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【市況】武者陵司 「日本株急騰、日本経済は壮大なブームへ」<後編>

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

<前編>から続く

(3)ドル高の連鎖、勝ち組日本、負け組中国

●中国でドル高による悪連鎖が懸念される

 ドル高のデメリットは主に海外において現われるだろう。米国経常収支が改善している中でのドル高は、国際的なドル調達難をもたらす。また各国通貨の減価によりドル建てで見た国際流動性が減少し国際金融がタイト化する。加えて、ドルベースで世界経済の縮小や、海外でのドル建て債務の高負担化が起きる。各国は自国通貨を防衛するためには引き締めを余儀なくされるが、他方、国内経済の困難に対処することも迫られる。結局、各国は財政に依存した経済対策を強めざるを得ないだろう。

 特に困難化すると思われるのは中国である。まず米国好況・ドル高・米金利上昇により中国からの資本流出圧力が高まらざるを得ない。人民元の下落は巨額の対外債務を負っている中国の経済主体にとっては、大きな負担増をもたらす。中国は4.6兆ドルと外貨準備高3.2兆ドルの1.4倍の対外債務を負っているため、ドル高・人民元安が続けば深刻な打撃を受けるであろう(債務がドル建てであれ人民元建てであれ、債権者or債務者に発生する損失は変わらない)。

 そこで人民元防衛策を余儀なくされるが、それは二律背反となる。人民元の下落を抑制する政策は、ただでさえアジアの競合諸国に比して割高になっている中国の人件費を一段と高め製品の競争力を削ぐ。また、通貨防衛をすれば国内金融は引き締まるが、それは不動産バブルの崩壊リスクを高め、国内金融不安を顕在化させるかもしれない。通貨価値を維持しつつ国内経済のてこ入れを図るには、財政政策に一層働いてもらうしかない。中国の財政は比較的健全であるので、財政片肺の景気刺激ではあっても、数年間は経済の底割れは回避されるのではないか。

 しかし、中国の困難は、通貨のみならずトランプ政権の対中貿易摩擦という方面からもやってくる。今日では米国の対外貿易赤字の5割を占める中国がトランプ政権の貿易摩擦の主な標的であることは明らか。知的所有権の侵害、サイバー空間での不正アクセス、国内市場の極端な閉鎖性、政府によるあからさまな自国企業優遇、外資投資規制を維持しながらの世界の高技術企業の買収など、中国の不公正な貿易通商慣行は、批判と是正の対象になっていくだろう。

 実力以上の内需水準の維持を余儀なくされるため輸入は減り難いが、実力以上の通貨高の維持と貿易摩擦により輸出は一段と困難になるかもしれない。貿易黒字の減少、純輸出の減少は中国経済のもう一つの成長制約要因となるだろう。

●ドル高の恩恵は日本に現れる

 他方、ドル高の恩恵は、米国との間で競合商品を持っている国、特に自動車対米輸出国やドル債権保有国に現れるだろう。その最大の受益国が日本であろう。円ベースでの輸出単価の上昇により円安が企業収益の大きな押し上げ要因になることは言うまでもないが、より大きいのは日本の対外資産の増価である。

 日本の対外資産と負債の差額(純資産)は2.8兆ドルと世界最大級であり、この差額分はそのままドル高となれば、円ベースで増価する。10%のドル高で2800億ドル(=25兆円)の差益が発生する計算となる。それはほぼ3.5兆ドルに上る海外証券投資の元本増価、直接投資・証券投資から生まれるインカムゲインの増価となって日本経済を大きく支えよう。

(4)好循環に入る日本、真正の失われた20年脱却へ

●リスクテイカーが報われる環境整う、日本株急伸へ

 日本でもアベノミクスの第二弾による財政金融総動員のリフレ政策が本格化、労働需給・不動産需給改善による賃上げ、家賃上昇に加え、円安と原油価格の下落一巡により、物価上昇率が高まる。実質金利の低下は、国内のリスク資産投資を大きく鼓舞するだろう。2012年11月から2015年6月にかけての8600円から2万0860円への2.4倍上昇がアベノミクス相場第一弾であったが、今1万6000円を起点とした第二弾のアベノミクス相場が始まった可能性は濃厚である。その場合、中期2020年にかけて3万~4万円のスケールになる可能性もある。

●20年ぶりの復元、「GDP>金利」

 リスクテイカーが報われるか、裏切られるかの最も重要な条件は、経済の実勢である名目GDP成長率と、そのコストである名目長期金利との関係であろう(名目成長率と名目金利の関係は、実質成長率と実質金利との関係と同義である)。日本の名目GDPと長期金利の推移をみると、アベノミクス/量的金融緩和導入前と、後とでは全く変わっていることが明らかである。アベノミクス前の20年間(1992年から2012年まで)は「金利>GDP成長率」の関係が続き、金利(=信用)が経済成長の制約要因であった。この間リスクテイカーは裏切られ続けた。

 しかし、2013年以降、両者の関係は「GDP成長率>金利」とはっきりと逆転し、金利(=信用)が経済の促進要因になっていることが明らかである。この環境下で9月末日銀は10年国債利回りをゼロに固定することを柱とする新金融政策、イールドカーブコントロール政策を打ち出した。借り入れコストが長期にわたってほぼゼロに固定される一方、国内の物価上昇率が高まることが見えている。また米国では長期金利が大底をつけ大きく上昇に転じている。

 リスクテイカーが報われる絶好の環境が整っている。日本の負のバブル是正がいよいよ始まりつつあると考えられる。

(2016年12月14日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン173号」を転載)

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