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【特集】横山利香「令和時代の稼ぎたい人の超実践! 株式投資術」― (50)2024年後半戦に備える!絶好の買い場到来か、さらなる調整かの分岐点

横山利香(ファイナンシャルプランナー、テクニカルアナリスト)

◆リトレースメントを活用して投資判断の精度を高めよう!

 まず、日経平均株価の日足チャートを見てみましょう。3月22日に史上最高値の4万1087円を付けましたが、その後は調整に転じ、4月19日安値の3万6733円まで売られてしまいました。2024年に入ってから上値追いの展開にありましたが、振り返ると、2023年6月以降は9月上旬まで高値を切り下げる動きを続けていました(図2参照)。また、高値と同様に、安値も切り下げていたことがわかります。高値と安値をともに切り下げる動きは、それだけ利益確定や戻り売りの圧力が強かったという証しであり、弱い地合いにあったと判断できます。

 しかし、9月15日に3万3634円の高値を付け、直前の9月7日の戻り高値3万3322円を上回ってきます。さらに、11月にも3万3853円の高値を付けたことで、明確に高値を切り上げる動きに転じたことがわかります。そして、この高値切り上げの動きに遅れて、安値の推移にも変化が表れます。10月4日に3万0487円の安値を付けた後、10月30日に3万0538円、12月8日には3万2205円と同様に安値を切り上げる動きになっています。つまり、日経平均株価は11月に高値を切り上げた時点で、強気相場に転じるサインが点灯していたことがわかります。

図2 日経平均株価(日足) 高値・安値「切り下げ」から「切り上げ」への転換
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 本コラムでは、このようなトレンドの転換点を分析するとともに、これまで日経平均株価が調整をみせる局面では度々、「順張りによる押し目買い」が売買戦略の基本となるのではないかと指摘してきました。

 では、2024年3月に4万円の大台を突破した日経平均株価について、今後の投資戦略を考えてみましょう。個人的な分析の基準とはなりますが、2023年11月に3万3853円に高値を切り上げたことにより地合いが弱気から強気に転換し始めたと解説しましたので、これに沿って足もとのサイクルの起点を10月に付けた安値3万0487円に設定したいと思います。

 なお、4万円を超えたタイミングで天井打ちを示唆する過熱感が観測されたことは、前回の「(49)危険を察知する株式市場のカナリア『騰落レシオ』」で触れた通りです。個人的にはおそらく3月22日に2024年前半の高値を取った可能性が高いのではないか、と考えています。

 さて、今回の主役となる「リトレースメント」ですが、これは上昇していた株価が反転したときの下げの目安、逆に下落していた株価が上昇したときの戻りの目安を計算する時に用いるテクニカル分析の手法です。

 わかりやすく言うと、「〇〇押し」や「〇〇戻し」のことです。この「〇〇」には一般に代表的なフィボナッチ数列の38.2%や61.8%、50%などが用いられることが多く、テクニカル分析の解説記事などでこれらの数字をご覧になった方も多いでしょう。個人的にはフィボナッチの数字を使った方が1円単位まで緻密に計算できるので好みですが、日本では古くから半値(50%)や3分の1(33%程度)、3分の2(66%程度)が目安として使われてきました。ざっくり計算して方向性を見るのであれば、こちらを使っても十分でしょう。

 それでは、日経平均株価が今後どちらの方向に動く可能性があるのかをリトレースメントを使って考えてみましょう。

 最初に使う数字は「50%」です。というのも、「半値戻しは全値戻し」という格言もありますので、まずは50%を基準に考えてください。2023年10月安値の3万0487円から24年3月に付けた高値4万1087円までの上げ幅を算出して、これに調整の目安となる比率「50%」をかけます。調整の勢いが弱いときは38.2%、3分の1なども使いますが、トレンドの強弱の判断には50%を用いるとよいでしょう。

▼上げ幅=4万1087円-3万0487円=1万0600円

▼調整幅の目安(50%)=1万0600円×50%=5300円(※小数点以下は切り捨て)

 50%押しの調整幅は5300円と算出されました。「どこまで押す=調整するのか」を考えるのですから、3月に付けた史上最高値4万1087円から5300円を引いて半値押しの値を導き出します。

▼半値押し=4万1087円-5300円=3万5787円

 半値押しの水準が3万5787円であることがわかりました(図3参照)。久しぶりの調整ということもあってロスカットを巻き込んでしまったのか、あっという間に38.2%の水準を下抜けてしまいましたので、ここでわざわざ計算する必要もないでしょう。

図3 日経平均株価(日足) 半値押しの水準
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 先ほど「半値戻しは全値戻し」と述べました。つまり、裏を返せば「半値押しは全値押し」という風にも考えることができます。リトレースメントの強弱の目安である半値押しを達成した時点で、次なるポイントは全値押しの3万0487円、その手前の61.8%押しの水準である3万4536円あたりが目標株価として考えられることになります。つまり、リトレースメントで半値押しを上回る下落となった時点で、株価の方向性としては下落圧力が相当に強いと判断できることになります。

 では、2024年後半戦に向けての戦略を考えてみましょう。

 リトレースメントでは今のところ、半値押しの水準を達成していない状況です。半値押しの水準を維持できるのであれば、上昇する可能性が残されていないわけではありません。

 ただ、本コラムの「(45)円相場から考える企業業績と売買タイミング」で、日経平均株価のEPS(1株当たり利益)について簡単に触れましたが、このEPSは指数採用銘柄の業績の推移を知ることができる重要なデータです。日経平均株価のEPS(加重平均)は2024年に入って上昇基調にありましたが、3月4日の2387.45円をピークに直近の4月26日時点で2293.52円と低下傾向にあります。ざっくり言うと、現時点では企業業績の成長が見込まれるかというと、減速の動きが観測されており微妙ということです(決算発表が本格化している段階ですので、今後、決算が出揃った段階ではっきりとすることでしょう)。

 これまでも株価を形成するのは、企業業績や経済動向であることを解説してきましたが、日経平均株価の構成銘柄には日本を代表する企業が多いわけですから、そのEPSが低下している状況で、株価が高値を更新できるのかといえば、甚だ疑問と言わざるを得ないという風に考えても仕方ないでしょう。

 本欄では、これまで数年にわたって日本株の売買戦略は「押したら買い」の順張り戦略を基本に据えて解説してきました。しかし、株価の基盤となる企業業績の見通しがややネガティブに傾いているという状況のなかで、株価の方向性は下落なのか、あるいは上昇基調であるのかはっきりしない状態にあります。こうした局面では、株価の行方は先ほどの50%押しのラインを基準としていまは五分五分とみて、採るべき戦略としては逆張りでもよいのかもしれません。つまり、当面、リバウンド上昇はとれそうですから安いタイミングは好機として狙えますが、一方で逆張りではしっかり売り抜けていくことも重要になります。トレンドが明確になるまでは(50%押しの水準を明確に下回ったら下落、あるいは上放れが明確になって上昇基調と判断できるまでは)、「安いところを拾ったら、短期で売り抜ける」もしくは「上昇したら戻り売り」で対応していくのがよいのではないでしょうか。

 今回は、日経平均株価の2023年の動きから足もとの調整と判断の目安となる株価水準について分析してみました。もちろん、リトレースメントを使って「高値=戻り」の目安を計算することもできます。

 株を売買する時に、株価の方向性を判断するための基準はもちろん、動いた場合の目標値の目安を考えておかなければ、株価の動きに一喜一憂して判断を誤ってしまいかねません。そうしたリスクを少しでも減らし、売買チャンスを機敏に捉えるために、是非リトレースメントを活用して、目標株価や方向性に裏打ちされた売買戦略を立てるようにしたいものですね。

 


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