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武者陵司 「日本株急騰、日本経済は壮大なブームへ」<前編>


―2017年情勢の基軸は「強い米国経済」、「強い大統領」、「強いドル」―

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

 2017年の情勢の基軸は強い米国の登場に尽きるだろう。「強い米国経済」の「強い大統領」とのパーセプション(認識)により米国過小評価の根底的修正が起き、一世を風靡したGゼロ論(リーダー不在の世界論)の誤りがはっきりするだろう。水面下で培われた米国経済の強さが、トランプ新大統領の下で顕在化し、米国通貨ドルが大きく上昇する。その波及が世界各国、各地域に特有の変化を与えるだろう。ドル債権国、対米純輸出国は有利となり、ドル債務国は不利となる。ドル円レートは1~2年で130円をゆうに超えていくと想定され、日本経済と企業収益、株価は壮大なブームとなるだろう。日経平均も1~2年で3万円を超えていくだろう。

(1)健全な米ファンダメンタルズ、壮大な財政政策

 米国経済のファンダメンタルズの健全性は歴史的水準にある。トランプ次期大統領はそれを引き継ぎ、2018年にかけて米国景気は大きなブームを迎えると予想される。以下の最重要な5指標は、全て歴史的な高水準にある。米国の健全なファンダメンタルズとは、(1)情報/インターネット革命に支えられた空前の企業収益、(2)世界最強のイノベーションに基づく産業競争力、(3)低金利かつ潤沢な投資余力(=高貯蓄)、(4)健全化した財政、(5)抑制されたインフレ、である。

 唯一問題なのは経済成長率が鈍化し、一部の地域、階層が成長の果実を享受できていないことであるが、これらは手当次第で容易に解決できる事柄と言える。よって次期大統領トランプ氏は、財政と規制緩和による成長底上げ政策を打ち出すことができ、それを市場は評価しているのである。

●壮大なスケールの景気浮揚効果

 財政が引き上げる成長加速の連鎖効果が注目される。特に減税案は(1)法人税減税(税率を35%から15%に引き下げ)、(2)個人所得税の減税(現行7段階の累進税率を12%、25%、33%に引き下げ、最高税率を現行の39.6%から33%に引き下げ)、(3)キャピタルゲイン及び配当に対する減税延長、(4)相続税の撤廃など、壮大なものである。また累計2.5兆ドルにのぼる多国籍企業の海外留保利益の国内送金に対する時限的課税軽減(35%から10%へ)により、税収増と海外からの所得還流が企画されている。

 これらがすべて実施されれば10年間で5兆ドル規模となり、それは米国名目GDPの2.8%に相当する、と推計されている。これに1兆ドルと言われるインフラ投資と国防支出増が加われば、リーマンショック以降2.1%(2011-2015年平均)であった米国GDP成長率は容易に1990年以降の長期成長トレンド3%を超えていくだろう。さらにエネルギーや金融規制緩和もビジネス活動を活発にする。次回中間選挙の2018年には経済成長率4~5%のブームが訪れる可能性は大きい。

 それはやがて、インフレと財政赤字拡大という、2大景気阻害要因を育て、長期金利の上昇が次のリセッションをもたらすことになる。すでに失業率4.9%と完全雇用状態にある米国のインフレ加速は、巨額の財政赤字とともに2018年以降の懸念要因として浮上しよう。

 しかしインフレと金利上昇に対してはドル高が大きな鎮痛剤となろう。つまりドル高が続けば、予想される経済ブームは2020年までのトランプ政権の任期中持続することも十分に考えられるのである。いうまでもなくドル高は米国金融の世界支配力を強め、トランプ氏が狙う世界覇権の強化にも結び付く。

(2)強いドルが米国の国益に

●かつてないドル高環境

 今ほど、米国にとって強いドルが国益となる時代は、変動相場制に移行して以来、なかったのではないか。理由は、(1)国際分業において相互補完分業が確立し、独占的支配力を持つ米国企業が世界市場を傘下に収めており、ドル高は安く買って高く売る(=交易条件改善)ことを推し進める、(2)トランプノミクスはインフレ圧力を高める(レーガノミクス時と類似)、(3)強いドルは世界を買い占めるのに有利(米国多国籍企業のグローバルM&A等)、(4)強いドルが米国のプレゼンスを一気に押し上げる(防衛支出有利に、米国の世界地位・世界GDP比シェアなどが高まる)、以上4要因による。

 米国の国際分業上の位置が大きく強化され、もはやドル安は必要なくなっている。米国企業の競争力優位は歴然としている。インターネット、スマートフォン、クラウドコンピューティング、などの情報ネットインフラにおいては世界中の人々が(知的所有権を恣意的に扱う中国を除いて)、米国企業の提供するプラットフォームの上で、ビジネスと生活をしている。金融においても米国の突出した強みは歴然である。

 WSJ紙による米国の大手企業の海外留保利益の推移をみると、米多国籍企業の海外留保利益は総計2.5兆ドルに達しており、この膨大な規模は財の貿易ではなく直接投資とサービス輸出で稼ぐ今日的米国企業の収益構造を端的に示している。

●大きく改善した米国の国際収支構造

 この強みが米国の国際収支を大きく改善させている。過去10年間(2005年から2015年)に、米国経常収支は-8067億ドル(対GDP比-5.7%)から-4630億ドル(対GDP比-2.6%)へと大きく改善したが、改善をリードしたのは金融・知的所有権料・ビジネスサービスなどのサービス収支(686億ドルから2622億ドルへ3.8倍)と、直接投資、証券投資などの第一次所得収支(676億ドルから1823億ドルへと2.7倍)の2部門である。他方、この10年間に米国貿易収支は2005年の-7828億ドルから2015年-7626億ドルへと、ほぼ横ばいであった。

 今後サービス収支と第一次所得収支の合計額が過去10年間の年率12.5%のペース(1362億ドルから4445億ドルへと3.2倍)で増加し、貿易収支が今のまま横ばいで続けば、米国はあと6年で経常収支黒字国に転換することになる。基軸通貨国である米国の経常収支均衡が視野に入り始めるとすれば、それは衝撃的である。米国からのドル供給に急ブレーキがかかるのであるから。

●米国企業の市場独占・価格支配力の強さがドル高を有利にする

 この状態でさらなるドル高が進行すれば、米国の経常収支改善ペースはもっと早まるかもしれない。米国企業のみがネットインフラのプラットフォームを提供しているので、ドル高になればドル建てでの収入維持を狙う米国企業は海外のサービス価格を現地通貨建てで引き上げる。需要家は代替手段がないので値上げに応じざるを得ない。

 他方、米国が輸入している労働集約製品の大半は、ドル高になればドル建て輸入価格が低下する。それが現地通貨建てであれば自動的にそうなるし、ドル建てであっても、互いに競争する生産国はシェアを維持するためにはドル高によって発生した(現地通貨ベースで見た)輸出価格の増加分を値下げに振り向けざるを得ないからである。

 単純化すれば、米国の輸出品(または海外で提供するサービス)が独占的で価格支配力が強く、輸入品は多くの対米輸出国が競合しているので生産者の価格支配力が弱いという非対称性の結果、ドル高で米国の交易条件は大きく改善していると考えられる。これは完全競争市場を前提とする経済学の常識が通用しない世界である。

 米国製造業製品の輸出比率(財輸出額/製造業付加価値額)、及び輸入依存度(財内需額/輸入比率)をみると、1970年ごろまでそれぞれ10%台であったものが、今日では80%前後に上昇していることがわかる。つまり、40年前はほぼ自給自足であった米国経済が今は完全に国際分業依存に代わってしまっており、それは不可逆的であるといえる。

 この相互依存貿易の中で、米国企業はより高付加価値の非価格競争分野、ネット・金融などのプラットフォームビジネスなどに特化しているのである。多くの供給国が競う低付加価値かつ労働集約的部門を他国から買い、独占的高付加価値品を他国に売る。この産業構造にとって自国通貨高が有利であることは言を俟たない。

●トランプ氏がドル安論者だという誤解

 強いドルのデメリットは米国にとっては小さい。価格競争をしている品目が少ないので競争力低下が限定的である。よく海外利益のドル換算額減少が指摘されるが、それは基本的には値上げで対処可能であろう。卑近な例で恐縮だが、たとえばWSJ紙の販売価格は円建てで値上げされている。当社が払った年間購読料は2012年9万4500円から2013年11万2800円、2014年12万9600円と値上げされたが、それは円ドルレートと連動している。つまり、2013年19%値上げ、円ドルは18%下落、2014年は14%値上げ、円ドルは8%下落となっている。

 また、トランプ氏の為替スタンスが誤解されていると思われる。中国を為替操作国に認定する等の対中批判、NAFTA批判、TPP批判などの保護貿易的傾向からドル安論者と見られがちだが、それは彼の主張するポリシーミックスとは整合的でなく、結局ドル高を容認せざるを得ないだろう。

 金融引き締め、財政出動、加えて軍拡の経済+地政学ポリシーミックスはレーガノミクスと相似形であり、それはドル高を再現させる。レーガン時代のドル高は極端であった。1978年のドルボトムから1985年プラザ合意までの7年間で実質実効ドルレートは5割上昇したが、当時米国当局は華麗なる無視(benign neglect)を決め込んだ。しかし、レーガノミクス下のドル高は米国企業の競争力を大きく低下させ貿易赤字が急拡大、財政赤字とともに双子の赤字が政治問題となり、1985年のプラザ合意によるドル高修正でトレンドは大転換した。

 今日とレーガン時代との相違点は、前述のとおり高付加価値分野の一部が米国企業のグローバル独占によって不完全競争状態になっており、ドル高でも米国の対外赤字が増加しにくい(マンデルフレミングモデルが働かない)と想定されることである。それはよりドル高圧力を一層強めることになる。

●中国危機封印のためのドル安は終わった

 なおここで付言しておくと、2016年のドル安は米国経済のファンダメンタルズの弱さを反映したものでは無く、一過性のものであった。それは1998年のルーブル危機対応の米金融緩和・ドル流動性供給によってもたらされた一過性のドル安と類似している。

 2016年のドル安は新興国、特に中国危機に対応するものであった。ルーブル危機の時には、危機が鎮静化した1999年以降、米国は利上げを再開しドル高トレンドが復元された。今回も中国の景気底割れ回避策と資本規制強化により中国通貨危機は当分封印されたとみられるので、ドル高トレンドが復元されつつあると解釈される。

<後編>へ続く

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