を今年度からスタートすると発表。安全要件の策定などの環境整備を進め、世界をリードする構えだ。

●政府、2025年までの実用化目指す

 自動運航船とは、ICT(情報通信技術)などを使って、遠隔による操船支援や見張りの自動化、機関故障の予知・予防が可能な船舶のこと。通信衛星を利用して運航情報をリアルタイムに陸上の制御室に送り、陸上から操船を支援する指示を受けることで、防波堤など海図に載る障害物や、氷山など海図に載らない障害物、航行中の他の船舶との衝突を回避し、安全に目的地まで航海することができるものとして世界的に関心が高まっている。船舶の自動化では、既に小型船舶などに「自動操舵装置(オートパイロット)」と呼ばれるものが取り付けられているケースも多いが、これは船の進む方位だけを制御するもので、風や潮流の影響で想定していた航路から外れる可能性がある。

 自動車業界で技術開発が進む「自動化」の波が船舶の分野にも広がっている背景には、高齢化の進展による船員不足が挙げられる。国交省が公表している船員職業安定年報によると、17年の全商船(貨物船や旅客船など)有効求人倍率は2.31倍と前年から0.28ポイント上昇。船種別では近海船が4.44倍(前年は4.53倍)と高い水準で推移しているほか、国内貨物輸送の4割以上を占める内航船は2.21倍(同1.89倍)と深刻度が一段と増しており、自動化が実用化されれば船員の作業負担が軽減され、人員確保につながることが見込まれる。また、自動運航船が普及すると、海難事故の削減効果も期待できる。海上保安庁が把握している過去5年間の海難事故1万592隻のうち、原因の約2割が「見張り不十分」。「操船不適切」や「機関取り扱い」、「船体機器の整備不良」なども含めれば人為的要因が7割以上を占めている。

 自動化の導入は海運業界が抱える課題を解決する手段のひとつとされ、官民が一体となったオールジャパンでの取り組みが進んでいる。政府が6月に閣議決定した「未来投資戦略2018」では、2025年までの「自動運航船」実用化を目指し、国際的な議論を日本が主導する考えが示されており、まずは国内で建造する250隻程度に自動運航システムが搭載される見通しだ。

●商船三井と三井E&S は「自動離着桟機能」実証へ

 国交省が後押しする今年度の実証事業は、自動運航船のコアとなる「自動離着桟機能」「遠隔操船機能」「自動操船機能」について行われ、このほど事業を実施する企業が決定。「自動離着桟機能」では、三井E&Sホールディングス <7003> 傘下の三井E&S造船と三井造船昭島研究所、商船三井 <9104> 、東京海洋大学が共同提案した「船舶の自動離着桟の安全性に係る実証事業プロジェクト」が採択された。

 自動離着桟は操船のなかでも難易度が高く、商船三井が培ってきた環境負荷低減や安全性向上を目指した運航技術と、三井E&S グループが持つ操船制御技術、東京海洋大学の自動操船に関する学術的な知見・視点を生かして実証を行う予定だ。また、商船三井と三井E&Sは独自に遠隔監視・自動避航(他船との衝突を避ける自動操船)の実証実験を実施することも計画しており、これにより実用性の高い自動・自律運航システムの実現に向けた取り組みを加速させるとしている。

●郵船や古野電気などは「遠隔操船機能」実証に取り組む

 「遠隔操船機能」実証事業には、日本郵船 <9101> や古野電気 <6814> 、日清紡ホールディングス <3105> 子会社の日本無線、東京計器 <7721> 、スカパーJSATホールディングス <9412> 、NTT <9432> 、NTTドコモ <9437> などが名を連ねている。

 郵船は自動運航船につながる技術として避航操船などの研究を行っており、直近ではグループのMTIが神戸大学などと共同研究する「人工知能をコア技術とする内航船の操船支援システム開発」が、国交省の「交通運輸技術開発推進制度」に採択された。

 さらに、郵船は古野電気や日本無線、東京計器などと、非常時における陸上からの遠隔操船や航海計器情報をAR(拡張現実)化した機器の開発を目的とした「船舶の衝突リスク判断と自律操船に関する研究」を推進。今年初めにはNTTなどと船舶IoTの次世代プラットフォームに関する実証実験に成功している。

 このほか、スカパーJは今年3月に、移動体向け製品や衛星アンテナなどを製造する米KVH社に出資するなど、次世代船舶向け高速通信サービスを強化している。

●Jエンジン、三菱化工機、大興電通などにも注目

 「自動操船機能」実証事業には、住友商事 <8053> や住友重機械工業 <6302> が株主となっている大島造船所(長崎県西海市)と、三菱重工業 <7011> グループのエムエイチアイマリンエンジニアリング(東京都港区)が選ばれた。

 こうした実証事業の進展により、日本が自動航行船の実用化で世界をリードするかたちとなれば、他の企業にもビジネスチャンスが広がりそうだ。国交省の16年度「先進安全船舶技術研究開発支援事業」の「ビッグデータを活用した船舶機関プラント事故防止による安全性・経済性向上手法の開発」に参画した寺崎電気産業 <6637> [JQ]や三菱化工機 <6331> 、船舶用電機大手の西芝電機 <6591> [東証2]、船舶IoTサービスを手掛ける大興電子通信 <8023> [東証2]などに注目。

 ジャパンエンジンコーポレーション <6016> [東証2]は17年11月、運航ビッグデータを活用して舶用エンジンの安全性向上とメンテナンス時期の最適化を実現する郵船グループとの共同研究について、有用な結果を得たことを明らかにしている。

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