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【市況】【井上哲男のストラテジー・アイ】


「現在の金利上昇が教えること」

 4月末から米国国債の利回りが上昇し、先週までの米国市場においては、その日中の値動きが株式市場にも影響を与えていた。ここ数年間意識されなかった金利上昇が与える株式市場への影響について、多くの悲観的なコメントが出たことから、この部分について考察する。

●テーパリング後の国債利回り推移を冷静に考える

 今回、米国国債の利回り上昇を市場が意識したのが4月28日のこと。10年国債の利回りが2%を超えたことから、その後、米国株式市場では金利上昇が企業業績に与える負の影響を懸念する声が上がってきたが、この反応はあまりにもナーバスであると感じている。

 確かに5月12日に同利回りは2.3%を超え、2週間程度で0.3%程度の上昇となったが、この2.3%という水準は今年の3月初旬にもつけており、昨年9月から11月にかけてのレンジ相場の水準でしかないのである。

 金融緩和とは、量的緩和と政策金利の低め誘導の2つに分けられるが、前者について、イエレンFRB議長がテーパリングにより縮小を宣言したのが2013年末のこと。この時点での米国10年国債の利回りが3.0%であったことを忘れてはいけない。

 その後、本来は後者の金利引き上げが意識されて、金利がさらに上昇しても不思議ではなかったが、原油市場の価格低迷とFRBによる“市場との対話の奏功”により、今年の1月に同利回りは1.7%割れ水準にまで低下した。

 丁度この時期にFRBは金利の引き上げについてコメントを多く発信するようになっているが、政策金利引き上げ前の、国債利回り水準(「発射台」)が十分に低くなったことから、メッセージの発信が市場に動揺を与えないであろうことを認識したと推測される。

 以前の寄稿において、金利低下で株式市場が上昇するのが金融相場であるが、金利が上昇する局面でも上昇するのは業績相場であると書いた。そして、テーパリング後の金利上昇時に株式市場が上昇しているのは、この好調な企業業績に加えて、グレート・ローテーション(債券から株式への資金移動、または、その逆)が働いているからだと述べた。

 債券利回りの上昇は、債券が売られて、その資金が株式に向かっていることを意味している。ファンド全体の運用資金が流出していないという前提条件が現在も続いていることを考えると、今回の「債券利回りの上昇=株式の上昇」に結びつかなかった原因は、前者の業績相場、つまり、金利上昇による負の影響を上回る好調な企業業績が数字として表れていないということである。

●日米企業業績の明暗

 ここで、前回の寄稿で述べた世界市場PERをアップデートする。FACTSET社が米国4000社以上の企業業績見込みから算出している全米PERは5月20日時点で19.82倍であるが、この数字が昨年末には17.74倍であったこと、米国の株式指数の上昇が軽微であることを考えると、このことは、米国の企業業績見込みが10%程度低下していることを意味している。

 一方で、日経平均のPERは16.33倍と、昨年末のPER15.96倍よりも上昇しているが、この間の同指数の上昇率15.73%を用いて計算すると、企業業績見込みは13.1%も上昇していることになる。

 この日米の企業業績の違いが今年に入ってからの指数上昇率の差に表れており、現在の日本株は決して相対的に見て割高ではない。

●“連鎖”のないギリシャ問題

 今回の米国債利回りの上昇の一因はやはりギリシャ問題の波及であると考えている。事実、イタリア、スペイン両国の国債は、米国よりも1ヵ月早く、3月末から金利が上昇し始めている。

 とはいえ、スペイン10年国債の先週末の利回りは1.74%であり、2012年夏に市場が動揺した際に同利回りが7%を超えたようなパニック状態にはなっていない。ギリシャ問題は、デフォルト、ユーロ圏の撤退も含めて、数週間、長くても2ヵ月以内に決着をみるであろう。
 大切なことは、もし、その結果によって一時的にパニック状態に市場が陥っても、今回のギリシャ・ショックは“連鎖のない、一時的な混乱である”と、前もって認識しておくことである。

 次の大きな材料は、10月~11月の米国債務上限引き上げ問題である。それまでは、日本株の押し目を拾うストラテジーの変更を考えていない。

2015年5月21日 記

【井上哲男 プロフィール】
 上智大学卒業後、国内保険会社での運用部門を経て、UAMジャパン・インク チーフ・ストラテジスト兼株式運用部長に転身。
 その後、プラウド投資顧問、QUICK、MCP証券などでファンドマネージャー、ストラテジストを歴任後、14年3月よりスプリングキャピタル株式会社代表。

(「チャートブック週足集」No.2025より転載)

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